第3章 村長を殴りに行く

第16話 ゲームシナリオの外へ

「ぽっぽ! ぽっぽ!! ぽっぽーーーーー!!」

「あっはっはっは!! サラマンダーよりはやーーーーーい!!!」


 どこまでも続きそうな平原を、騎乗したカイエンで爆走する。

 付けてる鞍は二人用。ビビットが前に座って手綱を持ち、俺は後ろから腰に抱きついている格好だ。


「おっぱい! おっぱい!!」

「ちょっ、こんな所で揉んじゃ駄目っす……んんんっ!!!」


 俺は脇の下から手を伸ばし、抱きつく形で胸を掴む。

 何時でもビビットの胸を揉めるポジションだ。偶に服の隙間から中に手を突っ込むのが実に楽しい。もーみもみもみ! もーみもみもみ!! 最高だぜぇ!!!


「なんていうか、テンションあがるわね!! 旅道具も揃えて服も買ったし、これならきっと村に着くも楽勝ね」

「ご主人様は裸で戦ってましたけど、やっぱり服は着てた方が落ち着くっす」

「別に私も露出狂って訳じゃないのよ? ただ裸の女の子が好きなだけで」

「えー、ご主人様も女性じゃないっすかー」

「それはそれ、これはこれだから。女の子のおっぱいは別腹(キリッ」


 今の俺達の装備は、捕まえる前の服+フード付きマント(全身を覆うタイプ)だ。

 テントや水筒なんかも買ったし、経験者のビビットがいれば野外活動も何とかなるだろう。


「ん~、吹き付ける風が気持ちいいわねー。空も快晴だし、すごい開放感だわ」

「だからって、胸もんじゃ、だめっすよ……あっあっあっ」

「フフフ、よいではないか。よいではないか~。アッハッハッッハ!!!」


 前から吹く風を受けていると、ゲームのシナリオから外に踏み出したのだと、強く実感して気分が高騰する。

 これで寿命と心臓の件がなければ最高だったんだけどな。いやビビットのおっぱいはすでに最高だが。


「まずはビビットの村に行って、それから王都に直行ね。どれぐらいで着くと思う?」

「えっと、もうお昼回っちゃってるんで、明日になると思うっす」


 俺たちが目指しているのはビビットを売り飛ばした村と、その先にある王都。

 村は村長を一発殴って、飼っていたペットを探す為。

 王都は隠しアイテムの回収と、喧嘩を売ってきた第七王子の情報を集めるとともに、隙があれば燃やすためである。


 村に寄ると王都への街道からは若干ズレてしまうが、俺には世界地図があるから道に迷うことはない。


「ところでダチョボって、何時間ぐらい走り続けられるんすか?」

「知識でしか知らないけど、このペースならだいたい4,5時間は可能だったはず。今は街から出て2時間ぐらいだから、あと2時間はこのまま走れるわね」

「ほぇー、ダチョボってすごいっすね」

「そうね。騎士に大人気のはずだわ」

「ぽっぽーーーー!!」


 公都から北に延びる街道は、剥き出しの土が踏み硬められただけ。

 それでもカイエンの速度は早い。体感だが時速30kmは出ている。

 更に〈加速〉スキルを発動すれば瞬間的に150kmオーバー。


 確か馬(速歩)は時速15kmで持続1時間だけだったか?

 余りにもスペックが違いすぎるな。お馬さんちょっと貧弱すぎんよ。


「乗り心地も最高だし、慣れたら交代で寝ても平気そうね」

「地面がデコボコでもぜんぜん揺れないっすからねー。ご主人さまがまた吐かなくて安心したっす」

「あ、あんな無様はもう晒さないから(震え声)」


 なんかフラグみたいなセリフを言っているが、全然酔う気配がないのは確かだ。

 ぶっちゃけカイエンは前世のオフロードバイクより快適である。

 恐らく肥大化した太ももが揺れの衝撃を吸収しているのだろう。上等なショックアブソーバーのような役割を果たしているのだ。まじで全然揺れない。


「カイエン、このまま道にそって真っ直ぐよ」

「ポッポ!!」


 おまけにカイエンは指示を理解して勝手に走ってくれる。

 未来の自動走行バイクって感じである。乗り物としては破格すぎるな。


「あとはモンスターに出会わなければ、明日には村に着けそうだけど」

「そんな事言ってると湧きそうっすよ? ……あっ、モンスター」


 フラグON、そして即消化。

 見事なキャッチアンドリリースである(自画自賛)


