第74話
やりたい事を実現するのは、大抵の場合はとても難しい。
何故なら、もしもそれが簡単だったら、そもそもやりたいと認識する前にさっさとやってしまっているから。
もちろん、いざやってみたら意外と簡単だったって事も、時々はあるのだけれども。
「うーん……」
僕は試作したそれを動かしながら、その難しさに眉根を寄せる。
作った物は、義肢……というか、追加の腕だ。
胸と腹の境目辺りに装着し、左右一対、二本の腕を生やす。
操作には魔力を使うのだけれど、これが両腕を同時に動かすとなると、中々に難しい。
義肢の話は、以前にもしたような気がするけれど、錬金術を用いて作られた義肢はとても優秀だった。
というのも錬金術の技術の一つには、ゴーレムと呼ばれる代物があって、その技術が使われている為だ。
魔物の中には、明らかに無機物であるのに動いて人を襲うモノがいる。
そいつ等がどうやって発生し、どうして人を襲うのかはわからないが、その動く仕組み自体は魔法だと考えて……、それを魔術の一種である錬金術で再現したのがゴーレムだ。
尤も無機物の魔物のように、自ら高度な判断を行って動くのではなく、定められた条件に従って特定の動作ができる程度でしかないのだが。
例えば罠と連動させ、そのトリガーを踏んだ誰かがいると予測した、決められた場所に矢を放つゴーレムを作る事は可能である。
しかし自ら侵入者を感知し、その相手に狙いを定めて矢を放つゴーレムは、今のところは作れない。
要するに人が作れるゴーレムは、自分で何かを感知できず、判断できず、定められた動作以外は一切取れなかった。
その程度の代物だ。
ただこのゴーレムの技術は、感知と判断を人が行い、定められた動作を幾つか取れれば十分というか、寧ろそれ以外動作を取られても困る義肢とはすこぶる相性が良い。
扱いに慣れれば、その幾つかの定められた動作の加減と組み合わせだけで、本物の腕と変わらぬ程に繊細に動く。
但し、扱う為には魔力の操作を学ばねばならず、また高価な素材をふんだんに使って作る為、余程に裕福でなければ手が届かないだろう。
そしてその余程に裕福な者であれば、肉体が欠損するような傷を負った場合、すぐに再生のポーションや、再生を行える魔術師に頼る為、義肢が必要になるケースはあまりなかった。
当然、何にでも例外はあるけれども。
今、僕が装着してる追加の腕も、そんなゴーレムの技術が使われた品だ。
試作ではあるが、いや、試作だからこそ、細かな所まで気を使って組み上げたが、やはりどうにも欠点が気になる。
まず何といっても、とても重い。
普通の人の腕でもそれなりに重いのに、王金やら魔血やらの魔法合金を使ってる上、丈夫さを求めてフレームも金属製にした為、重量が倍以上もあった。
これが片腕ならともかく両腕となると、装着してるだけで疲れてしまう。
尤もこれはあくまで試作で腕を組んだだけであり、僕が本当に作りたいのはもっと大きく、人が乗り込める外骨格というか、パワードスーツやロボットのような代物なので、重さを装着者が支える必要は、多分ない。
なので重さは、単に今、僕が重たくてしんどいだけなのだけれど、もちろん悩んでる欠点は他にも幾つかあった。
その一つは、これを動かす魔力に関して。
ゴーレムの技術で動かす義肢は、魔力の流し方で幾つかのパターンの動きを取る。
例えば指の手のひら側に魔力を流せば、指を曲げて、逆に甲側に魔力を流せば、指を伸ばすといった具合に。
これが定められた条件に従って特定の動作をするって事なのだけれど、それ以外にもゴーレムの動作自体にも魔力は必要になるのだ。
あまり正しくはない表現なのだけれど、わかり易く言うなら、動作を行う燃料って意味で。
普通の義肢なら、条件のトリガーを引いた魔力を王金で増幅し、ゴーレムを動かす為にも使う。
本来ならそれで十分に動くのだけれど、試作した追加の腕は重量がある為、トリガーを引く程度の魔力じゃ動かずに、別に燃料としての魔力を注ぐ必要もあった。
トリガーと燃料の魔力を別々に注ぐ為、普通の義肢より操作が少し難しく、また消耗も大きい。
今回は、僕が装着できる程度の大きさの腕だからまだいいけれど、実際にパワードスーツのように大きな腕を、いや、腕だけじゃなくて全身を動かすとなると、人としては魔力の保有量の多い僕でも、力尽きてしまう。
そもそも二本の腕だけじゃなくて全身を動かすとなると、どれだけ複雑な魔力の操作が必要になるのか、ちょっと想像も付かない。
このまま単純に大きくて乗り込める物を作っても、まともに動かせやしないだろう。
後、これはとても馬鹿らしくて、しかし同時に深刻な問題なのだけれど、パワードスーツのように大きな物を僕のアトリエで組み上げて、それをどうやって外に出せばいいのだろうか。
何度も述べたが、義肢でさえ多くの魔法合金を使う為、とても高価だ。
そして比べ物にならないくらい大きなパワードスーツは、普通の義肢とは比べ物にならないくらい高価な素材の塊となる。
流石に僕のアトリエの地下以外で作ろうって気には、到底ならない。
しかし折角作ったら、ほぼ間違いなく、絶対に外で乗り回したくなるのは明白だった。
僕のポシェット、マジックバッグなら中の容量的には足りるだろうけれど、入り口はとてもじゃないが通らない。
もっと入り口の大きなマジックバッグを作るか、それとも専用のカラーボールを作ってそれに詰め込むか、アトリエを大改装するか……、何らかの工夫が必要だ。
……動力、操作性、持ち運び。
腕を試作しただけで、問題は色々と露わになった。
大きく全身を作ったら、きっと巨体が立って動く為のバランサーや、搭乗者が晒される慣性も問題になるんだろう。
一つであっても頭を抱える問題が山盛りになってる。
けれども、まぁ、きっと何とかなる筈。
何故なら、僕はこれよりずっと難しい、外で活動できるホムンクルスを、既に生み出しているのだから。
時間も手間も金も掛かるだろうけれど、一つ一つの問題を解決していけば、やがてはパワードスーツのような、搭乗できるゴーレムだって完成する。
普通に考えれば不可能な事でも、僕が扱うのは錬金術だ。
錬金術も魔術の一種で、魔法を再現した技術だから、今回の問題も魔法のように解決してみせよう。
ディーチェの帰還に間に合うかは、ちょっとわからないけれど、彼女に妥協した物を見せるよりは、開発途中であっても、僕が作りたい物を、作って見せたい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます