罪悪感

 次の日から来栖さんと一緒に登下校することが多くなった。


 登校は大体走っているとそのうち出会うのでそこから、下校はちょっと恥ずかしかったけど疲れている来栖さんを送るという名目を付けて帰っていった。


 鈴木あたりには揶揄されたけど、あんまり気にならなかった。


 なんか最近は隣に来栖さんがいるのが当たり前になってきた。


 その空間が心地よい。


 特に会話が弾んでるわけでもないんだけど、無言が苦にならない。


 もちろん彼女が可愛いというのもあるんだろうけど、それだけじゃないなとも思う。


 ルーイの配信は相変わらず低飛行を続けている。


 何かの拍子でバズってしまったらどうしようかと考えることもある。


 浅ましくも独占欲というのが出てきてしまったのだろうか。


 このままひっそりと、俺だけが知っている彼女でいて欲しい。


 そう思ってしまった。







「コンコン~、ルーイだよ~、今日は雑談で~す」



・ゲームは?

・珍しいね

・俺は雑談しに来てるんだが

・《モブ》なんかあったの?



「最近は体育祭の準備で、結構ハードなんだよね、体が。だからゲームするのも疲れちゃって。少し短めにして今日は雑談しようかなって」



・体育祭、懐かしいな

・ルーイって高校生なんだ

・学生なんだ、いいよね青春だね



「去年は仮病して休んじゃったから、今年はちゃんとやろうかなって。サポートしてくれる人もいるし」



・サポートって、お母さんかな?



「そうだね、そんな感じ」



 俺お母さんかよ。


 保護者目線なのは否めないが、いや本当のお母さんかもしれないし。



・《モブ》お母さんと仲いいんだね



「――そうだね、でもその人はお母さんじゃないよ」



 少し言いずらそうにしたのが引っかかったけど、何のこともないだろうと俺は聞き流した。



・学生と言えば恋バナでしょ!

・ルーイは誰か好きな人いないの?

・友達、知り合いのでもいいよ



「うーん、恋バナ、したことないから分かんないや。誰かを好きになるって言うのもなったことないから分かんないんだよねえ。他人のなんてなお更分かんない。分かんないことばっかり。でも興味あるよ!」



 意外だった。


 来栖さんくらいになると告白とかされるからもっと恋について詳しいかと思った。


 誰かに好きって言われるのと自分が好きになるのは別か。



・《モブ》告白とかされたことないの?



「ないかなあ、偶然見ちゃったことあったけど、その人振られてて可哀そうだった」


 ないんだ、これまた意外。


 高嶺の花過ぎて逆に近寄り難いのかな。


「でも最近は、友達が出来て楽しいかな、今までいなかったから」


 友達、か。


 俺もそう思ってたけど、実際に来栖さんも思っていてくれたことが嬉しかった。


 そうか、友達か、友達……、いかんニヤけが止まらない。


 知り合い、クラスメイトから昇格してる。


 登下校も一緒だしまあそうだよな。


 これでクラスメイトだったらちょっと傷つく。



・《モブ》ルーイってなんでVtuber始めたの?



 俺は気になってた。


 明らかに向いてなさそうというか興味なさそうな事なのに、きっかけがあったって言ったけどなんだろう。


「そうだね、……うーん、私って友達いないって話したでしょ。それって勉強ばっかりしてたせいで、親が結構そういうの熱心で、自由がなかったんだよね。それでも学年一位にはなれないし、期待に応えられなくて」


 教育ママかあ、一定数いるよなあ。


 そればっかりはどうしようもないよね。


 だからあんまり人と絡むのが得意じゃないのか。


「で、私に妹がいるんだけど、その子がすごく優秀で県で一番の中学校に合格して、それから親の関心が私から完全に妹に行っちゃって、簡単に言えばお払い箱になっちゃったんだ。そしたら何したらいいか全然わかんなくなっちゃって、とりあえず勉強は続けてたけど、意味があるのかなって」


 思っていたよりヘビーな話を聞かされて俺は罪悪感を覚える。


 気軽に聞いていい質問じゃなかったかもしれない。


 それでも彼女の独白は続く。


「それで高校に進学したんだけど、今まで人間関係なんか作ったことなかったから友達も作れなくて、今まで感じたことのない孤独感が襲ってきて、私どうしたらいいんだろうって悩んでたの。そんなある日にたまたま動画を見てた時流れてきた配信があってその人の配信を見てたの」


「その人の配信は私みたいに人がいなくて、でも楽しそうにやっている姿が印象的で誰も見てないのになんでそんなに楽しそうなのってコメントしちゃったんだ。そしたらその人は『君が見てくれてるじゃないか、それに誰も見てないかもしれないけどチラッと見た人が笑顔になると思うとそれだけで俺は嬉しくなるんだ』って」


「まあそう言ってたのにその人が次に配信することはなかったんだけどね、だけどその言葉がすごく印象的で、私でも誰かの笑顔を作ることが出来るのかなって、そうしたら何か変わるのかもと思って、顔出しはさすがにできないからイラストを依頼してVtuberを始めることにしました。こんな感じかな」



・思ったより重い

・楽しいよ! 俺は

・言った人やめてて草

・でもルーイは続けてるから……



 これ俺が聞いていい内容じゃなかったな……。


 今更だけど、俺は勝手に来栖さんの内面を聞いて、知った風な事を言って、随分勝手にやってたんだな。


 最初は浮かれてたけど、俺のしていることって結構最悪なことじゃないか?


 同級生の秘密を知ってるのに、それを隠して表面上は付き合う。


 騙しているようなものだ。


 急にスーッと頭が冷えて、俺は配信を閉じた。


 俺はベットに横になって不貞寝するように目を閉じた。

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