「私には全然分からないけど、どの辺?」

「あの遠くに見える黒いのがそうっす」

「ああ、たしかに黒いのが見えるわね」


 ビビットが指さした方に目を凝らせば、なるほど確かに。

 街道から逸れた200mほど先の場所で、地面から黒いモヤのようなものが吹き上がっていた。


 よくそんな先の異常を発見できるなと思うが、ビビットはLV7になった時に得た60SPで[暗視]と〈鷹の目〉を取得している。

 特に後者は視力が大幅に上昇し、動体視力まで強化されるスキル。

 これによりビビットは、数キロ先の虫すら見つけることが可能になっているのだ。


「それで湧いてきたモンスターの種類は?」

「緑で大きな体……普通のオークっすね」

「ふむ、初めてのモンスターがくっころ界のMVP男優ね……」

「くっころ?」


 黒いモヤはすぐ固まり、相撲取りのような体型のモンスターに変わる。

 現れたのは緑色肌に豚顔を持つ二足歩行の化物――人喰豚鬼オークである。

 これがこの世界でモンスターが生まれる仕組み。まるでゲームのポップシステムだ。


 そのため黒いモヤを見たらさっさと逃げろ、というのが定石らしい。

 他にも湧いたモンスター同士で繁殖したりもするようだが、この辺は騎士たちが定期的に見回っているので少ないみたいだな。


 更に吹き上がるモヤは続々とモンスターに変わっていく。


 ――棍棒を持ったノーマルオークが10体……。

 ――杖を持ったオークメイジが10体……。

 ――ゴツイ石斧を持ったオークウォーリアーが10体……。


 どうやら今回の湧きはオークの群れみたいだ。

 ゲームではLv7前後だったオークが続々と増えていく。

 しかも、これだけ湧いてもまだ黒いモヤは消えていない。


 ……いやいや、流石にこれはちょっと湧きすぎじゃね?


「モンスターって、何時もこんなにポンポン湧くものなの?」

「いや普通は多くても十数匹だけで、幾ら何でもこんなには湧かないっす」


 ビビットが言うには、一度にこんな数が湧くのはありえないらしい。


「なんでこれは『魔の大湧出』って呼ばれてる現象だと思うっす。村に来る行商人さんは『1年に1度出会うかどうか』って言ってたっすね。一気に50体ぐらい湧くって聞いたような」

「なんでそんなレア現象がいきなり起きてるのよ」


 街に到着して即スタンピードに巻き込まれる主人公じゃねーんだぞ。


「まぁ要はフィールド版のモンスターハウスね。考えようによってはラッキーだわ」

「こんな湧くのを見たら、普通はすぐに逃げるっすけどねー。よっと!!」


 すぐにビビットがアイテムボックスから弓を取り出して撃った。

 まっすぐ飛んだ矢は狙い違わずオークの首筋に刺さる。

 ワンショットワンキルだ。ビィーティフォー!!


「でもこれだけ湧いてると1、2匹倒しても誤差っすね」

「ならば後は私に任せなさい。いくわよカイエン!!」


 俺もこのまま黙って待つ理由はない。

 コチラを把握していないのか、まだオークたちは棒立ちのままだ。ならばこれはチャンス!!


「カイエン、あの敵の群れに向かって〈加速〉よ!! ぶちかましてヤリなさい!! ついでに――〈熱加速ヘイスト〉!!」


 俺はビビットに撃つのを止めさせ、カイエンを急加速させる。

 〈加速〉スキルによって上げた速度を、さらに〈熱加速ヒートヘイスト〉によって2倍化だ。


「ポッポォーーーー!!」


 カイエンは突風となってオークの群れへ迫る。

 おそらく軽く時速300kmは出てるのではなかろうか?

 それはつまり、俺たちは新幹線の屋根の上に乗っているのと変わらないということだ。


「空気が痛ぁーーーーーーーーい!!!」

「幾ら何でも早すぎっすーーーーー!!!!」


 冷たい空気が俺たちの顔面を強打する。

 しかしカイエンは200mの距離をわずか2秒で詰め、一番外側のオークに向かってキック!!

 瞬間的に体を横向きにした、空手のお手本のような横蹴りを放った。


 ――ドゴンッッッ!!


「ポッポォーーーーッ!!!」

「オォオオーーク!?」


 速度を乗せた必殺の一撃を喰らい、ダンプカーに跳ねられたようにオークが吹っ飛ぶ!! 後ろに居たオーク達を巻き込みながら転倒。


「ぎゃあああああああ!!!!」


 ――そして反動で俺も蔵の上から吹っ飛んだ。


「ああっ! ご主人さま!?」

「ぽっぽ???」


 新幹線が壁に衝突したかのような衝撃に、耐えるなんて無理だった。

 カタパルトで射出される戦闘機のように、カイエンの上からスポーン! と飛んだ。

 上手くバランスを取ったのか、鞍に残ったビビットと空中で目が合う。

 しかし勢いは止まらず、そのまま集団のど真ん中にいたオークに直撃!!


「ぐぇえええ!!!」

「オークッ!? オークックック!!!」


 何とか受け身は取れたものの、気づけば周りはオークオークオークオーク!!

 前も後ろも右も左もみんなオークで一杯だ。おまけに剣も落としてしまった。


 ……これは不味い。

 脳内に凌辱される姫騎士(エロゲ)が浮かぶ。

 このままだと俺は、くっころっ!! されてしまうのか!?


「そ、そんなっ。嘘でしょ!?」

「オークックック!!!」」


 周りのオーク達はそんな俺に、笑いながら棍棒を振り降ろし――


 ――カン! カン! カン! カン!!


 金属の塊を殴ったような音と共に、全ての棍棒が弾かれた。


「…………オ、オォーク??」

「…………どうやら、物攻力が足りないみたいね」


 困惑するオーク達を目の前に、ステータスを確認する。  

 生命力は1も減っていない、つまりノーダメだ。コイツラの攻撃で俺を傷つけることは出来ないようだ。


 ……くっ、豚の癖にビビらせやがって!!

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