第19話 モフモフ雷犬魔獣

 ビビットの育った村を訪れたら、驚きのハプニング。

 なんと村が丸ごと野盗化していた!!


「行商に来てくれた商人ぶち殺して、荷物丸ごと奪うとか嘘でしょ……どうなってるの?」

「し、知らない……あんなの知らないっす!!」

「これは困ったわ。このまま侵入するのは無理そうね」

「えっと、夜まで待った方がいいと思うっす」

「たしかにそうね。なら先にペットを探しましょう」


 こうなると村への侵入も一筋縄ではいかない。

 なので侵入は一旦後に回し、先にビビットのペットを探す事にした。


「それでビビットの家はどこなの?」

「あの柵に囲まれてない一軒家がそうっす」

「また随分と村から離れた場所にあるわね」


 早速、村の外れに建つ家に行ってみると、ビビットが生物の気配を感じ取った。

 家の側に広がっている林の奥である。案内に沿って移動すると、そこでは子犬が狼と戦っていた。


「わんわん! わんわん!!」

「ガルル!!」

「ガルガルガル!!」

「「「ガルルルルルル!!」」」


 子犬は体中に傷がありボロボロ、対して狼は5匹もいる。

 戦力比が酷いな。このままでは子犬が美味しく頂かれてしまうだろう。


「わんわんわーーーん!!!!」

「ガルルッ!?」


 しかし勝ち誇った狼達が飛びかかる前に、子犬が天に向かって吠える。

 すると驚くことに

 狼達の頭上に黄色い魔法陣が出現し、そこから黄色い閃光が降り注ぐ。


 ――バスススススンッッッッッ!!


 それも小気味良い音と共に5連続だ。一匹に一発。

 狼達は避けることなど出来ず、全てが白目を剥いて倒れた。

 ……このワンコ強っ!! どうやら虐められるのは狼の方だったみたいだな。


「あ、あれはまさか!! 雷系の中級攻撃魔法〈雷撃サンダー〉!?」

「わふっ!!」


 子犬は満足げに胸を張りドヤ顔を決める。

 だがそれで限界だったのか、その場に倒れてしまった。


「ああっ! ナベベっーー!!!」


 そんな小型犬にビビットが駆け寄る。

 慌てる様子からして、この子犬が飼っていたペットで間違いないようだ。

 特徴は横向きに頬の下まで伸びた長い垂れ耳。体毛は白だが耳と目の周囲は黒で、体にも黒毛の部分がある。白黒柄の長垂れ耳――スパニエルダップルという奴だろう。


「くぅ~ん……」

「ナベベ!! しっかりするっす!!」


 近寄った俺たちに気づいた小犬が力なく鳴く。

 その体はガリガリで、所々に血が滲んでいる様はかなり痛々しい。

 村の中に入れなくて、今みたいにモンスターに襲われ続けてたのかな? 動物愛護組合にバレたら控訴間違いなし。


「あの、ご主人さま……」

「ポーションを使いなさい」

「いいんすか?」

「いいのよ。許可するから早く飲ませて上げて」

「ありがとうっす!!」


 だがワンワン大好き学会・名誉会員の俺としては、この有様は見逃せない。

 なので即座にポーションの使用許可を出す。不安げにこちらを見上げていたビビットは、すぐに買っておいたポーションを飲ませ始めた。


「ナベベ! さぁゆっくり飲むっすよ!!」

「くぅーーん……」


 ポーションを与えると、ビデオの巻き戻しのように小犬の傷が癒えていく。

 よかった。これならもう死ぬことは無いだろう。

 体も汚れていたので水筒の水で洗い、清潔な布で汚れを落とした。


「くぅ~~ん!!!」

「ナベベ、迎えに来たっすよ!!」

「わんわんっ! わんっ!!!」


 回復した小犬はビビットに飛びついて、頭を擦り付け始める。

 よっぽど嬉しいのか尻尾が激しく振られていた。

 犬耳美少女と戯れる小犬……。大の犬スキーにはたまらない光景だ。携帯があればムービーで保存したのに!!


「その子がビビットが飼ってた犬? ナベベっていうのね」

「はいっす。鍋料理が大好きなのでナベベっす」

「わんわん!!」

「そういう理由なんだ」


 よかった、いつか鍋にして食べるからナベベじゃなかったんだ。

 流石に元日本人としては犬鍋は無理かなって。


「でもこんな場所にいるって、もしかしてビビットが居なくなっても家を守ってたとか?」

「たぶんそうだと思うっす。この家は村で一番モンスターに襲われやすい場所なんで」

「都合よく囮にされてた訳ね。ところでさっきの雷って前から使えてたの?」

「えーと、実はナベベはただの犬じゃなくて雷の魔獣で」

「ほほう、雷の魔獣」


 ビビットが言うには、この小犬はただの犬ではなく「雷犬サンダードッグ」というれっきとした魔獣の一種らしい。ゲームでもペットとして人気だった魔獣だ。


「ほほう。そうだったんだ」

「生まれつき〈雷撃サンダー〉の魔法が使えるんで、ぶっちゃけワタシより強いっすね」


 確かLvアップで雷系魔法を取得していく魔獣だったな。

 最初から中級魔法の〈雷撃サンダー〉を覚えている上、魔力の回復が早いという特徴もあり、サポートとして連れ歩くプレイヤーも多かった。


 ちなみに動物と魔獣の区別は単純にLvの有無で、Lvを持っているのは全て魔獣扱いである。


「ご主人さまも撫でてやって下さいっす」

「おお、よしよし。ここで噛み付いてこないのはグッドね」

「ナベベは賢いんで、ある程度は言ってることが分かるっすよ」

「わんわん!!」


 ビビットが抱えて持ち上げたので、遠慮なく頭を撫でさせてもらう。

 正面から見るとキュートなワンコだ。

 意外なことに警戒されてないようだが、俺がビビットの主人だと分かったのかな?

 そういえば犬ってグループ内の序列を見抜く生き物だっけ。


「はっ、はっ、はっ!! わんっ!!」

「くっ、なんという可愛さ!!」


 ナベベは舌を出しながら、粒らな瞳でこちらをジッと見上げてくる。

 なんだこの可愛い生き物は? 効果は抜群だ!! 俺の好感度がググーンと上がった!!


「よし、この子も旅に連れていきましょう。こんな可愛い子を置いてくなんてとんでもない」

「いいんすか!? やったー、ナベベこれからは一緒っすよ!!」

「くぅーんっ!!」


 許可を出すとビビットとナベベが喜んだ。

 せっかくなのでPTにも登録しておく。


 リーダー:アビスリン 黒炎の魔剣士Lv57

 PT員1:ビビット  レンジャーLv7

 PT員2:カイエン  黒綿毛地走鳥Lv6

 PT員3:ナベベ   小型雷犬サンダードッグダップルLv4


 Lvは4。持っていたスキルは予想通り〈雷撃サンダー〉と[魔力回復]の2つ。

 前者は指定対象に雷を落とす魔法で、後者は休憩中の魔力回復が早くなる。

 これならLvが上がれば魔法火力として活躍できそうだな。

 犬だから臭いで敵を探したりもできそうだし、これは意外とよい拾い物では?

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