第17話 チン、チン、チン、チーン!!
「……あー、びっくりした。でも焦って損したわ。何がくっころか!? よ。馬鹿じゃないの? あっ、落とした騎士剣みっけ」
オークの群れのど真ん中に放り込まれ、絶体絶命かと思われた俺。
しかしオークたちには物攻力が足りていなかった。
振り下ろす棍棒は俺の物防力に阻まれ、生命力を全く減らすことが出来なかった。
「ならばココからは私のターンね。お望み通り相手をしてあげるわ。ビビット、魔法陣に入らないように気をつけなさい!! ――〈
俺は落とした剣を拾いながら立ち上がり、自分を中心に一つの魔法を発動。
すると俺の足元から、半径10mにも及ぶ赤い光の魔法陣が広がった。
――チン、チン、チン、チーン!!
更にモンスターが湧いた草原に、どこからともなく卑猥な音が響く!!
見ればオークたちは何かに耐えるように体を抱きしめながら、辛そうな悲鳴を上げ始めていた。
口から溢れた涎が、地面に付く前に蒸発して水蒸気に変わっていく。
そして最後は
――チ~~~ンッ!!
という電子レンジのような音と共に、オークの大半が崩れ落ちてしまった。
「うわぁ、何すかその魔法? いっきに大部分が死んだっす!!」
「これは陣内部の水分を超加熱して焼死させる、炎属性の上級魔法よ。雑魚の殲滅用に取得したんだけど、生き残っても体内がズタボロになって、しばらく動けなくなる効果もある」
「えっぐ!!」
魔法が終わってから近づいてきたビビットに効果を説明する。
射程50メートル、効果範囲半径10メートル、威力は魔攻力350%。
発動から効果発生までタイムラグがあり、無機物には効かないという弱点はあるものの、それでも生物相手なら効果は抜群の魔法だ。
特に行動不能にする効果がエグい。いわば魔法の電子レンジ(生物殺害用)。
「名付けてマジカル・レンジデ・チン!! 略してマジチン!!」
つまりオークたちは俺のマジチンで中をグチャグチャにかき混ぜられ、体液を撒き散らして死亡したという訳だ。オークックック、残念だがくっころの出番はないぜ!!
「あと生き残ってるのは……メイジタイプね」
それでも魔防力が高いメイジタイプは5匹ほど生き残っていた。
オークメイジ達は倒れたまま、コチラに向かって魔法を打とうとしている。
杖の先端に土の槍が現れていることから、土系中級魔法の〈
「ならば――〈
なので俺もすぐにスキルを発動。
手の持つ騎士剣の周囲に黒炎が集い、刃渡り3mの大剣が形成される。
「っしゃぁ!!!」
俺はその黒炎の大剣を用いて、飛んできた土の槍を次々と斬っていく。
斬られた土の槍は全て消滅する。これがこのスキルの特殊効果、魔法破壊だ。
細かい条件はあるもの、スキルで斬った魔法を壊すことが出来る。
「後はこれもオマケよ――〈
魔法を片付けたら次は別のスキルでトドメを刺す。
俺が剣を振り下ろすと、今度は敵の頭上に2メートルほどの黒い炎剣が出現。
炎剣は即座に落下、中央に居た一匹に突き刺さると爆発。周囲に炎を拡散させ、生き残りのオークメイジ達を焼き尽くした。
「ふむ、どのスキルもいい感じね。これなら大抵の相手は処理できそう」
特に〈
本来は中距離の魔法だが、あえて近づき自分ごと撃つのはエグイ気がする。
炎無効があるからこその運用方だ。たまたま思いついた使い方だけど、連発すれば炎耐性無いやつは完封できそう。
――ピロリロリン!!
――カイエンのLVが 5→6 にアップしました!!
