第11話 フフフ、私のLvは57です
準備を整えた俺はついに反抗に出る。
「よし、準備終わり! このまま殺るわよ。――ココをキャンプ血とする!!」
「キャンプ血って、どんだけ殺すつもりなんすか」
「もちろん全部よ。当たり前でしょ? 私達の裸を見たんだから
「えーと、ドアのすぐ側に立ってるのが一人。他は近くにいないみたいっす」
試しに聞いてみると、ビビットは扉に頭を当てて周囲を探った。
おっ、それで分かるんだ。さすが[気配察知]持ちのレンジャー、敵探しはお手の物だ。
確か[気配察知]の効果はクラスLv*半径5m内の敵の感知。ゲームではミニマップに赤い光点が表示されるスキルだった。
俺も試しにドSレーダーを起動してみたが、こちらは特に反応がない。
人攫いの癖にドSは一人も居ないようだ。今更だけど、発見精度が性癖依存って使いづらすぎる。
「ちなみにこのドアも開けれたりする?」
「流石にドアは道具がないと無理っす」
ついでにドアも開けてもらおうと思ったが、こっちは無理らしい。
まぁキーピックどころか針金すらないから当たり前か。
なお今いる廃教会は正面玄関から入るとすぐ礼拝堂になっていて、その右奥から横に真っ直ぐ廊下が伸びた構造になっている。
俺たちが今いる部屋は、この廊下の一番奥にある小部屋だ。窓一つ無いので恐らく懺悔室だろう。監禁するにはうってつけだな。
「ならココは私が開けるわね。超絶テクで華麗に開いてみせるから、ちょっと離れてて」
「どうするんすか? 鍵開けの魔法は
「フフフ、大丈夫よ。とっておきの魔法を見せてあげるわ!!」
俺は扉から距離を取り、堂々とビビットに宣言。
確かに俺は炎魔法以外は使えない。だが代わりにLv57のステがあるのだ。
そして黒炎の魔剣士の物攻力成長率は戦士と同じ最高値だ。ステータスからの推測だが。ならきっとやれるだろう。
「行くわよ、これが私の鍵開け魔法ッ!!」
――太古の封印よ。城に眠る霊よ。我が願いを聞き届けたまえ。
――今こそ隠されし鍵を解かん!!
「ッシャァ!!
「えぇええええーーーー!!!」
叫びながら放たれる全力の前蹴り(鍵開け魔法)。
俺はドアをヤクザキックで見事に蹴り飛ばし、勢いのまま外に飛び出した。
「あ”あ”!? なんだてめぇら、何勝手に出てやがる!!」
「決まってるでしょ、犯罪者スレイヤーのエントリーよ!!」
ビビットが言った通り、側に見張りは一人しか居なかった。
反対の壁に背を預けていたソイツに向かって、俺は容赦なく攻撃を開始する。
「――〈
「て、てめぇ!
これは炎無効の敵対策として取った、半分が炎でもう半分が殴打属性の魔法だ。
右手を伸ばして魔法を発動すると、空中に黒い炎で出来た全長1mほどの円柱――破城槌――が出現、射出。
「んぼぉおおおおおお!! あびぃぃーーーーい!!!!!」
ドゴーンッ!!! という音と共に、炎で出来た破城槌が腹にぶち当たる。
すると見張りは衝撃と熱に悲鳴を上げ一発で死亡してしまった。
Lvが低かったのかな? 雑魚乙。周囲に人が焦げる匂いが広がる。
俺はそんな雑魚見張りの様子にニヤリと笑って――
「……おっげえぇぇぇぇ!!!」
「ああっ! ご主人さまーー!?」
――盛大にゲロを吐き出した。
手と膝を床について、胃の中身をゲロゲロとぶちまける。
ツンとした酸っぱい匂いが鼻の中で暴れる。あっ、さらに気持ち悪くなってきた。やばっ……!!
「おろろろろろろ」
「ちょっ、なに急に吐いてるんすか!?」
「げふっ、だって死体が、ぐちゃぐちゃだし。溢れた内蔵とか臭いも……無理!!」
眼の前で爆破されたように飛び散った血と肉片、腹に空いた穴からドバドバ溢れ出す臓物。
こんな時に何やってんだと思われるかもしれないが、初めて見るグロ死体は想像以上に気持ち悪かったのだ。ちょっと近くで魔法を撃ちすぎた。
「えー、こんなの動物バラすのと変わらないっすよ」
「まじで? ビビットは強いわね……うぷっ!?」
「ああもう、しっかりして下さいっす!!」
ビビットに背中を擦って貰いながら、俺は追加で胃の中身を吐き出す。
くそぅ、この程度で吐くなんて情けない。
いやでも無理だわ。人間が焼けて崩れる姿なんて初めて見るんだ。
しかも目の前で生上演だからな。日本育ちにこれで吐くなとか無理ぃ!!!
