第20話 お仕置きタイム
「一旦もどって昼食にしましょう」
「はいっす。ナベベも抱えていくっすね」
「くぅ~ん」
さて無事にナベベを回収できたので、一旦カイエンが待つ丘へ戻ってきた。
小腹が空いたので昼食代わりに買い置きの串肉を食べる。
ナベベとカイエンも相性は悪くないようで、串から外した肉を一緒にパクパクしている。仲良くできそうで何より。
そのまま俺たちは村の観察を続ける。
商人の馬車はいつの間にか村の中央広場に引き入れられていた。
そこから女達がキャイキャイと嬉しそうに商品を抱えていく。死んだ商人と護衛3人は男達が穴に埋めていた。証拠隠滅中。
「どうやら村人全員がグルみたいね」
その動きは一切の迷いがない。むしろ手慣れているようだ。
恐らく商人を襲うのは今回が初めてではないのだろう。
やっぱここ村じゃない、野盗の砦だよ!!
「……一応聞くけど、昔からこうだったの?」
「いえ昔はこんなに酷い村では。確かに色々と理不尽なこともあったけど、ここまでハッチャケてはなかったっす」
「とすると変わったのは最近か。まぁ十中八九、原因は村長が持ってた杖でしょうね」
会話から推測するに、あの杖を手に入れてこうなったと考えるべきだろう。
アレは岩ゴーレムを召喚する杖だ。防護柵もゴーレムを操って作ったんだろうな。急に力を持ってタガが外れてしまった的な?
「たぶんビビットを売ったお金で買ったんでしょうね」
「お金が村の防備に使われてたのはまだしも、村そのものが闇堕ちしてるのは喜べないっす」
「でしょうね。あれは流石にないわー」
自分が出ていった村の現状を理解したビビットは力なく笑った。
確かにショックだろうな。生まれ育った村が丸ごと野盗化って中々ないぞ。
「そういえば子供の姿が全く見えないけど、村にはいなかったの?」
「いや居ましたけど。たぶんまともな人は出て行ったんじゃないっすか?」
「確かに家族が居たらこんな村には残れないか……」
とすると逆に村に残っているのは、自分の意志で野盗化した者達って事になる。
だがそれでも俺たちのやることは変わらない。
こっそり村長を一発殴るだけだ。だって別に野盗退治に来た訳じゃないからね。そういうのは税金集めてる人達の仕事。
「ならここは大人しく夜になるのを待って、村長の家に忍び込みましょう」
「他の人達はどうするっすか?」
「その辺は放置ね。今回以外にもやらかしてるっぽいし、複数の商人が帰ってこないとなれば、誰かが調査に来るはずよ。そうなれば……」
「どっちにしろ村は終わりっすか」
「そうね。悲しいけどそうなると思う」
まぁ商人を襲った時点でこの村はほぼ終わりだ。
必ず調査員が送られてくるだろうし、それを誤魔化せても商人が寄り付かなくなれば物資が不足するからな。
ワンチャン周囲の村を吸収して、一大野盗団化するかもしれないけど。そうなったら今度は領主の騎士団が出張ってくるだろう。
その後、俺たちは交代で仮眠を取り、日が落ちてから村に近づいた。
風がビュービュー吹く中、マントとフードで全身を隠し仮面まで装備。これなら見つかっても正体がバレることはないはず。
それからナベベは食事後すぐ寝てしまったので、カイエンと一緒にお留守番。
助けたときにはギリギリの状態だったから、きっと体が休息を求めているのだろう。
「風が強いからマントが脱げないように気をつけるのよ」
「はいっす。では少し村の様子を見てくるっすね」
「どう? 行けそう?」
「見張りは外に1人だけ。これなら簡単に入れるっす」
暗くて俺には全く分からないが、ビビットには[暗視]スキルがある。
おかげで昼のようにハッキリ見えているのだろう。更に〈鷹の目〉と併用することで、丘から村の細部を見渡せる。
そのビビットによれば、見張りは唯一の出入り門に一人だけらしい。
それでいて村の中を巡回してる人もいないとか。
きっと立派な防護壁があるから安心してるのだろう。
「でもそんな立派な防護壁でも、人間は防げないのよねー」
「ロープを掛けるのは任せてほしいっす」
「OK、ちゃっちゃと侵入しましょ」
こっそりと防護柵に近づいた俺たちはロープを引っ掛けて登る。
壁に使われてる丸太は先端が鋭く尖っているので簡単にかかった。
ロープは一定間隔で結び目を作っておいたので登りやすい。
「こういうのも意外と楽しいわね。忍者になった気分」
「忍者っすか?」
「ええ、スケスケ衣装で寝室に忍び込むプロよ(偏見)」
「それって娼婦が夜這いしてるだけなんじゃ?」
