第10話 あのメイドは絶対に殺しゅ!!

「嫌だぁーー! 何で買われて即殺されるんすかーー!! 死にたくないっすーーーー!!」

「落ち着きなさいビビット。でもその気持はよく分かるわ。……私も死にたくなーーーーい!!!」


 連れ込まれた部屋で、希望の未来3食オヤツ付き生活から絶望に叩き落されたビビットが吠える。

 遠吠えみたいでうるさい。まぁかく言う俺も似たような醜態を晒しているが。


「ヒュー、どっちもいい女じゃねーか!! こりゃ相当高く売れるぜ!!」

「ギャハハハハ! ラッキーだったな、まさかこんな上玉が手に入るなんてよ!!」


 そんな俺達の前では、下品そうなオヤジ共がやじを飛ばしている。

 麻痺毒を漏られた後、俺達を受け取った裏組織の人間らしき輩である。恐らく街を根城にしている人攫いだろう。

 彼等は俺たちを別の馬車に載せ替え運んだ。連れ込まれる時にチラりと見えたのは、ボロボロの廃教会だ。


「おい新入り! 逃げられないように服剥いで見張っとけ。服も高く売れるんだから破くんじゃねーぞ」

「ゲヘヘヘ、お嬢様の癖にエッロイパンツ履いてるじゃねぇか!! クンカクンカッ」

「ギャー! 私の紐パンツぅーーーーー!!」


 人攫い共は俺たちを犯すことはなかったが、かわりに服を剥ぎ取っていった。

 それも破らず一枚ずつ丁寧にだ。金の為とはいえ変なところで紳士だな。でも匂いを嗅いでるのは最高にキモイから許さん。


「こっちのガキは色気ないパンツだな。クンカクンカ……しょんべんくせー」

「あぁー! わたしのパンツに何してるっすかぁーーー!!」

「フッ、食べる前のテイスティングだ」

「たべるの!?」


 人攫い共はそんな事を言いながら、俺たちを裸にして部屋から出ていった。

 犯罪者に捕まり全裸の美少女が密室に二人。何も起きないはずがなく……。おっ、エロゲの凌辱パートかな?


「ああああああ!!!! せっかく最高の奴隷が買えたと思ったのに!! 何でこうなるのよ!? あのメイドは絶対に殺しゅ!!!!」

「……ご主人さまもキレてるじゃないっすか」

「当たり前でしょ。今度あったら逆に紅茶をご馳走してやるわ。下剤入りで!!」

「それならお尻から直接流し込むっすよ。ポッドで!!」

「良いわね。ぜひやりなさい。ぜんぶ許すわ」


 俺は両手足を縛られた状態で、魚のようにビッタンビッタンと暴れる。

 ああもう、今回は順調だと思ったらコレだよ!! 人攫い共のゲビた視線を思い出したらイライラしてきた。


 やはり加護のどちらかに運マイナス補正があるんじゃないか? こう、隠しデータみたいに。……両方ありそう。


「それでも、あのメイドは一つだけミスを犯した。私達を殺さなかったことよ」


 ただ、ベトレイヤーは自分の手を汚す度胸は無かったらしい。

 人攫いに俺たちを渡すだけで去っていった。

 おかげで俺はまだ生きている。手足の腱も切られていない五体満足だ。ならばまだワンチャンあるぞ!!


「麻痺ももう解けたし、後はこの縄さえどうか出来れば殺れるわ。……グヌヌヌヌッ!! やっぱり千切れないかー」

「いや普通は無理っすよ? この縄ガッチガチっす……」


 麻痺はとっくに解けているので、手を後ろで縛る縄を外そうと力を込める。

 だが縄は全く緩まない。ステータスの「物攻力」は、身体の「筋力」とは別扱いのようだ。


 まぁゲームでもLvアップで持てる重量が増えたりはしなかったからな。肉体能力は純粋に鍛えるしかないのだろう。


「とすると困ったわね、この縄さえ解ければ後はどうにでもなるんだけど。ビビットでもこの縄は解けないの?」

「それなら余裕っす。縄抜けは習い済みなんで。……ほいっと」

「うわー、タコみたい……」


 私では手も足もでなかった縄だが、ビビットはあっさりと外してしまった。

 手の関節をゴキゴキ外して、シュルっと抜け出す姿はまるでタコのよう。

 それからビビットは関節をハメ直し、今度は私の縄を普通に外し始めた。斥候職ってすごい!!


