食欲の錬金術師〜草しか食べれないエルフは禁断の錬金術に手をかける〜

第5話 朝食1

フォルテは移動した部屋で出された朝食に目を輝かせていた。

貴族といえど、朝からディナーの様な豪華な食事を食べる訳ではない。

平民よりも豪華であるが、朝食は朝食である。

しかし、それはフォルテが追い求めた物だ。

ふわふわのパン、温かそうなスープ。そして何より、ベーコンエッグである。

カリカリに焼いたベーコンの上に卵が二つも使われた目玉焼きが乗っている豪華なベーコンエッグエッグ。

ガストンから挨拶をされるまで待たないとマナー違反だと分かっているのだが、溢れてくる唾液が止まらないのは勘弁してほしい。

なんせベーコン。加工品だ。

肉とはまた違った味わいのあるフォルテの求めていた加工肉だ。

「では、恵に感謝していただきましょう」

ガストンの言葉を合図に、フォルテはナイフとフォークを器用に使ってまずはベーコンだけ切り取って口に入れる。

これだ。

フォルテは目を瞑ってベーコンにだけ集中した。

鼻から抜けるスモークの香り、脂身から程よい旨味が口に広がり、カリカリの食感を噛みしめる度にその旨味は溢れ出てくる。

「本当に食べても大丈夫なのですか？」

フォルテが感動に浸っていると、隣で野菜（草）をつついているケミーニアが質問をしてきた。

フォルテはその何もかかってない野菜を食べるケミーニアを見て、可哀想な子を見る様な目でベーコンの美味しさを語って聞かせる。

「ああ。焦げないよう丁寧に焼かれたこのカリカリの食感、鼻を抜ける加工された時のスモークの香り、ほのかに甘みのある旨味が凝縮された脂が噛むほどに溢れ出て口を潤してくれる感覚。素晴らしいぞ？　そのヘルシーな食べ物では味わえない物だ」

「ヘルシーですか？」

ケミーニアは言葉が分からずに首を傾げている。

「今はお前に説明している時間も惜しい。次は、卵だ」

一口で行くのは勿体無いのだが、以前はこの食べ方が好きだったのでフォルテは同じ食べ方をする事にする。

まずは黄身の部分を少しつついて固さを確かめる。

よし、半熟手前のプルンとした食感にフォルテは心の中でガッツポーズをした。

二つの目玉のうち、片方に当たる一個の卵を大きく切り取り、一口で口に放り込む。

初めに広がるのは胡椒の香り、ほんのりとした塩味。

そして噛みしめればついに半熟に焼かれた黄身が一気に弾けて口いっぱいに広がっていく。

濃厚な黄身の味を白身の食感を楽しみながらじっくりと味わった。

「どうした？」

飲み込んだ後、ケミーニアがじっと見ている事に気づいて声をかけた。

「そんなに幸せそうなフォルテ様は初めて見ました」

「幸せだからな」

フォルテの満面の笑みを見て、ケミーニアが唾を飲み込んだ事は本人さえも気づいていない。

「ガストン、ケチャップはあるか？」

「ケチャップですか？」

「トマトソースだ」

「はい。今お待ちします」

フォルテの質問にガストンはキョトンとしていたが、トマトソースで理解したのか使用人に持ってくる様に伝えた。

待っている間にフォルテはスープをいただく事にした。

「うまい」

自然と声が漏れた。

昨日のミルク粥に使われたコンソメスープであろう。

ただ、ミルクで薄められていない分味、味が濃厚である。

透明なスープに関わらず野菜とベーコンの旨みが流れ込んでくる。

スープを楽しんでいるうちに、トマトソースが届いた。

フォルテは待ってましたとばかりにトマトソースを受け取り、パンを手にとってニヤリと笑う。

そして、朝食はメインへと進むのであった。