「だいたい合ってる」
まぁ忍者=くノ一=ドスケベ、だから間違ってはいないだろう。
ロープを握り視線を上げると、ビビットがスイスイと登っていく様が見えた。
熟練のレンジャーっぽい動きだ。尻が左右に振られてる。俺も遅れないように頑張ってロープを登った。
そうして村に入り込めたら、今度は村長の家へ直行。
「誰にも気づかれてないわね? このまま村長宅の裏へ行きましょう。案内をお願い」
「出来るだけ死角を進んで行くっす。足元に気をつけて」
「OK、スネークみたいでワクワクしてきたわ。ダンボールはないけど」
「すねーく? だんぼーる??」
不思議な顔をするビビットを先頭にコソコソと村を進む。
村長の家は村の奥だ。一番近い柵を超えてきたので忍び込みやすい。
それも日本の都市と違い村に街灯なんてものはなく、空は曇りで月明かりもないから外はほぼ真っ暗。これなら音さえ立てなければ見つかる事はないだろう。
「ビビット、他に人の気配は?」
「んー、[気配察知]には反応がないっす。少なくとも家の中にいるのは村長だけみたいっすね」
「ほほう、それは都合がいいわね」
しばらくして俺たちは誰にも見つからずに、村長の家の裏に辿り着いた。
すぐビビットが[気配察知]を使う。Lv7現在の察知半径は35m。
家一軒分を丸ごと探ることが可能である。やっぱレンジャーって神だわ。
「では軽く様子を伺ってみましょうか。どれどれ……」
俺たちは村長がいる部屋を覗き込む。
灯りが漏れている窓から慎重に中を伺うと、8畳ほどの部屋で村長が酒を飲んでいた。窓を背にしているので、ハゲた後頭部がよく見える。
「ふぉーふぉっふぉふぉ。上手く行った! また上手く行ったわい!! やはりワシの判断は間違いなかったんじゃぁ~」
村長は上機嫌で酒瓶を傾けていた。
足元には中身のない空瓶が3つも転がっている。ただで物資が手に入ったのがよほど嬉しかったのか、かなり酔っているようだ。
他には少し離れた場所に高そうな紫色の布が高積されている。こっちは奪った商品の一部だろう。
「それもこれもこの杖のおかげじゃ!! ビビットの父親はモンスターに負けるカスじゃったが、娘は最後に役立ったのぉ。おかげで優雅な暮らしができるわい!! ふぉーふぉっふぉっふぉ!!!」
「村の防衛をお父さん1人に押し付けてたくせに、あのクズ……グギギギギ!!」
「まぁまぁ落ち着いて。すぐ殴らせてあげるから、ね?」
キレ始めたビビットを何とか抑える。
その間も村長は1人で勝手にベラベラと喋っていた。痴呆症かな?
うーん、しかしこれは想像以上のクズ!! 命がけで村を守っていた人間をカス呼ばわりとは。
「ワシはこの力でもっともっと豊かに暮らすんじゃぁ~~!! ゴーレムで脅してやった他の村もすぐに服従するじゃろうし、このままこの地の大領主となってくれるわ!! 見える、見えるぞぉ~、ワシが王となって称賛される姿がっ!! フハハハハハハハッ!!!!!!」
……なんかすごい夢みてる!!
でもどう考えてもありえないよな。領主の騎士団に踏み潰されるのがオチだろう。
こうなると遠慮する必要はどこにもないな。
「ここまで酷いと逆に凄いわね。私達が何かしなくても勝手に転落しそう」
「そうっすね。もう完全に村への愛想が尽きたっす」
「それならガツンとやっちゃいなさい」
「では行ってくるっす」
俺が小声でGOサインを出すと、ビビットは窓からスルリと室内に入り込んだ。
音を立てない見事の着地だ。酒を飲んでいる村長は全く気づいていない。
ビビットはそのまま村長に近づくと、背後から右手で口を塞ぎ、体を捻った勢いで――脇腹に左フック!!
「おっぐはぁーーー!!?」
素晴らしいアンブッシュ!! 驚く村長にビビットの拳が突き刺さる。
自身を売られたのに加え、父親を馬鹿にされた怒りを込めた一撃だ。
更に追加の左フック連打が村長を襲うッ!!
――フック!! フック!! フック!! マックの家!! マックの家!!
「ぐぼっ! ガボッ! ごぼぉおおおお!!! なんじゃ……ぐええええぇ」
「……あっ、気絶しちゃったっす」
実に5発目で村長は気絶した。
恐らく何が起きたのかさえ分からなかっただろう。
ビビットは上着の裾を掴み、音を立てないよう床へ下ろす。
俺はそれを確認してから、窓から部屋の中へと忍び込んだ。
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