第15話 黒綿毛地走鳥
さて俺たちは死んだことにして旅に出ることした。
そうなると今度は足が必要になってくる。
「あとは旅に欠かせない騎乗生物だけど、こっちも丁度良いのがいるわ」
「聖騎士の騎乗魔獣っすね」
「ちょっとこの剣持ってて」
俺は剣をビビットに渡し、1匹の騎乗生物に視線を移す。
人攫い共が使っていただろう馬3頭は入り口横に繋がれていた。こっちはまぁ別にいい。普通の馬だから置いてきたし。
しかし入り口の側にいた、聖騎士が乗って来ただろう生物は普通じゃなかった。
「よーし、よしよし。暴れんなよ、暴れんなよ……!!」
「クルッポー!! クルクルポッポーーー!!」
俺が両手を上げながら近づくと、その騎乗用魔獣が鳴き声を上げる。
それは地上を走る二足歩行の大鳥。全高・全長共に2.5mと馬より二回りはデカイ、「
「これがダチョボっすか。見るのは初めてっす」
「ええ、それもこの子は希少な『
その身を覆う毛は、頭から足の先まで滑らかな漆黒の線毛。
太ももは人間の胴ほどに太く、嘴も鋭く尖っていて強そうだ。
オマケにぱっちりした目と、くるくるまつ毛が知的さまで醸し出している。
「んー、きめ細かい良い黒綿毛ね。撫でると気持ちよさそう」
「ポッポー! ポッポー!! クルッポッー!!」
ただし鳴き声はなぜかハトだ。おっ、可愛さで取り入る作戦かな?
ポッポッ、ポッポ!! 耳元で鳴かれるとめちゃくちゃ煩い。
「……非常食としても美味しそうっすね。鳥だし。ジュルリッ」
「ポポッ!?」
だがビビットがそんなことを言うと、ダチョボは体をビクリと震わせた。
食われると思ったのかな? いや確かに美味しそうだけどね。エバラのタレ(黄金の味)が合いそう。でも流石に食べるのは最後にしてあげて欲しい。
「くるるっぽっぽー?」
「おっ、言ってることが分かるの?」
「たぶん、ご主人さまの強さを理解したんじゃないっすか?」
「うーん、野性!!」
ダチョボがヒョコっと首を下げたので、手を伸ばして頭を撫でてみる。
抵抗はされなかった。短い毛だがサラサラで手触りが気持ち良い。
そうしてしばらく撫でながら、俺とダチョボは見つめ合った。
「……決めた。旅はこの子に乗って行きましょう」
「……くるっぽーーー!!」
俺が頷きながらそう発言すると、ダチョボが嬉しそうに鳴いた。
こっそり出て行く以上、本当は普通の馬の方がいいのだろう。
だがそんな事が気にならないぐらい、俺はこのダチョボが気に入ってしまった。
なんだか一目惚れしちゃったようで恥ずかしいな。
「ならせっかくだし名前を付けては? 長旅に呼び名が無いのは不便っす」
「うーん、そう言われるとそうね」
名前、名前か。確かにあったほうがいいだろう。でも急に言われてもな~。
「ビビットは何がいいと思う?」
「美味しそうだから『からあげ』はどうっすか?」
「食べる気まんまん!!」
「ぽぽぽ!!?」
うーん、この食いしん坊。聞いた俺が馬鹿だったか。
もしかして食べるのは確定なのか? 確かに美味しそうではある。
「でもこの子を齧りながら旅するのは、ちょっとキツイかなって」
「ではなんという名前に?」
うーむ、そう言われと困るな。
何が良いかな? まぁ騎乗用の魔獣だし、ここは乗り物から選ぶのがいいだろう。
俺は前世の記憶から、よさそうな車の名前を必死に探した。
「フェラーリ? ランボルギーニ? カウンタック?」
どれもなんだかピンと来ない。
鳥をエンブレムにした高級車はベントレーやヴァンテージなんだが、イメージが違うというか。
ならもう、ここは俺の趣味でいいか。
前世でいつか乗りたいと思っていたアレだ。
それは有名なハンカチのプロ野球選手も思わず「乗りてぇ」と呟いちゃうほどの名車……。
「よし、あなたの名前は――『カイエン』よ。どう? いい名前でしょう?」
長年夢に見ながらも、結局は手にすることが出来なかった幻の車だ。
たしか「冒険心」という意味があったはずなので、これからのことを考えてもピッタリだろう。
「ぽっぽー! ぽっぽー!! くるっぽーー!!」
「おっ、気に入ってくれた? ではついでにPT登録もしておきましょう」
俺の付けた名前が気に入ったのか、カイエンが肯定するように鳴き声を上げた。
さらにその場でくるくると周り出す。なんという良い反応だ。
なんだかこっちまで楽しくなってくる。俺の好感度ゲージがグイグイ上がっていくぞ。
ついでにカイエンを触りながらPTに入れたいと思うと普通にできた。
魔獣でもPT登録は可能なようだ。こちらの言葉が分かる生物なら何でもOKなのかな?
リーダー:アビスリン 黒炎の魔剣士Lv57
PT員1:ビビット レンジャーLv7
PT員2:カイエン 黒綿毛地走鳥Lv5
という訳でPT構成はこんな感じに。
地味にビビットがLv7になってて、カイエンもLv5もある。
それから持っていたスキルは[持久力]と〈加速〉の2種。
前者はスタミナの減りが遅くなるスキルで、後者は瞬間的に加速するスキル。
どちらも走るためのスキルだ。地走鳥という種族名は伊達じゃないらしい。
「よーし、これからは私たちの足としてよろしくね?」
「これだけ大きいと二人乗りしても大丈夫そうっすね」
「ぽっぽーー!!」
うむ、良い返事だ。
俺たちは早速カイエンに騎乗する。俺が後ろでビビットが前。
アビスリンの体が覚えているのか、特に問題なく乗れた。
その背からみる景色は、なんだか希望に輝いているように見えた。
「ではこのまま買い物に行きましょう。好きな食べ物を買っていいわよ」
「ほんとうっすか!?」
奴隷商館でビビットに持たせたお小遣い(白金貨20枚)は丸々残っている。
偶然だがベトレイヤーがいない時に渡したので、気づかれなかったようだ。
アイテムボックス持ちなのを知ってて中身を調べないとか、やっぱアイツはガバガバメイドだな。おかげで多少は贅沢しても大丈夫だろう。
「ところでビビットはどんなパンツが履きたい? せっかくだしエロ下着にする?」
「いや下着は普通のでいいっす。旅に向かなそうなのはちょっと」
「大丈夫大丈夫、遠慮しなくていいわよ? ちなみにエッチな下着ほどご飯のランクがアップします」
「……えっ? ええっ??」
それから俺たちは急いで買い物を済ませ街を出た。
ビビットが選んだパンツは、スケスケのセクシーなブラックだった。
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