第12話 vs人攫い
「――行くぞ雑魚ども、Lvの貯蔵は十分か?」
「ちっ、お前らビビってんじゃねぇ!! 剣を構えろ!!」
「「「うぉおおおおお!!!」」」
俺は人攫い共を睨みつけながら剣を構える。
対して敵もボウガンを捨てて剣を抜いた。まだまだ戦う気のようだ。
丁度いいので新スキルの試し打ちをさせてもらおう。
「おっ、やる気なんだ? ならば――〈
俺はすかさず先程取ったスキルを発動。
足元に剣を突き刺すと、黒い炎が濁流のように床へ流れ込む。
すると敵のリーダーっぽい奴の足元から、渦巻く炎を纏う黒剣が勢いよく出現!!
――ブスリッ!!!
「んぎゃあああああああ!!!」
黒剣は敵を焼き鳥の様に串刺しにし、悲鳴と共に即死させてしまった。
「おぉ、一刀火葬(ブリーチ)のコンパクト版みたいでかっこいい!!」
これは消費無しで打てる中で最も強いスキルだ。
クールタイムは30秒と少々長いが、射程10mで倍率550%の単体攻撃。
ついでに即死効果も付いているのだが、素の火力に敵が絶えられないっぽいので良くわからないな。そっちはまた後で検証する必要があるだろう。
「おっ、今度は吐かないっすね」
「そうね、割りと大丈夫。スキル様々だわ」
後ろのドアからひょっこり顔を出したビビットが俺を褒める。
よし、尻穴が増えた敵を見ても今度は吐かなかったぞ。
多少は気分が悪いが吐くほどじゃない。数秒前の自分を乗り越えたな(スキルのおかげ)!!
「……ふむ、何となくメンタルを守るコツが分かったかも」
それと吐かない(精神的ダメージを減らす)コツは直視しないことのようだ。
技が発動した瞬間に視線を逸らすと楽だった。周辺視に入れてピントを合わせないようにするって感じ?
これが同格相手だと隙になりそうだが、今回は圧倒的なLv差がそれを可能にしてくれている。やはり汚いものは見ないのが一番だね。
「ああ、ボスが!!」
「嘘だろ!? 一撃で死んじまった!!」
「ど、どどどどうする!?」
指示を出していた男が死ぬと、敵は一気に統率がくずれた。
彼らは数秒だけお互いを見つめ合い、それから1人が背を向け走り出すと、残りの者達も我先にと逃げ始める。こうなるともう烏合の衆と変わらないな。
「だが逃さんっ!!」
俺は廊下を逆走する敵の背を追いかける。
敵ボスの死体を踏まないようにヒョイッと避けダッシュだ。
自分でもびっくりするほど凄まじいスピード。追いつくのはあっと言う間だ。更に時間が遅くなったようにも感じる。
これは俊敏性と精密性が高いおかげかな?
俊敏性はゲームにおいて移動速度と回避率に関わるステータス、そして精密性は逆に命中率に関わっていた。
具体的には◯ボタンで敵をロックオンした時の挙動だ。
精密性が高ければ自動で敵へ視線が向きスキルを当てやすくなり、逆に俊敏性が高いとロックオン機能を阻害してくれた。それがこの世界では反射神経と認識力の向上という形になっているのだろう。
「ッシャァ!! ――〈
礼拝堂に出た所で追いついた俺は、先程と別のスキル放つ。
下から掬い上げるように剣を振るうと、地面を滑るように炎の波が走る。
「「「「「んぎゃああああああーーーーー!!!」」」」」
「おっ、こっちはすごいパワーゲイザー(餓狼伝説)ね」
炎の波に巻き込まれた敵は、後ろを走っていた3人が即死。
敵に当たると威力が下がるのか、前を走っていた2人は生き残ったようだ。
だが死ななくても無事ではない。スキルの特殊効果により敵は思考を破壊され、その場で足を止めていた。
「おおっ! 範囲ダメージ+スタンって強っ!!」
獄焔突きの特殊効果が肉体破壊なら、こちらの効果は思考破壊だ。
ダメージとともに敵のピヨらせる。乱戦とかで便利そうなスキルである。
************* スキル詳細 *************
〈
黒鳳凰の祝福を持つ者専用クラス【黒炎の魔剣士】の上級スキル。
足元から炎を浸透させ、突き上がる炎の剣で敵を串刺しにする。
CT:30秒 属性:炎 威力:物攻250%+魔攻150%
射程:10m 特性:肉体破壊(一定確率で敵を即死させる)
〈
