自暴自棄
体育祭が終わった日、俺はあの日からつけていなかったルーイの配信を開いた。
そこにいるルーイはいつものルーイだった。
真剣にゲームに打ち込み、時にはコメントと雑談をして、俺がいなくても回っている。
・《モブ》お久~調子どう?
俺はついつい書き込んでしまう。
自分でも思うけど未練がましい。
でもしょうがないじゃないか、ここで繋がれることが俺の精神を安定させるんだから。
ここにいるときは俺は田臥茂枝じゃない、ただの《モブ》なのだから。
「《モブ》久しぶり~っていうほどでもないかな、最近来てなかったよね、忙しかった?」
その声は間違いなく来栖さんだった。
いつもと変わらない声で、態度で俺と接してくれている。
それが嬉しくて、悲しかった。
ああ、俺はモブだからな、その他大勢とかわりゃしない。
ここにいる名前のない有象無象と何が違うって言うんだ。
名前なんかつけて、独占したかったんだろ。
だからこんなことになったんじゃないか。
・モブ久しぶり~
・《モブ》ちょっとねー忙しくて
・誰?
・ルーイのファン一号かな多分
ふふ、ファン一号だよ。
俺だけ、俺だけが知ってた、知ってただけ。
どうすればよかったんだろう、チャンスはいくらでもあったのに、何もしなかったから。
だって仕方がないじゃないか、俺は、そんな器じゃない。
そんな言い訳ばかりしてこれからも生きていくのか。
いやだいやだいやだ。
・《モブ》告白の返事は決まった?
「え、何のこと? ――た、田臥君?」
・なになに
・告白ってなんのこと
・知り合い? 何かの隠語?
・リアルの知人か?
・《モブ》赤木はいいやつだよ
・このメッセージはモデレーターによって削除されました
俺の書いたメッセージが消える。
あはは、何してるんだろ。
ばらしてどうするんだ? どうもしないだろ。
アホみたいなことしてんなぁ。
「ちょっと……、今日は配信ここまで、それじゃ」
ルーイの配信が終わる。
きっと今彼女は色々考えているだろう。
明日どうしようかなあ、学校。
休もうかな、目の前で見るのもつらいし。
多分昼ご飯はいつもの面子で食べるんだろうな。
耐えられるか? 無理だろ。
俺は自暴自棄になりながら、天を仰いだ。
軋む椅子の音が静かな部屋に響いていた。
次の日、俺は学校を休むこともなく登校した。
いつもの通学路から少し外れて来栖さんと会わないようにする。
学校に着こうかというところ、駐輪場に向かっていくと見覚えのある彼女が仁王立ちしている。
来栖さんだ。
なんで、いや俺を待っているのは明白だ。学校の駐輪場はここにしかない。
俺は引き返そうかと思った。
でも今更か、観念して俺は自転車を漕ぎ続ける。
俺を見つけた来栖さんが声をかける。
「おはよう、田臥君」
「……おはよう、来栖さん」
その顔はいつも通り無表情だったけど、どこか怒っているようにも感じた。
俺は自転車を駐輪場に置いて、来栖さんの方を見る。
逆光になった彼女は眩しくてよく見えなかった。
ただ腕を組んで待っていることだけは分かる。
来栖さんが口を開く。
「今日、放課後時間ある?」
「……あります」
「じゃあちょっと待っててね」
「はい」
有無を言わさずといった感じ。
俺は素直に従う。
気まずい空気のまま、教室へと向かう。
俺は顔をあげれず、来栖さんの後をついていく。
下駄箱で靴を履き替え、前を向くと彼女はもういなかった。
ほっとした。
先に行ってくれたんだな。
上履きを履いて下駄箱を通り過ぎて角を曲がると、目の前には来栖さんがいた。
「うわっ」
「人の顔を見てなんですか、うわって」
油断していた。
下を向くと来栖さんがいるので向けない。
しょうがなく天井を眺めている。
「どうしたんですか、上向いて。教室に行きますよ」
「はい……」
そういうと来栖さんが俺の腕を引っ張って来た。
それに吊られるよるに俺は前に進む。
今まで見たことのない来栖さんの行動に俺は混乱しっぱなしだった。
そのまま教室まで行くと若干奇異な目で見られたが、すぐに手を放して関係ないアピールをした。
ぎろりと来栖さんには睨まれたが気にしない。
いやめっちゃ気になるけど。
鈴木が話しかけてくる。
「お前何やったんだよ、なんかめっちゃ怖いくない?来栖さん」
「いや、はは、なんだろうな」
馬鹿正直に答えるわけにもいかず、俺は口を閉ざした。
授業中も来栖さんのことが気になりチラチラ見たが、特に俺のことを見ることなく授業に集中していた。
やっぱ真面目なんだよなあ。
そして問題のお昼、今日も来栖さんが俺の前にやってきた。
赤木もだ。
そうなると当然吉田も来る。
……きまずぅ……。
来栖さんがいつもとは違うはっきりとした声で問いかける。
「赤木君、放課後時間ありますか?」
「部活前だったら、空いてるけど」
「じゃあそれでいいです。ちょっと待っててください」
あーついに返事をするのか。
俺は落胆するような、ていうか俺との約束は?
てか吉田がなんか怖いんですけど。
そう思っていると携帯がブルっとなった。
来栖さんからのメッセージだった。
来栖:赤木君の後に話があるので待っていてください
田臥:はい
なんかもう怖い。
助けて誰か!
自業自得なんだけどさあ。
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