来栖瑠衣=ルーイ

 それからしばらく、俺は定期的に行われるルーイの配信を楽しみにしながら毎日を過ごしていた。


 相変わらず彼女の配信は無言の時間が多いが、それがいいBGMとなり勉強も捗った。

 

 ゲームの内容? 知らない知らない。


 勝ってるときもあるみたいだけど、基本的にリアクションも取らない。


 たまに「……よしっ!」みたいなこと言うときあるけど。


 俺はゲームよりも試合の間の雑談タイムを楽しみにしている。


 視聴者は俺一人、タイマンである。


 しかもゲームには一切触れず、ただの雑談しに来ているだけである。


 それでも拙い言葉使いで話すルーイとの会話は楽しかった。



・《モブ》名前つけれるようだから変更したよ~



 このサイトに登録したときにランダムで設定した英数字の羅列では見ずらいであろうと、俺は名前を付けた。


 あだ名でもあるモブである。


 今もまさにモブムーブをしているのであながち間違ってはいない。


 ぴったりの名前だと思う。


「モブって……どういう意味?」



・《モブ》モブはモブキャラクターの略かな、主人公みたいなメインキャラでもなく、サブキャラでもない。一般群衆の一つ。



 でもモブがいるから主役が生えるし、モブは物語に不可欠な要素なのだ。


 ゾンビ映画でも喰われるモブがいなきゃ怖さが伝わらないだろ?


 そういうことだ。


「……モブってそういう意味なんだ。うちの高校にも……モブって言われてる人がいるけど、……そんなことないと思うんだけどなあ」


 へえ、俺以外にもモブなんて呼ばれているやつがいるなんて世界は狭いな。


 ……本当にそうか?


 これもしかしてうちの高校の関係者じゃないか?


 しかも同じクラス。


 俺のモブ呼びが広まったのは二年生のクラス替えからだ。


 少し探りを入れてみるか。



・《モブ》へえ、そうなんだ。ちなみにどんな子?



 直球過ぎたか?


 リアルのことを探られるのを嫌がる人も多い。


 だから仮面という名のVを被って活動しているのだ。


「えっと……言っていいのかな?……マッシュルームカットっていうのかな、あの、頭全身を包み込むような奴、あと背が高い」


 うーん、俺だね。


 他人の空似じゃなかったら俺だね。


 ここまで一緒だったら最早そいつ双子だよ、生まれたところが別のな。


 間違いなく俺のクラスメイトだわこれ。


 でも誰だ……?


 こんな声してる子、うーんいた気がするんだけど、誰だったかな?


「……それじゃあ、今日はここまで、いつも見に来てくれて、


 あ!!!


 そのありがとう、聞いた。確かに聞いた。


 えまじで?


 嘘だろ、まさかそんな。


 こんな俺一人しか見ていない配信で来栖瑠衣くるするいが配信してるなんて。


 これなんて奇跡?


 いやだからどうだって話なんだけど。


 皆にばらす?


 意味がない、それをやったところで何の意味があろうか。


 それよりも今、俺が! 来栖瑠衣を独占している。


 この方がよっぽどセンセーショナルだろ。


 わざわざ手放すほうがおかしい。


 ルーイか、瑠衣をもじったそのまんまだな。


 でもなんで配信なんてしてるんだろう。学校じゃそんな素振りもなかったのに。


 うーん、謎だ。


 俺は疑問を抱えながら勉強に戻った。

 

 捗らなかった。





 次の日、いつも通り、クールな来栖さんがそこにはいた。


 いや配信でもほとんどしゃべらないし、代り映えがないって言えばそうなんだけど。


 ゲームも別に好きって感じじゃないし、ほんとなんなんだろう。


 じーっと来栖さんを見ていると、また目が合った。


 今度は目を逸らさず見つめてみる。


 じーーーーーーーーーーーーー。


 負けた。


 俺は恥ずかしくなり目を逸らしてしまった。


 眼力がつええ!


 なんて迫力なんだ。


 別に睨んでるわけでも怒ってるわけでもない。


 ただただ無表情でこちらを見ていた。


 その瞳の奥には一体何が写っていたんだろうか。


 深淵をのぞく時深淵もまたこちらをのぞいているのだ。


 わかんねえよ!!



 今日も家に帰ると勉強をしながら配信を待つ。


 今日は遅いなあ、何かトラブルでもあったのかな?


 まあ毎日やるのは大変だし、まだ高校二年生なんだから、勉強もしないとね。


 俺は自分の勉強に勤しんだ。



 次の日、来栖さんは少々落ち込んでいるようだった。


 あれかな、毎日配信が途切れちゃったからかな?


 初めて配信をしてから一週間、基本的に俺と二人きりの配信だったが。


 たまに視聴者の数が増えて、おっ、と思うこともあるけど、無言なままの彼女の配信を見てそのまま帰ってしまう。


 視聴者のカウントはまた一に戻る。


 多分ゲームに必死だから気づいていないだろう。


 たまにクソみたいなコメントが来る時もあるから、傷ついていないか心配になる。


 こういうとき、俺がコメントを削除出来たらいいのに!


 かといって不自然に俺がコメントを流しても見えちゃうしなあ、



・《モブ》あ

・《モブ》あ

・《モブ》あ

・《モブ》あ

・《モブ》あ

・《モブ》あ

・《モブ》あ

・《モブ》あ



 こんな感じで流してもむしろ目立って逆効果なので、何でもない日常話で存在感を消す作戦を取る。



・《モブ》ないす~

・しゃべれよカス

・《モブ》最近学校で友達となにして遊んでる?



 語彙!!


 しかも友達らしき人と遊んでるところ見たとこない!


 俺の方がカスだよこれ!!


 ゲームの試合が終わり、雑談タイムにはいる。


 ひどいコメントはスルーして俺の質問に答えてくれる。


「友達は……いないかな。誰も、私と接してくれない」


 近寄りがたいんだよ。


 本当は皆も仲良くしたいと思っているよ?



・《モブ》友達は作るの難しいよね、俺もなんとか上手くいったけど、きっかけがないと難しいかも



「きっかけ……」



・《モブ》例えば何か委員になってみるとか、例えば学級委員長とか。生徒会とかも面白いかも。



 さすがに学級委員長は敷居が高いので、図書委員とか、美化委員とか、保健委員とかでいいと思うけど。


 大きめの目標を言ったほうが、他のものが小さく見えるってやつ?


「……頑張ってみる。それじゃあ、今日も最後まで見てくれて……ありがとう」


 そう言ってルーイは配信を閉じた。


 そういやうちのクラスの委員ってまだ決まって無かったよな。


 ……まさかね。


 いきなりやるなんてことないでしょ、さすがに。

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