第3話 それは私がドMだからです

「ステンバーイ……ステンバーイ……GO!!」


 誰にも見つからないようにコソコソと公爵城の中を進む。

 ドアに耳を当て、壁に張り付き、かがんで前進。最後は窓から飛び降りてダッシュ。


「あった!! この辺は変わってないようね。フフ、ゲームと同じエロ樹だわ」


 目的地は白の裏庭奥に生えている、女性の鼠径部のようなY字型のエロ樹。

 無事にたどり着いた俺はその樹をペタペタと触り、中央にあるハートマーク模様に右手を重ねた。


「えーと、確か1919-9898-8080イクイク-クパクパ-パオパオ、っと」


 そして周囲に誰も居ないことを確認してから、認証呪文パスワードを唱える。

 本来はエンディング後に開示される、酷すぎて忘れることが出来ない呪文だ。


 すると足元に白緑の渦が出現し、飲み込まれると視界が暗転。気づけば俺は雲を突き抜けるほどの――


 ――巨大なの前にいた。


「へぇー、これが世界樹ね。枯れてるけど、すごいファンタジー!! 枯れてるけど!!」


 見上げても樹は視界に入りきれないほどの巨大さだ。

 それでいて周囲には何もなく、どこまでも平原が拡がっている。創作物でよくある謎空間である。


 地球では絶対にありえない光景にテンションが上ってくる。

 ちなみにゲームだとこの場所はクリア後のオマケ扱いで、世界樹から記憶を読み取る事でストーリーの裏側を知ることが出来た。ただし分かっていれば何時でも入れる。


『――人の子よ、良く来てくれました』

「えっ、誰?」


 俺はさっそく世界樹に近づく。すると中から全身を発光させた人型が出現した。

 純白のワンピースに真っ白な髪のツインテール。瞳は茶色で、恐ろしく神聖な空気を纏っている。マドマギのマドカ神を、白ペンキで全身塗りたくった感じだ。


『私はこの世界樹の化身。世の始まりから全てを見守り続ける存在です』

「世界樹の化身、ですって……?」


 つまり世界樹そのものの意志ってことか?

 ゲームでは誰も居なかったのでかなり驚いた。

 それに心なしか化身様はワクワクしているように見える。久々に客が着て喜ぶ店員(俺)みたいな? もしかしてコイツも鳥野郎と同じボッチなのかな?


『貴方がここに来た理由は分かっています。――私を一発殴りに来たのですね?』

「えっ? いやある意味そうですけど、しかし何故それを?」

『なるほど。であれば遠慮なく伐り倒すと良いでしょう』

「いやそこまではしないが? なんでそうなるの??」


 予想外の出会いに若干ワクワクしていたら、世界樹の化身は変な事を言いだした。

 おおーと、また雲行きが怪しくなってきたぞぉ~? ちょっと嫌な予感がするな。というか段々と神聖な雰囲気が薄れてきているような……。


『決まっています。――それは私がだからです!!!!』

「うそでしょ貴方!? そんな何者にも汚されない清楚の化身です、みたいな姿しといて!!」


 なんだろう、最初に会った鳥野郎もそうだったが、この世界の超常存在はみんな頭が湧いているんだろうか? これはひどい。


『大丈夫です。これでも私は自虐のプロですから』

「それでいいの? 世界樹の化身なのに?」

『実は余りにも暇すぎてMプレイにドハマリしちゃいまして。最初はこう、木の枝で自分をペチペチ叩くだけだったのですが、気づいたら痛みが癖になっていたと言いますか。ハハッ……アナルはお好きですか?』

「そこまで聞いてないわよッッ!!」


 世界樹の化身は身をくねらせながら、喜々として姓癖をカミングアウトする。

 顔がだらしなく緩んでいる。もやは最初の神聖な空気はどこにも残ってない。はっきり言って気持ち悪い。


 だがこれは意外とチャンスではなかろうか?

 例えドMのド変態でも世界樹の化身、恐らく推定最上位の存在である。

 ならば少しでも生命力を減らすことが出来れば、多少は経験値が貰えるかもしれない。


「うーん、そういうことなら、せっかくだしヤッてみようかな? 気持ち悪いけど」

『ええ、ええ! 何時の時代でも挑戦とは素晴らしい事ですよ!! それと武器はこの聖剣を使いなさい』

世界樹の聖剣ワールドツリー・セイバー……トロフィー武器じゃん」


 世界樹の化身(変態)はご丁寧に武器までくれた。両刃で分厚い片手剣。

 鍔が捻れた木のようで、そこから緑色の蔓が伸び、グルグルと剣身に巻き付いている。聖剣伝説に出てくるマナの剣にそっくり(そのまま)だ。


 試しに装備してステータスを確認してみると、俺の物攻力は1千を超えていた。


 **********************


 武器名:世界樹の聖剣ワールドツリー・セイバー 攻撃力:1000


 **********************


 上がったステータスから逆算した性能はこうだ。

 ゲーム主人公(勇者)の最強剣が攻撃力255なのを考えると、凄まじい性能である。文字通り桁が違う。


「これめっちゃヤバい武器だと思うんですけど? 本当に使っていいんですか?」

『どうせ後2日もすれば壊れるポンコツです。持ち出しも出来ませんし、遠慮なく使うとよいでしょう。きっと気持ちいいですよ~(涎)』

「あっ、やっぱり壊れるんだ」


 ド変態の言葉をゲーム的に解釈するなら、後2日で耐久が0になるのだろう。

 ゲームでは壊れていて装備できない、記念トロフィー扱いの剣だったからな。

 出来ればどうにかして持って帰りたいが、まぁ普通に無理っぽい。


「でもその前に『黒鳳凰』って知ってます? 会う方法を探しているのですが」


 ついでに黒鳳凰のことも聞いておく。

 世界樹の化身なら知っているかもしれない。


『それならアチアチ山の頂にある祠で祈りを捧げれば会えるでしょう。祈りの言葉パスワードは9696-8383です』


 おっ、まじで知っていたようだ。ラッキー。

 パスは9696-8383くろくろ-ばさばさね。覚えやすい。


『ちなみに黒鳳凰のLvは96ですよ』

「Lvまで96(クロ)ってマジで?」


 このゲームってLv60あればクリア可能だったんだが?

 クソゲー!!!

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