第13話 黒炎剣技・最終奥義ッ!!
「くくく、たかが腕を斬られただけで無様だな。剣は振れても所詮は温室育ちか」
犯罪者を全滅させてステージクリアだ! と思ったら追加で聖騎士がポップした。
俺は落とした剣を持ちながら再び立ち上がり、ニヤニヤとした顔でこちらを見下す聖騎士を睨みつける。――いきなり斬撃を飛ばしてきたクズ野郎を。
「貴方はまさか、アチチバーン公爵家最強の聖騎士スグクタバール……ッ!!」
「その通りですお嬢様。貴方の首を頂きに参りました」
アビスリンの記憶によれば、こいつは領内最強の聖騎士(Lv41)らしい。
ピカピカの全身鎧に身を包み、騎士剣と大盾を構えて完全装備。殺る気満々である。裸のお嬢様相手にそんなガチ装備で恥ずかしくないんか?
おまけにその後ろには、俺たちに麻痺紅茶を飲ませたメイドまでいた。
「それに裏切りメイドのベトレイヤーまで!! 今更、何しにきたのかしら?」
「おや? どうしてお嬢様が自由になっているのですか? はぁー、全く裸で殿方の前に出るなんてはしたない……」
「誰のせいだと思ってるのよッ!!!!」
他人事のようなメイドの言い分に激しい怒りが湧いてくる。
コイツはどの口で言っているんだ? こんな破廉恥な格好してるのはお前のせいなんだよなぁ。あとで剥いてやろう。パンツはそこの騎士に食わせてやんよ!!
「その言い振りだと、私を助けに来た訳じゃなさそうね」
「当たり前でしょう。少しは頭を使ったらいかがですか?」
「うざっ!!!」
俺が怒り出すと、ベストレイヤーは鼻で笑いながら肩をすくめた。
なんだコイツ? 煽り検定1級かよ。何で憑依前のアビスリンはこんな奴を信用してたんだ。
でもそうするとココに来たのは人攫い共の口封じか?
状況から推測するに、助けに来た振りをして皆殺しって感じだろう。犯罪者に罪をなすりつけつつ、事件解決の手柄だけ頂く寸法。
……いや、しかしそうすると、たった二人なのはオカシイ。
もっと連れてこないと何かあった時に対応できないんじゃね? みんなバラバラに逃げ出すとか。それとも外に仲間がいるのかな? うーん、分からん。
「なるほど、ここまで計画通りって訳ね。でももし私が逃げてたらどうするつもりだったの? 幾ら聖騎士が居ても、たった二人で街中を探すのは無理じゃない?」
「フッ、その時は聖騎士として柔軟性を確保しつつ、臨機応変に行動するだけです」
「大丈夫です、ここでお嬢様を殺せば全てうまく行きます」
「えっ、その口ぶりからして本当に二人だけなの?」
「計画ガバガバっす!!」
その時は臨機応変って計画ガバガバァ!! 行き当たりばったりじゃねーか!!
これからはガバガバメイドと呼ぼう。てか俺こんなアホな奴に殺されかけてるのかよ……。
「そういう事ならもう一つ聞かせなさいガバガバメイド。――何故こんな事を?」
「ガバガバメイド!? ……フフフ、知りたいならば冥土の土産に教えてあげましょう。これが本当のメイドの土産、なんちゃって?」
「……つまらないギャグ言ってないで早く話しなさいよ。滑り恥ずかしメイド」
「滑り恥ずかしメイド!? 貴方はよいお嬢様でしたが、貴方の血筋がいけないのですよ」
血筋がいけないって何で? アチチバーン家はコロニー落としも独立戦争もしてないんはずだぞ? 謀ったのかシャア!?
とは言えアビスリンの血筋がすごいのは確かだ。
記憶によれば祖父はこの国の現国王で、祖母は隣の帝国から嫁いできたお姫様。
そしてその娘が母親なので、王国と帝国両方の王家の血を引いてることになる。
王国の王位継承権も12位だったか? 持っていたり。……邪魔にすらならないほど下位なのでは?
「血筋? どういうことよ? ――〈
「世の中にはお嬢様に死んでほしい人間が大勢いると言うことです。そう、例えば第七王子殿下です。ああ、あの方との一夜は夢のようでした……」
「ま、まさかその王子とすでに懇ろに!? って誰よそれ? ――〈
「おや、知らないのですか? 半ズボンが似合う素敵な8歳の王子様ですよ」
「キモッ!!!」
【悲報】親友メイド、憑依前に寝取られていた【NTR】
まじかよ。また憑依前の負の遺産か。しかも全く記憶にないショタ王子に寝取られてるとか。こんなんどうしようもなくね?
ちくしょう、お姉さんメイドとグチョぬれプレイは夢だったのに!!