おかげで俺は「痴女」に続いて「ゲロイン」属性まで獲得してしまった。
メンタルなんて恐怖耐性あれば何とかなるじゃね? と思ったが、全然そんな事は無かったぜ。
だがこのままでは宜しく無い。なんせまだ戦闘は始まったばかりなのだ。
俺は揺れる頭でステータスを表示、急いで使えそうなスキルを取得した。
――汎用スキル [嘔吐耐性] を取得しました。
スキルを取得すると、急速に気分が落ち着いていく。
まだ多少は気持ち悪いが、それでも取得前とは雲泥の差だ。酒飲みすぎてグラングラから、生ピーマンを口に詰め込まれたぐらいにはなった。
「大丈夫っすか? ご主人さま。吐き切ると楽になるっすよ」
「……スキルを取ったから吐き気は大分収まったわ。ありがとう」
代わりに残していたSPを使ってしまったが、でもここで戦えないと死んじゃうからしょうがないか。出来れば水も飲みたいけど無理そう。
「それにしてもビビットは特に動揺してないみたいね?」
「村に居た時は勝手に狩りをした馬鹿を吊るしてたっすから」
「吊るされちゃうんだ」
許可なく狩りすると狩られるのか。村社会って怖っ!! 残酷な縄張り意識だな。
でもそれより気になったのは魔法の炎がどす黒かったことだ。
撃ったのは普通の炎魔法なのになんで? これも黒鳳凰の加護のせいか? やはり加護にはステータスに表示されない効果があるのか? 俺は気分を誤魔化すために余計なことを考える。
「おいぃ!? 今の悲鳴はなんだ!!?」
「見ろ!! 監禁部屋から出てる奴らがいるぞ!!」
「胸も股間も丸出し!! 痴女だぁーーー!!」
「くっ、もうバレちゃったか」
だが魔法について考察している暇はないようだ。
そうこうしていると人攫い共がワサワサ出てきた。
廊下の途中にあった食堂みたいな所から扉を開けてコンニチワ。人数は6人で、全員がしっかり武装している。
「チッ、油断して酔ってればいいものを」
「ひぃ、ワラワラ出てきたっすよ!!」
「ここは私に任せて。危ないからビビットは部屋に戻ってなさい」
「本当に大丈夫っすか?」
流石のビビットも素っ裸で男と戦うのは怖いらしい。
気分は最悪だが、それでもココは俺がなんとかするしか無いだろう。
俺は未だガクガクする膝を叩き気合で立ち上がる。ついでに見張りが持っていた剣を拾う。
ただの鉄の剣(推定攻撃力40)でも、あれば黒炎剣技が使えるからな。
戦力的には素手の見習い戦士から、エクスカリバーを持ったシド(FFT)ぐらいのパワーアップだ。ここは俺に任せて先に行け!!(行き止まり)
「おい見ろ! 見張りの奴が燃やされてるぞ!?
「あー、もう。気づくのが早いわよ」
こちらが魔法を使える事に気づくと、敵は手にクロスボウを構えた。
室内でも取り回ししやすい小型のハンドクロスボウ。
並んで狙いをつけると一斉に矢を放つ。普通なら蜂の巣にされる所だけど……。
――カン! カン! カン! カン! カカン! カンッ!!!
「馬鹿な!? 裸で防いだ、だと……!!」
「鋼鉄の……おっぱい!?」
「残念、効かないみたいね」
逆に俺に当たった矢は、全て不思議な力で弾けてしまった。
ふー、ドキドキしたけど上手く行った。アビスリンの記憶で分かっていたが、ステの物防力さんはしっかり仕事をしてくれたようだ。これなら一々避ける必要はないだろう。
「うわー、なんか鉄に打ち込んだみたいな音がしたっすよ。鉄の胸?」
「フフフ、何でか知りたい? その答えは簡単。――私のLvは57です」
「……そう言えば滅茶苦茶Lv高かったっすね」
ビビットがドアから顔だけだして感想を述べる。
防げたタネは簡単で、単にそれだけ俺と敵のステータスに差があるということだ。
なんせ【ぼくのぞ】のダメージ計算は物攻力から物防力を引く単純なもの。
当たり前だが物防力の方が高ければダメージは無くなる。今回は敵の物攻力より俺の物防力の方が高かった、という訳である。
「私の素の物防力は266、対してハンドクロスボウ(小型弩)の攻撃力は30しかない。
「えー、それ無理じゃないっすか? そんなのがこんな所にいるわけないっす」
「クリティカルヒットはダメージ1.5倍だから元が0だと意味ないし、攻撃スキルを加味してもLv20は必要かな? まっ、無理でしょ」
数値で計算するとこういう事だ。
ちなみにこの世界のLvは一般騎士で10、精鋭が20、近衛ですら30程度しかない。
なのでこの辺の賊が俺を傷つけられる訳がないんだよなぁ。防具なんて着なくても全然平気という訳である。
それに普通の女なら恥ずかしがって動けないだろうが、俺は体が女でも心は男。
裸で戦うなんて何ともない。フッ、TSの経験が生きたな。防具無しマゾプレイの開始だ。葉っぱ一枚なくていい!!
「でもそんな強いなら、なんで馬車で麻痺ったんすか?」
「ま、麻痺耐性は取ってなかったから(震え声)」
まぁそれでも状態異常は有効だから、不意打ちの麻痺紅茶は効果抜群だったけど。
しかしその弱点も耐性スキルを取ってもう無くなった。剣も手に入ったし、後はずっと俺のターンだッ!!
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