第21話 ババンデッド村の末路
「上手くやったわね。復讐を果たした気分はどう?」
「なんだかすごくスッキリっす!! 胸のモヤモヤが晴れたっすよ」
「おっ、それはよかった。ここまで来た甲斐があったわね」
「はいっす!!」
俺は満面の笑みのビビットを肯定する。
良かった良かった。たまに復讐は何も産まないとか言う人がいるけど、やり返すのは人間として当たり前の権利だよな。
某ハリウッドスターのコラ画像も「すっきりするからヤッたほうが良い」と言っていたし間違ってないはず。モタモタしてたら世界が滅んじゃうし、殴られたら早めに殴り返しておかないとね。
「ではでは、ここからはお待ちかねの慰謝料徴収タイムね。隠し場所って分かる?」
「えーと、たぶん床にあると思うっす。恐らくこの辺りに……あったっす!!」
「よく分かるわね。でもよくやった!!」
感触と音の違いとかで探ってるのかな?
ビビットはしゃがんで床を叩いて回ると、部屋の隅の方の床を外した。
その下には案の定、貴重品が詰まってそうな木箱があった。ウキウキしながら蓋を開ると、中からは布袋が4つ出てきた。
「おー、けっこう溜め込んでるじゃない」
「うわぁ、通貨がこんなにいっぱい……」
1つ目の袋を開いてみると、白金貨1枚と金貨30枚が入っていた。
残りの2袋は丸ごと銀貨。1袋100枚だとして200枚。全部で600万ギルピーの大金だ。4つ目の袋にも宝石と指輪が複数。
これは恐らく商人たちから奪った物だろう。銅貨は村人に渡したのかな?
昔読んだラノベで「賊は貯金箱」なんて言われていたけど、正にその通りだ。
もちろん全て遠慮なく頂いていく。王国の法だと犯罪者の物は奪ってもセーフなんだよね。
「持ったままだと動きづらいからお願い」
「ぜんぶアイテムボックスに入れとくっすね」
このまま運ぶと音がするので、ビビットのアイテムボックスに仕舞って貰う。
通貨1枚で10g、232枚でも2.32kg程度。Lvアップでアイテムボックスは7kgまで入るようになったから、これぐらいは平気だろう。
あと村長が持ってた杖もボッシュート。
「杖は私が持ち出すわ。それで最後に村長だけど、これどうしようかしら?」
「殴れて満足したんで、あとはご主人さまがお好きにどうぞっす」
「そう? なら軽く悪戯してお終いにしましょうか」
「皮は剥がないっすか?」
「いやそんな事しないわよ!?」
ナチュラルに皮を剥ごうとするビビットにびびる。
生粋の森育ちってみんなこうなのかな? 平気で生皮剥ごうとするの怖い!!
でも俺はここで村長を殺す気はないんだよね。
サイコパスなら躊躇なく殺すんだろうけど、刃物で殺すのはまだ忌避感がある。
スキルや魔法を撃つのはいいんだけどな。銃で殺すかナイフで殺すか的な? これも早めに慣れないとダメなんだろう。
他には街まで連れて行って、騎士団に突き出すという手もあるが……。
そこまで正義感が強くない俺は、そんな面倒な事をする気にはなれなかった。
ぶっちゃけこんな村なんてどうでもいいしな。なのでここは悪戯で済ませることにする。
「という訳で、まずは衣服を剥ぎ取ります」
「服を? 下まで全部?」
「履いていた下着まで全部よ。後は目隠しの代わりに、村長が自身が履いていたパンツを被せてっと」
ビビットと二人でテキパキと村長から服を脱がせる。
村長が履いてたのは原始的なカボチャパンツだ。エロさなんて欠片もない。
それをもっとも臭う部分が鼻に来るようにして頭に被せた。ちょっと湿っていたが、ゲロ以下の臭いがプンプンする村長なら、きっと気に入ってくれるだろう。
「うわぁ、どこからどうみても変態っす」
「変態●面ならぬ、異世界ファンタジー版の変態ジジイって感じね」
これならきっとドラゴンもびっくりして逃げ出すに違いない。
弱い村人なら腰を抜かす事間違いなしだ。ミッションコンプリート!!
