第4話 朝食を待つエルフ
朝、フォルテは牢屋に響いた階段を降りる足音で目を覚ました。
フォルテにとって睡眠欲に勝るのが食欲であり、階段の音は朝食の時間を想像させた。
フォルテの舌には昨日のミルク粥の記憶が残っている。
そもそも、この牢屋に止まったのは朝食の為である。
正直ここを出るのなんて簡単だし、外の方が美味しいものが食べられるであろう事は分かっている。
しかし、今のフォルテは無一文である事に気づいた。
外に出てもすぐにお金を稼ぐ当てもないし、朝ごはんのメニューが昨日のミルク粥と違うなら、それの味も気になる。と言う理由で一泊したのだ。
フォルテは、階段から降りてくる食事を持ってくるであろう兵士の事を、心待ちにしていた。
しかし、その足跡と共に現れた人物は領主のガストンと他2人で、朝飯を持っている様子もない。
フォルテはあからさまにガッカリした顔をした。
死んだ様な顔と表現できる程に表情が消えた。
フォルテが早起きしたのは無駄だったと考え出した時、牢屋にやってきたガストン達がフォルテの檻の前までやって来た。
「こやつでございます」
「フォ、フォルテ様!」
ガストンの声の後に、隣の女性がフォルテを見て驚きの声を上げた。
「ケミーニア様?」
「フォルテ様ではありませんか? なぜこの様なおいたわしい事に?」
ガストンが隣に並んだエルフの女性、ケミーニアに声を掛けるが、ケミーニアはガストンの言葉に耳を貸す事なく、檻の中のフォルテに向かって話しかけた。
「お前は誰だ?」
フォルテがケミーニアを「お前」呼ばわりした事にガストンが顔を真っ赤にして怒ろうとするが、その言葉が発せられる前にケミーニアが質問に答えた。
「アルテルとガーナスの二番目の子ケミーニアでございます。300年前に頭を撫でてくださったのを覚えてらっしゃいますでしょうか?」
ケミーニアの言葉にフォルテははて、と考えたが、300年も前のことなど覚えていない。
フォルテはハイエルフとして研究の間にエルフの子供達に祝福を与える儀式を頼まれてやっていた事がある。
その時だろうかなどと考えを巡らせるが、答えは出て来ない。
フォルテが返事を返さない事で察したのかケミーニアは苦笑いで話をした。
「覚えておりませんか。たしかにあの時は私もまだ子供でしたから。今一度名乗らせて来ただきますケミーニア・フロストと申します。どうぞそのままケミーニアとお呼びください」
「わかった」
ケミーニアの話に、フォルテが頷いた所で、ガストンがおずおずと質問をする。
先程は顔を赤くしていたのに今は青くなっている。
ケミーニアの態度を見て、自分は相当まずい事をしたのではないかと思い至ったのだ。
「ケミーニア様、この方は、お知り合いで?」
ケミーニアはガストンと質問に「知り合いどころではない」と前置きを言って質問に答えた。
「フォルテ様はエルフ族の全てを率いるハイエルフ様の内のお一人だ」
ケミーニアの説明にガストンは青い顔を更に青くした。
そのエルフを率いるハイエルフ様は只今絶賛檻の中に入っておりそこで一晩過ごしている。そしてそれを指示したのはガストンなのだ。
「ケミーニア様、こ、これは、そのぅ」
おどおどと弁明を計ろうとするガストンを無視して、ケミーニアはフォルテに質問をした。
「しかしフォルテ様、フォルテ様はガストンに肉を食わせろと言ったと聞きました。どう言う事でしょうか?」
フォルテが檻に入れられているのはエルフなのに肉が食べたいと言ったから、エルフを騙ったからだとケミーニアは聞いている。
ガストンは、ハイエルフならば肉が食べられるのだろうかと誤解しているようだが、ハイエルフであってもエルフと同じ様に肉を食べることはできない。
これは宗教的な問題ではなくエルフという種族が草食動物として肉を消化する器官を持たないからだ。
故に肉を食べようとしても体が拒絶する。
人が不味いものを食べようとした時に喉が拒否してしまう様に。
だから、フォルテが肉を所望する事が不思議だとケミーニアは思ったのだ。
「その事か。俺は常日頃から
フォルテの力説にケミーニアは圧倒されるが、理解はできなかった。
前世の記憶を持つフォルテと違ってケミーニアは野菜だけの食事に疑問を持った事など無かったからだ。
「それよりも領主よ、朝ごはんはまだなのか?」
フォルテは説明を終えると食事のことを思い出し、檻の中に居ながらガストンに直接質問した。
「は、はい! では、これからの話は朝食を食べながら話をしましょう。おい、鍵をあけて差し上げろ!」
ガストンは目の前の2人が自分に怒りを向けていないので、汚名返上できる様に立ち回る様に慌てて行動に移した。
牢屋から場所を変えて、朝食を取りながら話をする為に、フォルテ達は移動をするのであった。
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