第4章 王都アンビリカード

第22話 ようやく王都に辿り着いた

 途中で何度か休憩を挟みつつ数日後。

 俺たちはようやく王都にたどり着いた。


「ふわー、あれが王都っすか! おっきいっす~~!!」

「正式名称は王都アンビリカード。王国でもっとも高い城壁に囲まれた街で、隠しアイテムもザクザクよ。もちろん美味しいご飯もね」

「わんわん!!」

「ぽっぽ!!」


 聳え立つ城壁にビビット達が楽しそうな声を上げる。

 壁の高さは約10m。世界地図で確認すると、全周は何十キロにも及ぶようだ。ファンタジーでなければ有り得ないサイズだな。


 城門には長い列が出来ていたので、俺たちも最後尾に並ぶ。


「ヒュー! お嬢ちゃんたち良いおっぱいだな!! 一晩どうだ?」

「二人とも王都は初めてか? 俺の愛人にならねーか?」


 しかし暑いからと油断してマントを脱いだのがいけなかったのか、即座に男どもが寄ってきた。


「……くっ、こんなところで私のドスケベボディがバレてしまうなんて」

「ご主人さま、意外とノリノリっすね」

「それほどでもない」


 しまった。アビスリンもビビットもドスケベボディなのを失念していた。

 男どもは特に胸と尻に夢中だ。俺は中身が男なので気にならないが、純粋な女性にはキツイだろう。ビビットも少し居心地が悪そうにしている。


 それでも王都に入れなくなると困るので暫く無視していたが、男たちが段々と調子こいてきたので対策することに。


「……だから俺らと一緒に来いって。毎日気持ちよくしてやるぜぇ~?」

「あひゃっひゃっひゃ! 宿でたっぷり可愛がってやんよ!!」

「う~ん、この性欲のサルども。こうなったらしょうがない。――いでよ岩ゴーレム~~~!!」

「えー、ここで使うんすか!?」


 ――ジャーン! ジャーン! ジャーン!!


「「「げぇっ! 岩ゴーレム!!!」」」


 なので俺は手に入れたばかりの杖を使う。

 すぐ隣の空間に全長3mのぶっとい岩人形がご登場だ。

 殴られたら腕の一、二本は軽くへし折れそうな威圧感が有る。まともな人間なら近づこうなんて思わないだろう。


「岩ゴーレム、ガバっとやっちゃいなさい」

「お、おい! ちょっとまて!?」

「そんなガバ指示で大丈夫っすか?」


 俺の緻密な指示を受け、岩ゴーレムがナンパ男の一人を片手で掴む。

 そしてもう片方の手で地面を掘ると、そこに掴んだ男を埋め始めた。

 他の男たちは地面から首だけ出たナンパ男を見ると、即座に逃げ出してしまった。


「上手くいったわね。暫くこのままにしておきましょう」

「掘り返さなくていいんすか?」

「そのうち誰かが掘り返してくれるでしょ」


 丁度いいので岩ゴーレムは隣に立たせたままにする。

 それからは誰も声をかけてこなくなった。ナイスなボディガードっぷりだ。

 やはり(護衛的な意味で)分かりやすい暴力があると便利だな~。


「よし、次の者!!」

「やれやれ、やっと私達の番ね。ゴーレムは解除してっと」

「あっ、ちゃんと解除するんすね」


 そうして2時間ほど待つと、ようやく順番が回ってきた。

 岩ゴーレムは解除するまで出現しっぱなしだった。一度出すと最低でも2時間は持つらしい。


「何か身分を証明する物は有るか? なければ入場料は1人銀貨1枚だ」

「無いわ。二人分よろしく」


 門番の案内は完全に流れ作業。

 余計なことを言ってこないのは好感が持てるね。たぶん人が多すぎて余裕がないんだろうけど。

 俺もとっとと入りたいので素直に銀貨を渡した。二人分で2万ギルピー。


「銀貨2枚確かに。後はこの水晶に触れて『犯罪行為を行っていません』と言ってくれ」

「これに触ればいいの?」

「ああ、触って言ってくれれば十分だ」


 門番さんに金を払ったら、次は台座に設置された青い水晶に触れる。

 これはどこでも使われている簡易な嘘発見器で、手を載せて嘘をつくと水晶の色が変わるらしい。


「「犯罪行為を行っていません」」

「……水晶は青のまま。よし、嘘はないな。先に進んでくれ」


 俺たちが指定された文言を言うと、水晶は青いままだった。

 よかった。ちょっとドキドキしたが正当防衛と山賊狩りはセーフらしい。

 人攫いも聖騎士もメイドも村長の件も、今までの行動は全く問題無いということになる。正義は我にありだ。こんなガバ判定で大丈夫か?