「ではこの辺でオサラバしましょう」
「そうっすね。あとは無事に逃げるだけ……あっ!!」
――しかしその時、今です!! と言わんばかりに突風が吹いた。
窓から乱入した風は蝋燭台を倒し、纏めて置かれていた紫色の布に引火。
更に追加の強風で燃えている布が飛び上がり、火は瞬く間に家全体へと広がった。
「……ご主人様、急に部屋中が燃え始めたっす」
「……ほんと、天井まで燃えてるわね。手抜き建築だったのかな?」
ボウボウと広がり始めた火を唖然と見つめる。
こうなるともう消化は不可能だろう。
俺の炎魔法は着火専門で、逆に消す魔法はないんだよなぁ。
「私達も急いで逃げましょう。その前に村長を玄関に運ぶわよ」
「このまま(裸)の状態で?」
「この裸パンツの状態でよ。私が引きずっていくから、ビビットは酒瓶を持ってきて」
「この火事を酔った村長のせいに事にするんすね? 了解っす」
流石にこのまま死なれると寝覚めが悪くなる。
なので俺たちは急いで村長を玄関まで移動させた。
これで後は村人が村長を助けてくれるだろう。ちゃんと足元には酒瓶も転がしておいたので工作も完璧だ。優しすぎて涙が出てくるな(煙が沁みる)
その後、俺たちは侵入した時と同じルートで村から脱出。
カイエン達が待つ丘へ帰ってきた時には、村長の家から盛大に火の手が上がっていた。
「うわぁ、なんだか凄いことになってるわね」
「村全体が燃えまくってるっすね……」
村長の家から飛んだ火種が、強風で村全体に広がっている。
……なんだこれは? 俺たちの侵入に合わせるように吹き始めた強風といい、紫の布に火が付いたタイミングといい、これではまるで殺された商人たちの怨念が、村を襲っているかのようではないか。
「あと村長はボコボコにされてるわね」
「みんなガチキレっす。こわっ!!」
ちなみに顔面パンツで救出された村長は、全裸のまま村人に殴られていた。
マッチョな村人が襟首を掴んで叫んでいる。杖もパクってきたし、これは火が消えても威張るのは無理だな。
「やるべきことはやったし、そろそろ行きましょうか」
「あの、もう少しだけ、村を見ててもいいっすか?」
「ん? いいわよ。最後だものね、好きだけ見るといいわ」
ふと横を見れば、ビビットは最後に村の光景を目に焼き付けていた。
もしかして悲しんでいるのだろうか?
というか今更だが復讐の為とは言え、村ごと燃やすのは流石にやり過ぎだよな。うーむ、こういう時って、どういう顔をしたらいいんだろう?
「……………………」
村を見つめるビビットの表情からは感情が読み取れない。
まずい、これは好感度が下がったか? いやでも復讐事態は完了したし多少は上がったのでは?
果たしてビビットの好感度はどうなってしまったのか……? 頼む上がっててくれ!! 頼む!!!!
「……ご主人さま。ありがとうございました」
「えっ!? ……い、いやいいのよ?」
ビビットがお礼とともに俺に抱きつく。
ま、まさかこれは上手く行ったのか!?
「わたし何でもするっす。だから……ずっと側に置いてもらえますか?」
「……もちろんよ!! だって貴方は私の真の仲間なんだから!!」
おお、ずっと一緒宣言だ。
やったぜ!! パーフェクトコミュニケーション!!!
どうやらちゃんと好感度は稼げたようだ。というか限界まで上がったっぽいな。
今なら押し倒しても照れながら受け入れてくれそう。
ウルっとした目でコチラを見上げる様が大変可愛らしい。ああ~、背筋がゾクゾクしてくるんじゃぁ~~!!
「村でやることは終わったし、もう行きましょう」
「はいっす!!」
「ぽぽっぽ!!」
「わんわん!!」
おお、良い返事だ。流石はPTメンバー、一心同体だな。
こうして全てを終えた俺たちは、カイエンに乗って再び闇に紛れた。
『なんでこうなったんじゃぁ~~~~~~~~!!!』
『うるせーーー! てめぇのせいだろうがぁーーーー!!!』
『ぎゃーー! 殴るのは止めっ……・ぶふぃひいいいいぃいいいーーーーー!!!!』
村から風に乗って流れてくる、そんな奇声を聞きながら。
次はいよいよ王都へ直行だ。
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