第三章 せっかくのお茶会、張り切ってまいりますわ(3)
「……ずいぶん、熱心に目を通されているんですね」
メルから届けられた新聞を読みふけるエイベルに、ティモシーが声をかける。
「おまえはたまに読むらしいが、この号は読んだか」
「いえ、今回は姫君の侍女どのから届けられたのを殿下にお渡ししたのみです」
来い、というようにエイベルが目線で示すのでティモシーは歩み寄る。
「『スラム出の王女、第一皇子を籠絡する』……なんだって?」
差し出された新聞を目にして、ティモシーは声を上げた。
「いくつもの縁組を破談にしてきた氷皇子ことエイベル皇子。それがいまや、野蛮で下賤な生まれ育ちの庶子姫に手玉に取られていうなり……。そんな、アンジェリカ姫君はほがらかでお優しいお方です。どこからこんな事実無根なうわさが!」
横からエイベルが手を伸ばし、人差し指でとある箇所をとんとん、と叩く。
そこに記載された記者名は〝ジェリ〟。
きょとんとするティモシーに、エイベルはそっけなく答える。
「これは釣り記事だ。投資のために世情に敏感なミルドレッドの興味を引いて、僕たちを社交界に引っ張り出させたわけだ」
「え……っと、つまりその、皇女殿下を狙った記事だった、と?」
「ミルドレッド目当てかはわからない。だが〝彼女〟が民衆のあいだで騒ぎになるほど注目されれば、貴族らも皇室も黙ってはいないはずだ」
エイベルの口元に、小さな笑みがよぎる。
「彼女が茶会でなにをしでかすか、興味が湧いてきた」
「それはいいですね!」
なに、とエイベルが眉をひそめて見上げると、忠実な騎士は自身の金髪のような明るい笑みを主君に向ける。
「殿下が姫との会話を楽しんでおられてよかったと思ってました。ずっと打ち沈んで過ごしていた殿下が、どなたかに関心を向けられるのは、おれも嬉しいです」
「……馬鹿な」
苦々しくエイベルは吐き捨てるが、ティモシーはにっこりと笑いかける。
「母が、張り切っておふたりの支度を整えると申しております。久々の社交の場、どうぞ殿下も楽しんできてください」
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気になる続きは、明日9月26日更新!
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