ヒミツの音 〜Our Secret Notes〜

那珂乃

わたしだけのピアノ・スター(1)

 今日も空は真っ青で、教室のみんなが旅行や遊びの話で盛り上がっていると、ああもうすぐ夏休みなんだって感じがする。



 六限目、ホームルームの時間。

 黒板の前に立った学級委員の男子が、


「じゃ、二年三組の文化祭の出し物決めまーす」


 と言い出せば、クラスメイトのみんなが口々に出し物の候補を叫んでいく。


「お化け屋敷!」

「脱出ゲーム!」

「クレープ!」

「たこ焼き!」

「メイド喫茶!」

「ぎゃはは、中学生でメイドって」


 誰もが好き勝手言うものだから、学級委員の女子はチョーク片手に困った顔をしている。


「順番に言ってくれなきゃ書ききれませーん! ちゃんと手ぇ挙げて発言してください」


 はあい、とクラスメイトのみんなが返事する。




 私、あかつきわかなは一番後ろの窓際の席で、やる気いっぱいなみんなの様子をほおづえ付いて静かに眺めていた。

 別に私だけやる気がないわけじゃない。わざわざ私が発言しなくたって、クラスの出し物はみんなが勝手に決めてくれそうだから大人しくしているだけ。

 それに……私の文化祭の本命は……。




「あー、そうそう」


 思い出したように学級委員の男子が言った。


「ステージ発表だけは無しな。今年から、希望者が自分で申し込む形式に変わったんだ」

「えー、なんだあ。みんなでダンス踊りたかったのに」


 不満をもらすクラスメイトも中にはいたが、ほとんどの子はそんなに大した問題だとは感じなかったらしい。

 うずうず、と私は机の下でひざをすり合わせる。


 そう。私の本命はこっちだ。

 自分で好きなようにステージ発表へ出られるってことは……今年こそ・・・・、彼を誘える。



(ていうか、もう誘っちゃったんだよね)


 私はみんながわいわいしている間もずっと、いくつもの席を超えた向こうで縮こまっている、学ランの背中へ釘付けとなっていた。

 文化祭の話し合いが始まるのも、ステージ発表の申し込みが始まるのも今日からだって知っていたから、私は朝一番に彼の靴箱へ、お手紙を放り込んできたのだ。


 ──放課後、体育館の裏でお話ししたいことがあります──


(ちゃんと来てくれるかな?)




 如月きさらぎゆきくん。

 前髪を長めに伸ばし、両目といっしょに気配も隠すみたいに、いつも教室の隅っこでひとりぼっちな彼。




 私は今日、雪葉くんに『告白』するんだ。

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