お昼は三人で

「ダメだった~、赤木は?」


「俺?無理に決まってんじゃん、部活は禁止されてるけど自主練してたし」


「そこはちゃんと勉強しろよ」


「いいんだよ、スポーツ推薦で大学行くから。来栖くるすさんは?」


「……まあまあ」


 中間試験も途中の昼休み、俺はいつものように来栖さんとお弁当を食べていた。


 そこに赤木太一が「俺も一緒にいい?」と割り込んできたので、俺は渡りに船だと思い歓迎した。


 来栖さんがどう思っているかは知らないけど、友達は多いほうがいいでしょ?


 赤木は誰とでも仲良くなれるタイプだし、正直二人っきりって嫉妬や羨望も混じって苦手だったんだよね。


 来栖さんも困ってたし。



▲▽▲▽



「コンコン~、今日もみんなこんにちは~、っているのは《モブ》だけなんだけど」



・《モブ》そういうのは思ってても口に出すな。



「あはは、そうだね。でも大分配信慣れてきたと思わない? 最近最初の配信見直してるんだけど、ほとんど無言でひどいね」


 本当、よく俺は最後まで聞いていたと褒めてやりたい。


 ゲームは見てないし、実際は勉強してたんだけど。


「それじゃあ今日もベロラントやっていきまーす」



・《モブ》俺ゲーム詳しくないんだけど、なんでそのゲームばっかりやるの?



「これは私が配信を始めるきっかけになる人がハマってたゲームで、そんなに面白いのかなあって思って始めたの。初めは全然上手く出来なくて、ゲームに集中しすぎてコメントも見れない上に、ボコボコにやられて何が楽しいんだ! って思ったよ。でも色々知識つけていくと、勉強と同じでやればやる分だけ強くなるの。もちろん技術も必要だけど」


 へえ、配信を始めたのってその人の影響なんだ。


 どんな人だろ、ゲーム実況でもしてるんだと思うけど。


「まあゲームは置いといて、ていうかモブゲーム詳しくないのに私の配信来て何目的なの?」



・《モブ》そりゃルーイ目的に決まってるだろ。



「ありがと、嬉しい」


 くうううう、俺も嬉しい。


 この画面の向こうにいる彼女のことを考えると、ちょっとした罪悪感を覚えるけど。


 俺だけが知ってて、相手は知らないんだよね。


 あ、ゲーム始まった。


 ルーイのキャラは味方を援護するような感じで動いて、味方を回復したり、目の前に氷を撒いて相手の動きを遅くしたり、氷の壁を召喚して色々している。


 ゲームの内容は分からないけど、すぐ死んでた一ヶ月以上前より、戦闘に参加しているのが多くなった。


 俺も暇見つけてやってみるかな、中間試験終わったらちょうどいいかも。


「そうそう、昼休みね、ご飯一緒に食べている子がいるんだけど、話題がなくてあんまり話が進まないんだよね。何かいい方法あるかな?」


 ごめんね、俺の脳みそに何もなくて栄養が足りないんだ。


 話題もないんだ、頑張るよ。


「難しいよねー、もっとワイワイしたいけど、これ以上誘うのは難しそうだし」



・《モブ》思い切って相手を変えてみたら?もっと大人数のところにいくとか。今なら他の人にもいけるでしょ。



「……ダメ! そんなの無理だよお、ただえさえ一人に話しかけるのだって大変だったのに」


 うーむ、しかしこのまま二人きりというのも健全ではない。


 付き合ってもいない男女がお昼ご飯だけ一緒というのは、ちょっと、面白い。


 これが他人事ならなあ!


 俺にのしかかってるんだよ、鈴木達は生暖かい目で見てるけど、一部のファンらしき人達からは結構きつい目で見られてるの俺は知ってるんだぞ。


 来栖さんは隠れファンが多い。


 表立って言われることはないけど、その存在は人を引き付けるには十分な魅力を持っている。


 本当ならこんな場末のスナックのような寂れた配信ではなく、人気者になってもおかしくないのに。



・こんだけしゃべれるのに、ぼっちってリアルだと無口なの?

・勉強も出来るって真面目系か

・とりあえず声かわいいから自信もって!



 いいぞいいぞ、最近増えてきたコメント諸君。


 もっともっと自信をつけさせれば、カースト上位の女子達と楽しく遊ぶのも夢ではなくなる。


 ぼっち脱却はお前たちの手にもかかっているんだからな。


「そうかなあ、うん、リアルだと言葉が出なくて、配信も、最初の方は全然だったし、距離感もよくわからないし、人付き合いが苦手なんだと思う」


 距離感は気を付けて欲しいな、気が有るって勘違いしちゃう子も出るかもしれないよ。


「声褒められるのは嬉しい、ありがとう。あんまり褒められたことないから」


 声出さないからね、聞く機会がないの。


「あ、死んだ。最近エイムが課題なんだよね。やっぱり正面からの撃ち合いになると負ける事多いや」



・どんまいどんまい

・こればっかりは経験としか



 エイムってなんだろ。調べてみよ。


 ふむふむ、狙いをつけるという意味、FPSのようなゲームでは照準を合わせるって意味か。


 画面の真ん中に敵を置いて打てるようにするのがエイム、か。


 センスと練習が必要って、そんな時間なくない?


 でもルーイどんどんうまくなってるし、知識埋める時間どこでとってるんだろ。


 勉強は授業聞くだけで問題ない天才系か?


「うーん、ゲームはここまでかな、明日は他に誰か誘えそうだったらお昼ご飯誘ってみようかな、それじゃお疲れ~」



・《モブ》お疲れ~

・がんばえ~

・ルーイならできる!



▲▽▲▽



 と、まあ誘う間もなく赤木から入ってきてくれたのは儲けものだ。


 来栖さんも心なしか喜んで―――、テンパってる!


 そうだよね、いきなり赤木はちょっと刺激が強いよね。


 俺が何も言わない間にも赤木はぐいぐいと来栖さんに話しかけている。


 楽しそうだな赤木ぃ、来栖さん頑張って!


 俺は応援しながら自分の弁当を黙々と食べた。


 助け舟は出さないよ!

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