第5話 世界樹の祝福(極)

「ざっけんな、あの色ボケ世界樹……ッ!! なんで一発かましただけで心臓が苗床になってるのよ!!!」


 本格的に燃え始めた世界樹から逃げ、何とか自室に戻ってきた。

 世界樹はナパーム液(火炎放射器)を掛けられたような燃え方をしていた。

 弱点属性だったのかな? 全体が火だるまって感じだ。あれではもう歴史を読み取るなんて不可能だろう。


 かわりに俺は世界樹の性癖を満たし大量経験値を得たが、余計な荷物まで背負わされてしまった。次世代の世界樹、超弩級の荷物である。俺はただヤケクソでスキルブッパしただけなのに、どうして……。


「いや、これ荷物じゃなくて地雷よね? 私が死んだらそこに世界樹が生えるとか、バレたら世界中で拉致合戦不可避なのでは?」


 この世界の世界樹とは「世界に恵みをもたらす」と信じれている存在だ。

 大地の栄養を回復し、作物を実らせ、葉は超高級薬の材料になるらしい。


 ではそんな世界樹を新たに生やせると知られたらどうなるか?

 知った奴はあらゆる手段を用いて俺を手に入れようとするだろう。

 だって独占すればマウント取り放題で金にもなるし。場合によっては他国を脅迫することだってできる。……あれ、これ地雷じゃなくて核ミサイルじゃね?


「いや落ち着くのよ。まずは今の状態を確認してみないと。もしかしたら通知の不具合かもしれないし? Windows(エラー)を信じろ。……ステータスオープン!!」


 だがここで焦っても状況は一つも良くならない。

 そう思った俺は冷静にステータスを表示する。窓Me(バグの固まり)の起動ボタンを押すような気持で。


************ ステータス *************


【基本情報】

 本名:アビスリン・フラム・アチチバーン

 種族:人間フューマン族 性別:女 年齢:17

 称号:アチチンバーン公爵家の長女

 職業:黒炎の魔剣士Lv57


【能力一覧】

 生命力:5/5110 魔力:10/2560

 物攻力:523 物防力:266 俊敏性:254

 精密性:118 魔攻力:377 魔防力:255


【技能一覧 残りSP:1960】

 黒炎剣技:〈黒炎放出〉

   固有:〈炉心溶爆メルトバースト


【その他一覧】

 黒鳳凰の祝福(極):討伐時生命回復、炎属性無効、特殊職業、余命2年

 世界樹の祝福(極):生命回復2倍、世界地図、ドSレーダー、心臓苗床


********************************


 生命力と魔力がごっそり減っているが、別に体調は悪くない。

 ダメージを受けても平気で動ける世界なのか?

 それから祝福の方はやはりダメみたいだ。


「……あちゃー、やっぱり聞き間違いじゃなかったか。心臓苗床て」


 改めて確認してみると、しっかり心臓が苗床になると書かれていた。

 エラーも希望もなかった。くそっ、ブルースクリーンさん逃げやがったな。


「ゲームに出てきた祝福はプラスしか無かったのに、どうして私のには余計な効果が付いているの?」


 ゲームでは(大)までだったのに(極)って付いてるせいか?

 どんだけ全力で祝福しやがったんだ。これが本当のありがた迷惑……!!


「てかこの内容。世界地図、回復量2倍、ドSレーダー、苗床って完全にドM用でしょ。なんなの? これで理想のご主人さま(ドS)を探してお楽しみ下さいって事なの?」


 与えられた祝福2つの酷さに目眩がしてくる。

 どっちもデメリットが酷すぎるが、世界樹の方は更に変態すぎて目も当てられない。どう見ても理想のご主人さま捜索セットだ。てかドSレーダーとかどう使えと?