黒鳳凰の祝福を持つ者専用クラス【黒炎の魔剣士】の上級スキル。
前方120°に波状の炎を発射、敵の肉体と思考を焼き尽くす。
CT:30秒 属性:炎 威力:物攻200%+魔攻200%
射程:5m 特性:思考破壊(一定確率で敵をスタンさせる)
*********************************
ちなみにスキルの詳細はこう。
獄炎付きは即死が効く中ボスの瞬殺用で、爆熱波は近づいてきた雑魚の殲滅用って感じだな。上級スキルだけあって、どちらも中々の威力である。
「これで終わりね。――〈黒炎放出〉」
俺は棒立ちになった二人にトドメの黒炎を一発ずつ放つ。
追加の生命力消費は無しだが、それでも[放出強化][放出大強化]によって増強された黒炎は十分な威力になっている。
両方合わせると威力200%マシなので、今の〈黒炎放出〉は倍率400%。
計算してみるとダメージは1880になる。Lv10前後のシーフの生命力は700程度だから……これは死ぬわ。
こうして人攫い共はあっさりと全滅した。ふっ、他愛なし。
使った生命力も祝福の効果で即座に回復したし、後は服を探して脱出すれば完全勝利だ。
「麻痺毒を守られた時は焦ったけど、なんとかなったわね」
「だがそうは問屋が卸さない――〈斬光閃〉!!」
「えっ?」
――だが突如、礼拝堂の入り口から光の斬撃が飛来した。
斬撃は油断していた俺の左手をズバっと切り裂く。二の腕辺りがパックリ割れ、中から血がドクドクと吹き出した。
「みぎゃぁあああああーー!!!!」
「ああっ、ご主人さま!?」
俺はその余りの痛さに悲鳴を上げる。
なにこれ? めちゃくちゃ痛い!! 熱い!! 自分の体から血が流れ出すという恐怖が、痛みを余計に増幅させる。この中にお医者様はいませんかぁー!? 頭の中は一瞬でパニックだ!!!
「――へへ、驚いたぜ。まさか裸で賊共を全滅させちまうビッチがいるなんてな」
そんな俺達の前に完全装備の騎士が姿を表した。
礼拝堂へ入ってきたのは、公爵家の家紋が入った鎧を纏った聖騎士。
それも意外なことに人数はたったの1人だ。
「……ものすごく強そうな騎士が出たっす」
ビビットが滝のような汗を流しながら身を震わせる。
なるほど、ボス(敵)のご登場って訳か(ゲーム脳)
どうやら人攫い共はただの前座だったようだな。
「あ”あ”あ”あ”あ”!!! いた”ぁーーーーーーい”!!!!!!」
「ご主人さま、しっかりしてくださいっす!!」
「無理ぃいいい!!!」
だがそんなことより俺には痛みの方が問題だった。
左腕を切り裂かれただけだが、思っていたより何倍も痛くて動けそうにない。
身を焼くような痛みがズキズキズンズンと脳味噌で暴れまわる。血とともに力が抜けていく。俺は剣を落としてその場に膝をついた。
……くそっ、スキルで生命力が減っても平気だったから油断していた。
幾らアビスリンの鍛えた肉体を持ってても、俺の精神は凡人なんだ。こんな痛みに耐えるとか絶対に無理。
物語の主人公たちは腕がちぎれても平気な顔で戦い続けるが、普通はそんな事が出来る訳ないよな。
「でもまだよ……。まだ終わってないわ……」
なので俺は即座にステータス画面を呼び出し、歯を食いしばって操作。
――汎用スキル [苦痛耐性]を取得しました。
急いで耐性スキルを取得した。
「ハァハァ……。SPを残しておいてよかった」
……ふぅ。スキルを取得すると焼け付くような痛みが引いていく。
すごい効果だ。麻酔なしの歯医者から、いっきに軽い打撲ぐらいになった。
残していたSPは無くなってしまったけど、何とかぎりぎりで首の皮一枚繋がったな。
「ご主人さまこれを! 人攫い共のポーションっす!!」
「ありがとうビビット。もう大丈夫だから下がってて」
さらに倒れた人攫いが持っていたポーションで傷を癒やす。
傷口に掛けてもらうと700ほど減っていた生命力が100回復し、すぐに出血が止まった。完全回復には足りなくても、傷を塞ぐには十分だったようだ。
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