そしてオークの経験値でカイエンもLvアップ。
中央に放り込まれた時はびっくりしたけど、なんだかんだで良い感じに倒すことが出来たな。
「経験値的には美味しい相手だったわね。ところでオークってお金になりそうな場所はある?」
「武器は全部木と石製なんで、たぶん無理っすね」
「残ってるお肉は? 美味しそうに焼けてるけどダメなの?」
「焦げてる上にグチョグチョっすよ? 持っていったら肉屋に殴られるっす」
ただし死体はグチャグチャになるので素材は期待できない模様。
ビビットをしてここまで言わせるほどの酷さだ。
まぁ普通は肉の劣化を防ぐために血抜きして少しでも冷やす所を、逆に超加熱だからな。痛むのも早いだろうし、そりゃ買い取りなんて無理か。
おまけに〈破砕降爆剣〉は「物質破壊」の特殊効果がある為、オーク達の武具は壊れてしまっている。こっちも剥ぎ取りは期待薄だ。
「それは残念。ならカイエンのご飯分だけ持っていきましょう」
「ぽっぽ! ぽっぽ!!」
俺たちはカイエンのご飯分だけ肉を回収し、この日は街道沿いの野営ポイントで休むことにした。
カイエンから降りると、日が暮れる前にテント張り食事の準備をする。
「では木を集めましょう。その辺の枝を適当に斬ればいいわよね?」
「えっと、焚き火用の木はできるだけ乾いてる方が好ましいっす。水分が残ってると火がつかないし煙が酷いので。だから新しい枝を斬るより、落ちてる枝の中から集めたほうがいいっす」
「分かったわ。できるだけ乾燥してる奴ね。どうやって見分けたら良いの?」
「えーと、それは…………」
なお、これらは全部ビビット頼りである。
俺はキャンプなんて全く分からないからね。しょうがないね。
てか焚き火の用の木なんて、どれでも一緒だと思ってたぜ。
「――〈
なんとか枯木を集め終わったら、今度は魔法で火をつける。
使うのは牽制用に取った炎属性の下級攻撃魔法。
発動するとバレーボール大の火の玉が飛んでいく。直撃させると全部燃えそうなので、手に持った枝を掲げ掠めるように撃った。
「あとは普通に焼くだけね。ここからは一人で大丈夫よ」
火種が出来たら集めた枯木に移し、フライパンでステーキを焼く。
肉は奮発して買ってきた超高級肉「ユニコーンの霜降り肉」だ。
ユニコーンは創作物でおなじみの処女しか乗せない馬。創作物だと神聖な存在とされることが多いが、この世界だと牧場で養殖されているらしい。養殖の処女厨……なんて罪深そうな馬なんだ。
「こ、これ本当に食べていいんすか!?」
「もちろんよ。貴方のために買ったんだもの」
ええんやで?
そんな肉を期待に満ちた目で見つめるビビットにほっこりする。
ビビットは俺の奴隷だけど、どうせなら気持ちよく働いて欲しいからな。
公爵家でご飯を食べさせて上げれなかったので、これはせめてものお詫びだ。
もちろん他にもパンを始め、串焼き肉、蒸かし芋、なども買ってきている。
というか露天で見かけた美味しそうなものは大体買った。
ビビットのアイテムボックスは7kgまで持ち運べるようになっているので、これぐらいは余裕だった。
「もう少しで焼けるから待っててね」
俺はステーキに塩胡椒をさっと振りかけ、裏も焼いてから皿に乗せる。
サイドメニューは小さく切って熱したキャロロとジャガガモという野菜で、これは名前が微妙に違うがニンジンとジャガイモだ。
出来上がったらフォークとナイフを握りしめ、涎を垂らすビビットに皿を渡す。
「――はい、出来たわよ。白パンもあるから好きなだけ食べなさい」
「うわぁーーい!!」
「カイエンは私を放り飛ばしたから無しよ」
「ぽぽっぽ!!??」
「冗談よ、ちゃんと有るから待ってて」
目を輝かせながら食べ始めたビビットを尻目に、自分とカイエンの分も焼いて食べてみる。
食感は昔食べた高級馬刺しに似てる。
中まで火を通したはずなのに、生のようなモチャっとした食感。不思議だ。
それでいて噛めば噛むほど上品な旨味が広がっていく。
柔らかな肉にさらりと溶けた脂が混ざって絶品。シンプルに塩胡椒だけの味付けでもすごく美味しい。
1人分(200g)で3万円もする超高級肉だけある。買ってよかった。
物足りなさそうなカイエンには追加のご飯(オーク肉)も与え、食べ終えたら水筒の水で喉を潤す。近くには井戸も有るので、いくら飲んでもオッケー。流石に自分たちの分は沸騰させるが。
「ふー、美味しかったっす」
「はい、締めのお水。カイエンは沢山飲みそうね」
「くるっぽーーー!」
食事を終えた俺たち肩を合わせて座り、余韻を楽しみながら遠くの夕日を見続けた。
あ~、お腹いっぱいだ。
もうこのままゴールでいいんじゃないかなぁ。
ハーモニカでも拭きたい気分だ。満足しちまったぜ……。
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