「まぁ一度ぐらいは起動してみましょうか。この辺にドSの反応は……うわっ、3人もいる!!」


 試しに〈ドSレーダー〉を起動してみると、公爵城内に3人を感知できた。

 ただしゲームでよくあるミニマップっぽいのは出てこない。分かるのはドSがいる方角と距離だけみたいだ。一番遠いのは50m先。ドS以外は一切分からないし、こりゃほぼ産廃だな。


「ついでに〈世界地図〉も。……おっ、こっちはほぼグーグルマップだわ」


 対して〈世界地図〉の方は使うと頭に地図が浮かんできた。

 【ぼくのぞ】攻略Wikiで何度も見た、ハートマーク型の大陸図である。


 試しにアチアチ山を探そうと考えると、大陸中央の山岳に赤いピンが刺さった。

 さらに視点の移動と縮小拡大も可能なようで、地形から高低差まで山の様子がよく分かる。完全にグーグルマップである。こっちはすごい便利そうだな。


「ふむ、これは鳥野郎を殺れる目が出てきたのでは? 大幅にLvも上がったし場所も分かった。なら後は覚悟を決めて、生きる残る為に全力であの鳥野郎をぶち殺すべき?」


 なんせせっかくゲームキャラに憑依したのだ。出来れば色々楽しみたいよな?

 くっ殺プレイ、レズックス、イチャコラ、裸お散歩……。やりたい事は沢山思いつく。もちろんどれも可愛い女の子相手にだ。


 それにアビスリンは【ぼくのぞ】に置いて、序盤に主人公を助け導く存在だったが、それは丁度よい身分(公爵家令嬢)だからと、国から押し付けられた役割だったはず。


 なら仮に俺がいなくなっても、別の誰かが主人公の世話をするだろう。

 ゲームの主人公(勇者君)は一度確認しておきたかったが、こっちは諦めた方がよさそう。


「えーと、今は聖女神歴998年の4月。とするとゲーム本編開始までは後一年、世界崩壊には1年半年ほど猶予があるわね」


 聖女神歴998年04月:【今ここ】

  ―― 1年経過 ――

 聖女神歴999年04月:勇者が召喚される【ゲーム開始】

 聖女神歴999年05月:勇者が救世の旅に出る

 聖女神歴999年09月:女神が過労死して世界崩壊

 聖女神歴999年12月:魔王と最終決戦【ED(勇者が無理心中される)】


 確かゲームではこんなスケジュールだったはず。


「一学期に勇者が来て、一ヶ月後に旅へ出発、9月に神が死ぬのよね。んで永遠の神無月(10月)が訪れると。よし、ちゃんと覚えてる」


 この辺は分かりやすい日程だったので簡単に思い出せた。

 そして現在はゲーム開始のほぼ1年前になる。


「ゲームの歴史通りに進めば、私の余命前にEDね。勇者に泣きつくのはダメそう」


 アビスリンになりきって原作ムーブすれば、勇者PTに加わることは可能だろう。

 だが勇者PTはのが確定している。ラスボスに勝とうが負けようが関係なくだ。


「なら黒鳳凰を倒して貰ってから何とかPTを離れる? いや無理ね、あのヒロインズが許すはずがない」


 ならば鳥野郎だけ倒してもらって抜けるか? いやそれも無理だろう。

 なぜなら【ぼくのぞ】のヒロイン3人は、全員がだからだ。


 それも別れたくないからと、元の世界(地球)へ帰る勇者にを迫るほどのドチャ重ヒロイン達だからな。ある意味、全員が勇者至上主義の狂人。利用するだけ利用して抜けるなんて許すはずがない。


「……やはり勇者に関わるのは無しね」


 うん、どう考えてもこんな狂人PTに加わるなんて正気じゃないな。

 むしろ全力で逃げなければ。なら俺が取るべき道は――


「――よし、せっかく地図が手に入ったことだし、こうなったらもう原作は完全無視で出奔しましょう!!」


 どう考えてもこれ一択だよね? ハイ、決定!! 

 アビスリンムーブ? 勇者を導く役割? 知らんがな。


 序盤の勇者君ケア係は、誰かが代わりにやってどうぞ。

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