 ちなみにこの水晶は嘘をつくと真っ赤に光るようで、ナンパ男達の中に居たヒョロ長の金髪アフロが連行されていた。


「おい、お前!! 嘘をついたな!? こっちに来い!!」

「ちっ、違うぞ!? これは罠だ!! これわなな!!!」

「何が違う? 水晶が赤く光ったではないか。連れて行け!!」

「これわななーーーーーーーッ!!!」


 珍しい髪型な上、金色のギターのような楽器まで持っている。

 たぶん吟遊詩人なのだろう。叫び声が大きすぎて滅茶苦茶目立ってる。


「あの人、どうなるんすかね?」

「私もそこまでは知らないわ。たぶん取り調べて放り出されるんじゃない? 街の外に」


 まぁ興味がない人なのでどうでもいい。

 留置所で兵隊さんとワンナイトラブでもやっててくれ。

 俺は彼を記憶から消し、さっさと王都の中へ踏み込む。


「ふー、やっと王都に入れたわね」

「列に並んでから長かったっすねー。うわぁー、どこも人がいっぱい」


 門を通って王都に入ると、中には異国情緒あふれる光景が広がっていた。

 中央に向かって伸びる石畳は幅が6車線分ぐらいある。その端には建物が乱立している。木と石で作られたヨーロッパ風の街だ。


「えっと、あの人達って種族は」

「獣が二足歩行してるようなのが獣人種。鱗が生えてるのが鱗人種。あと羽が生えてるのは翼人種ね。広義の意味ではみんな人間よ。邪魔になるから端に寄りましょう」


 それから通りを歩いている人種も多種多様。

 毛むくじゃらな獣顔の獣人に、全身に爬虫類のような鱗を生やしている鱗人。他にも背中から翼が生えていたり、やたらとデカイ巨人もいる。比率は普通の人7:他3ぐらい。

 ただし言葉が喋れて二足歩行だと全部「人間」扱いなので、いちいち気にする必要はない。


「聖女神ウィアリース様のお力を世界に!! ――〈治療ヒール〉!!」

「みんなで聖女神様をたたえましょう!! ――〈治療ヒール〉!!」

「聖女神様のお力で世界を満たす為に!! ――〈治療ヒール〉!!」


 そんな道の端では、教会のシスターと思わしき人たち魔法を使っていた。

 白い法衣を纏ったシスター達が横一列に並び、空に向かって初歩の神聖(回復)魔法を撃っている。


「あれは何をしてるっすか? あんなことしても魔力が無駄になるだけじゃ?」

「あれはそういう教義なのよ。ああして魔法を使うことで、世界を聖女神の力で満たすつもりらしいわ」

「世界を聖女神の力で……?」


 不思議に思ったのかビビットが首を傾げる。

 全く持って正しい疑問だ。俺もゲーム知識がなければ同じことを思っただろう。

 回復魔法=神の奇跡=使ってほしければ金を払え、ってのは創作物に出てくる教会のお約束だからな。


 しかしこの世界の聖女神教はちょっと違う。

 この宗教では魔力が余ると、神聖魔法をする。


 これはこの世界の神聖魔法が、聖女神のすることで傷を癒やす、という風に教えられているからだ。

 そのためシスター達は世界を聖女神のエネルギーで満たそうと、魔力が余るたびに回復魔法を使う訳である。


 なおこの教えは別に間違っていない。公式でも肯定されている。

 ただし聖女神の力はなので、こうして無駄撃ちしまくってるのが原因で聖女神は死んでしまうのだが。

 例えるなら湖(女神)から水(力)を汲み過ぎて枯らしてしまう的な? 裏の事情を知ってたら実にアホらしいな。


「まぁここまで教義として広まってると止めるのは無理ね。聖女神教は世界最大の宗教だし、余計なことはしないのが吉よ」

「別に止める気はないっすよ? 単に気になっただけで」


 しかも北にある聖タニマキワ教国に至っては、これを国を揚げて行っている。

 なのでもはや聖女神の死はどうしようもない。真綿で首を閉められるような死に方だな。


 ちなみに考察班によると聖女神の名前の元ネタは「過労」らしい。

 聖女神ウィアリース=weariness(疲れ果てた状態、エネルギーの枯渇)である。酷すぎて笑えないね。


「救いがなくて悲しくなるわね(他人事)」

「悲しい? 何の話っすか?」

「いや何でも無いわ。それより早く宿を探しましょう」


 俺たちはそんなシスターの前を素通りして街中に踏み込む。

 さり気なく掛けてくれた神聖魔法の心地よさを体感しながら。


「今夜は高級宿でパーティよ! 美味しい料理とお酒で乾杯しましょう!!」

「美味しい料理とお酒!! やったぁーーーー!!」

「わんわんお!!」


 宿は奮発して一泊5万ギルピーのとこにした。

 もちろん風呂付きである。旅の垢を落として料理と酒を楽しんだら、その後はお楽しみのエロエロタイムだ。


 ダブルベッドで女の子二人が組んず解れつ……。

 フヘヘヘヘ、心のチンチンが熱くなるぜ!!

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