「助かったわビビット。なんて有能。貴方を買って本当に良かった。しゅき……」

「ちょ、何で急に抱きついてくるんすか! あっ、胸もんじゃ駄目っ…!!!」


 感動して思わずビビットを抱きしめる。たいへん柔らかい。

 特に素晴らしいのは小さな身体から突き出したおっぱいだ。

 柔らかくて手のひらの中でフヨフヨと形が変わる。

 アビスリンのと併せて挟んだら気持ちよさそう。これがダブルパイパイシステム……!! 裸の女が監禁されて抱き合うとかレズ本が渋るな。


「よし、じゃあ心もだいぶ落ち着いたし、反撃の準備を整えましょうか」

「抱きつく必要はどこに? ご主人さまが強いのか不安になってきたっす」

「大丈夫、大丈夫。私を信じてー」


 トラストミー、プリーズ! ポッポー!! ……いやこれは全く信じれないな。

 そうして回復した俺は早速、ステータスを開く。

 画面の位置は頭の前固定(相対位置)なので、後手に縛られた状態では操作出来なかったが、こうなったらこっちのもんだ。


 ――汎用スキル [毒耐性] を取得しました。

 ――汎用スキル [麻痺耐性] を取得しました。

 ――汎用スキル [睡眠耐性] を取得しました。

 ――汎用スキル [石化耐性] を取得しました。

 ――汎用スキル [魅了耐性] を取得しました。

 ――汎用スキル [病気耐性] を取得しました。

 ――汎用スキル [即死耐性] を取得しました。

 ――汎用スキル [呪い耐性] を取得しました。

 ――汎用スキル [恐怖耐性] を取得しました。


 まずは主要な耐性系を一通りゲット。

 コストは一つ50SPだったので、全部で450SPも使ってしまった。

 だがワンミスゲームオーバーへの対策と考えれば安いものだ。どんなゲームでも状態異常対策は必須だからな。人殺しへの葛藤も恐怖耐性があれば何とかなるっしょ。


 続けて黒炎剣技スキル。


 ――黒炎剣技スキル [黒炎放出強化]  を取得しました。

 ――黒炎剣技スキル [黒炎放出大強化] を取得しました。

 ――黒炎剣技スキル 〈壊魔大炎剣〉 を取得しました。

 ――黒炎剣技スキル 〈破砕降爆剣〉 を取得しました。

 ――黒炎剣技スキル 〈恐慌爆熱波〉 を取得しました。

 ――黒炎剣技スキル 〈無双死焔突き〉 を取得しました。

 ――黒炎剣技スキル 〈黒凰核斬撃〉 を取得しました。


 こちらは遠慮せず全て取得する。

 黒炎放出の強化が2つに、必殺技っぽいのが5つ。 

 コストは全部できっちり1000SP。特に最後のは400SPも必要だった。

 それでもメインスキルなのでSPを注ぎ込む。どれも強そうなので早く使ってみたい。初期スキルの〈黒炎放出〉も二重に強化されかなり強くなった。


 ちなみに囲いが[]なのは常時発動パッシブスキルで〈〉は手動発動アクティブスキルである。


 それから残りのSPで魔法も取得しておく。

 なんせ今の俺は武器を持っていないからな。剣を奪うためにも魔法は必要だろう。


 ――炎魔法スキル 〈炎弾〉 を取得しました。

 ――炎魔法スキル 〈火炎槌〉 を取得しました。

 ――炎魔法スキル 〈内破加熱陣〉 を取得しました。

 ――炎魔法スキル 〈熱活性〉 を取得しました。

 ――炎魔法スキル 〈熱加速〉 を取得しました。

 ――炎魔法スキル 〈炎の印〉 を取得しました。

 ――炎魔法スキル 〈灼炎圧縮〉 を取得しました。


 取ったうち4つがバフ魔法。やはり魔法戦士といえば自己バフである。

 全部で410SP。黒炎剣技に比べると抑え気味だが、魔法はサブなのでこれぐらいが丁度いいだろう。何でもかんでも取るとSPが足りない。余った100SPは困ったときのために取っておく。

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