応援の練習

 体育祭の準備がすすんできた。


 実行委員を決めて、Tシャツの柄の案を出したり、空いている人間は応援の練習。


 結構やることがある。


 こういうとき時間のある帰宅部は参加が強要される。


 部活という言い訳が効かないので。


 特に夏場が近いとそれぞれの部活は最後の大会に向けて練習にも熱が入る。


 まだ二年だけど赤木もその例に漏れることはない。


 俺も応援の練習に参加している。


「だるいよな~、まあ3年生が主導してくれるから楽だけど」


 愚痴る鈴木、同じく帰宅部な俺と同じ境遇だ。


 応援はパフォーマンスの一環とし行われる全学年参加の採点式の競技だ。


 グラウンドは使えないので近くの公園で練習をしている。


「そこ、ズレてるから周りと合わせて」


 3年生からの指導が入る。


 俺にではない、鈴木にだ。


 まあこう見えて俺は結構器用なので問題はない。


 俺は順調に振付を覚え練習を繰り返していると一人の女の子が蹲ってしまっていた。


「大丈夫? 苦しそうだけど」


「だ、大丈夫です」


 来栖さんだ。


 運動は苦手とかいうレベルじゃないのだろう。


 この程度の運動で気分が悪くなるのはかなりの運動不足だ。


 ゲームばっかりしてるからだぞ!


 俺も人のことは言えないか。


「それじゃあ今日はここまで、動画を配布するから覚えられてない人は参考にするように」


 そう言って3年生の人が皆に動画を配る。


 俺はいらないけど一応貰っておいた。


「来栖さん大丈夫?」


「……だいじょ……うぶ」


 来栖さんに声をかけてみたが全然大丈夫そうじゃない。


「来栖さんってバス通学?」


「うん、近くにバス停があってそのまま直通でつくの」


「そりゃ運動不足にもなるね、時間があるなら歩いてみたら?」


「……考えておくね」


 俺は結構時間がかかる自転車通学をしている。

 

 普通に漕いでいては30分かかるところを信号の時間を調整し、スピードを上げることで15分で着くという荒業を使っている。


 そのおかげか体力にはそこそこ自信がある。


 あと俺軽いし。


 ふらふらと歩いていく来栖さんを見送り、大丈夫かなあと不安になった。


 案の定その日の配信はなかった。


 よほど堪えたのだろう。


 次の日、朝自転車で通学していると、見慣れた髪をした女生徒が歩いていた。


 俺は彼女に声をかける。


「来栖さん、おはよう」


「……田臥君、おはよう」


「早速歩いてるんだね、でもこの時間だと結構ギリギリじゃない?」


「私も思ったより遅くてびっくりしてる」


 俺は自転車から降りて来栖さんの横に並ぶ。


「じゃあ俺も一緒にいこうかな、いざとなったら来栖さんが自転車乗ってよ、俺走っていくから」


「え、悪いよ」


「俺が歩いたら? って提案しちゃったし、責任取らないとさ」


 間に合うとは思うけど、俺のせいで遅刻させる訳にはいかないしね。


 この日は何故か会話が弾んだ。


 来栖さんがゲームの話をしてきたからだ。


「この前ベロラントしてるって言ってたよね」


「あーそんなことも言ったかな?」


 バレたか?


 いや来栖さんに限ってそんなことはない! ないだろ?


「どのキャラ使ってるの?」


「プリムストーンかな、ほら俺補助的なの得意だし」


 得意というか撃ち合いに自信がなかったので、煙幕を使ったり、相手の行動を阻害するようなキャラで味方を援護するのが向いてると思ったからだ。


「へえ、私はセーチ使ってるんだ」


「え、来栖さんのゲームするんだ」


「私もゲームくらいするよ、だって、……いやなんでもない」


 今いらん事言おうとしたな。


 だってVtuberやってるんだから、だろう?


 ふふふ、俺は知ってるだぜぇ。


「セーチかあ、回復持ちだよね、優しそうな来栖さんにぴったりかも」


「優しい? 私が? そう、そんなこと言われたことないなあ」


 一瞬来栖さんが暗い表情になった気がした。


 でもすぐにいつもの無表情な彼女の顔に戻ったので気のせいかな。


 学校が近づいてきて、時間を見る。


「ギリギリだ」


「次はもう少し早く出るね、ありがとう、付き合ってくれて」


「お安い御用で」


「ふふ」


 そう言って笑う来栖さんは相変わらず笑っていなかった。


 表情筋が死んでるのかな?

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