俺と俺と
俺はついにスキルを使うことが出来る。スキルだ。そう、あのスキルだ。ハズレとすら言われているスキルでも人生を変える。あのスキルだ。
焦る気持ちを抑えつつ祈りながら能力を確認する。
「待ったのだ。あれだけ待ったのだ。すぐにスキルを使えるようになったやつらよりもいいやつを頼む!」
《
…だそうだ。説明不足に感じないこともないが、分身を作れるらしい。スキルはマジックポイントMPを消費せずに使えるので、軽い気持ちで使う。
「俺がもう一人いる…ええ怖い…」
そりゃそうだろと思うが、いざ自分を見るとなんだか気持ち悪く感じる。顔には自信があったのだかなんだか恥ずかしい。
そして、懸念していた問題ないも特に起こらなかった。「こっちが本体だ!」「いやお前がコピーだ!」なんて醜い争いが始まるかと思えば、向こうは自分がコピーという自覚を持っている。
それに手足を動かすようにコピーを動かすことが出来た。自主的に「今までの俺と同じ生活をしてくれ」と言えばダンジョンに潜って敵を倒し始めるし、「しりとりでもしよう」と言えばしりとりが始まる。
俺もなかなかいい性格をしているので、自分が二人になるのは少し嫌だったが、本当に自分の延長って感じで、いつでも消そうと思えば消せる。これはとにかく便利だぞ。まだ1割もこの能力のこと理解していないが。
それからなんとなくコピーが素材を売り、食料を買い、料理。本体の俺はダンジョンに潜り続けるという「役割」が生まれた。
「こ、これが複製の本質か…なんだこの効率のよさ…楽しすぎるだろ!」
今までは作業は苦にも楽にも思わなかったが、作業の効率化というある種の快楽を感じた。
今までの倍近くの効率での生活、二人になったからといって特に必要経験値が増えるわけでもなく(40レベル代より必要経験値は多いがそれはレベルによるもの)、今まで以上のスピードでレベル上げが出来た。あーこれ片方ずつレベル上げしなきゃいけないやって思ったのだが、コピーのレベルを見ると自分と同じ分だけ上がっていた。
こんなのはっきりいってインチキである。こんなこと分かったら今度は二人でダンジョンに潜ってみる。
「よし!俺は後ろで魔法を撃つ!俺は剣でヘイトを買ってくれ!」
めちゃくちゃな指示だが、自分の言ってることを自分で理解できないわけない!
まるで以心伝心かのように息のあった連携プレイができる。MP切れが近づいたら交代。なんて楽なんだレベル上げ。
こうして楽しくレベリングをしてお互いにレベル54まで成長をした。
だがここで肝心なことに気づく。
「あっやべギルドに報告しないと」
そうなのだ。未確認のスキルを手にしたとき、そいつはギルドに申告しなければいけないのである。レベリングの仕様等細かいことは説明する義務はないのだが、ざっくりと能力を説明しなきゃいけないのである。
「やっべー検証とレベリングにハマって忘れてたよ。」
といっても仕方ない話しでもある。普通、ギルドに新規登録したときに普通は済ませるのだ。俺は特別待遇で、スキルが使えるようになってからでいいとされたが。別に期限は決められてないが半年も遅れたらさすがにまずい。急いでギルドに向かった。
結局ギルドには分身を作る能力とだけ伝えた。実際そのように表示されたし。ここから先は俺の研究の成果であるので、簡単には教えない。
そして、ギルドにもう一人の俺を呼ぶ。すべての視線が突き刺さっている感覚がするが仕方のない。もう一人複製持ちの冒険者が生まれるまでは俺だけが異質なのだ。これは未確認スキル持ちの宿命。
ギルドもこれ以上俺に情報を聞き出すには金が発生する。まあいくら積まれても教える気等はない。
さて、これではい終わりとでもいけばいいのだが、そうはいかない。もう一人をどう扱うかの問題である。一応テイマーでコピーは従魔のように扱う方向でいくらしいのだが、細かい問題はたくさんある。奥から出てきたギルドマスターが色々と説明を始める。
二人パーティーとして扱うのか否か。
パーティーとして登録すると経験値が分配されたり、誰が以来受けて、誰が素材を提出してもパーティー単位で考える。要するにコピーが受けた依頼を俺が遂行した時の扱いだ。
そもそも冒険者二人として扱うのかどうなのか。
コピーが冒険者登録の試験を受ける必要があるのか、そのまま俺と同じランクで登録するのか。
冒険者登録するのは俺一人だとしてギルドカードは二枚用意するのか。
まあとにかく問題が色々あるのだ(税金も…)。
結局特例的に、コピーにも冒険者カードが支給され、俺のカードとリンクするということに。一応俺の分身なので、消そうと思えば消せるので税金は一人分でいいらしい。ただ店毎に一人分とるか二人分とるか揉めるのめんどくさそうだし最初から二人部屋にしようかね。
一応扱いは同一人物なのだが、区別できるように名前はマスヒト(本)と書くように、コピーの方はマスヒトAとして登録。一応パーティーメンバーとして処理をし、まあいろいろとめんどくさいことは残るのだが解決ということにした。
「疲れた…もう寝よ…」
宿に帰り(コピーはダンジョン前で野宿)、ようやく思考をやめる。俺はまだ知らなかった。二人でもめんどくさい処理がさらにめんどくさくなるとは。
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