「まっ、ぶっちゃけると第七王子は継承権持ちの首をご所望でな。ここで成果を上げれば、俺等も晴れて王子――未来の国王陛下――の側近に出世って訳だ」
「だから私を始末して首を持っていくと? はぁ、もう少し遅ければこの国から出ていったものを。空気読みなさいよ。――〈
「ご主人さまも空気読まずにバフってるっす! ブーメランっすよ!!」
「……ビビットは今のうちに服を探してきて。固有スキルも使っていいから。早く行きなさい。――〈
後ろからツッコミを入れてきたビビットに服の回収を頼む。
俺が炎系スキルを使いまくったせいで建物は燃え出している。
今のうちに回収しとかないと裸で外をうろつく羽目になってしまう。流石の俺もそれは避けたい。
それにしても狙われたのは継承権絡みだったのか。
これはゲームでも過去に起こっていた出来事なのかな? アビスリンの過去は作中で語られてなかったからいまいち分からん。
でも出来れば放っといて欲しかった。
そうすれば継承権なんて無視して家出してたのに。
どうしてあと数日だけ待ってくれないんだ? タイミングが悪すぎる。ガッデム!!
「全く、それにしても随分とペラペラ喋るじゃない」
「フフフ、なんせ私は策士メイドですから。策士というものは策を披露したがるものなのですよ」
「なぁーに、全部殺せば問題なしです。俺の騎士剣で綺麗にしてあげましょう。そう、俺の将来の輝きのようにね」
お前、策士じゃなくてガバ士じゃね? どう考えてもチャートガバガバだぞ!!
あと聖騎士も腹の中真っ黒じゃねーか!! 主君の娘殺すって野心高すぎぃ!!
「なるほど。そう言う事なら殺し合うしかなさそうね」
だがペラペラ喋ってくれたおかげで事情は把握出来た。
そしてバフ掛けも完了だ。掛けた魔法は4種。
〈
〈
〈
〈
どれも攻撃面を強化してくれる魔法である。
特に2番目は地上戦をやるなら移動系バフはコレ一択、と言われた人権魔法だ。
掛け終わると俺の体が内から熱くなり、剣が黒い炎に覆われた。
これで準備完了。事情も聞き出したし、後はこいつらをヤればステージクリア。
他に来てる奴はいないっぽいし、もう出し惜しみはする必要はなさそうだな。
「なら纏めて焼いて上げるわ、トースターの食パンみたいにね。――100倍返しのお時間よ!!!」
俺は剣を両手で握りしめ、邪ャンヌのような決め台詞を吐く。
言っててちょっと恥ずかしかったが、他に思い浮かばなかったので勘弁して欲しい。
「フッ、それでバフ掛けは終わりましたか? 聖女神様にお祈りは? まさかその程度でこの俺をどうにか出来るとでも?」
対して聖騎士スグクタバールは鼻を鳴らし、自信満々に大盾を構えた。
スキルすら使おうとしないのは油断か、それとも公爵家最強としてのプライドか。
どちらにしろ俺はコイツを一撃で倒す事に決めた。
急がないと廃教会が崩れそうだとか、セルフ回復できる聖騎士に持久戦は不利だとか理由は色々ある。が一番はコイツが気に入らないからだ。やってやんよ!!
「ならば受けてみなさい。この私が長年の修行で会得した(1秒で画面からポチった)必殺技を!!」
「……良いでしょう。生意気なガキに現実ってものを教えて上げますよ」
スグクタバールの表情がニチャァといやらしく歪む。
少しは楽しめそうだな、なんて思ってそうな邪悪な笑顔だ。
だが俺は怯まない。逆にキッっと相手を睨み返す。
使うのはもちろんアビスリン専用のユニークスキルと、それから先程とった400SPの奥義スキル。
「ふぅーーー……」
前を睨んだまま息を細く長く吐き出す――。雑念を捨て意識を深く集中する。
その状態でまずは〈
何処からともなく ピューイ! ピューイ!! と鳴り始めた警報音を聞き流しつつ、剣をゆっくりと大上段に。
「――行くぞ!! これこそ黒炎剣技が最終奥義ッ!! 灼熱の刃よ、全てを斬り裂けッ……!!!!」
「えっ、はやっ!!?」
ノリで口上を上げると共に、俺は気合をいれ全力突進!!
その踏み込み速度に驚くスグクタバールへ、渾身の力で剣を振り下ろしながら、ついに必殺の一撃を放つ!!!!
「――
――それはまるで星の誕生のようだった。
聖騎士の盾に叩きつけた切っ先が爆発する。
極限まで圧縮された黒炎が、核分裂のごとき超高熱となって解き放たれる。
瞬きよりも早く拡がった炎は、あっと言う間に全てを飲み込み――
「「「おぎゃああああああーーーーー!!!!」」」
――
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