最終話『やり直し』


 目を逸らさないでと。

 そう雪菜は言った。


 けれど、そんなの言われるまでもない事だ。


 まっすぐに俺の想いを伝えるため。

 その為に俺は今、雪菜に会いに来ている。

 そんな彼女から目を逸らすなんて事、するわけがない。



「あぁ………………」



 俺の顎をその手で掴んだまま、呆けている雪菜。

 なにか感極まっているような。そんな様子だ。



 数センチの距離。

 少し顔を前に出せばキスできてしまうくらいの距離。


 そんな間近で雪菜の顔を見つめて。

 俺の心臓はバクバクと高鳴っていた。

 それを感じ、俺は改めて雪菜への好意を自覚する。



(ああ、やっぱり好きだなぁ)



 勘違いなんかじゃない。

 今、俺は高橋雪菜という一人の女性に惹かれている。

 自分の物だけにしてやりたいと。本気でそう望んでいた。



 だから。

 俺はもう、我慢するのをやめた。



「悪い、雪菜」


「えっ?」



 未だに呆けている雪菜。

 そんな彼女の腕をそっと俺は掴み。

 少し強引に、彼女との距離を詰める。


 そして。


「んっ」


「っ!?!?!?!?」



 彼女との距離がゼロになる。



 目を見開く雪菜。

 少し暴れる彼女だが、俺は強引にその動きを押さえる。

 押さえたまま、欲望のままに彼女の唇を貪る。


「ちゅっ……」


「むぅっ…………んっ」



 徐々に大人しくなっていく雪菜。

 そんな彼女が、どうしようもなく愛おしかった。




 しかし、そんな時間もすぐに終わり。

 俺は名残惜しさを感じながら、雪菜の拘束を解いた。




「拓哉君……どうして――」


 キスの余韻に浸っているのか。

 さっき以上に呆けた顔で、とんでもなくバカな事を言おうとする雪菜。

 そんな雪菜の事がどうしようもなく愛しく、でも最高にムカついた。


 だから。


「まだ言うか」


「な……待っ――」



 貪るように。

 犯すように。

 俺は再び、強引に彼女の唇を奪う。



「んっ……」


「んっ……拓哉君……ちょっ……まって……少しでいいから……落ち着いて……」


「ヤダ。雪菜が理解するまでやめない」


「もぅ……うぅ……本当にやめて……頭……バカになっちゃう……から……」


「それなら大丈夫。俺はとっくに頭がバカになってるよ」


「バカ……んっ……」



 そうして何度も何度も。

 俺は雪菜の唇を貪る。

 そうして彼女が息も絶え絶えになった所で言ってやる。



「冗談なんかじゃないし、『なんで?』なんて馬鹿げた事を聞かれるのも心外なんだよ」


「はぁ……はぁ……拓哉君」


「だって、俺は……雪菜の事が好きだから。瑠姫姉よりも、好きだから。だから奪いたいって。キスしたいって思ったんだ」



 目の前に雪菜が居て。

 目を逸らすななんて言われて。

 だから、どうしても我慢できなかった。


 それに俺が好きだと告げたのにそれを冗談とか『なんで?』とか言われて。

 それで腹がたってしてしまったっていうのもある。


「もっとも、いきなり許可もなくしちゃった事については謝らないとだけどな。でも、それはお互い様って事で許してくれると嬉しい」


 雪菜とのキスはさっきのを合わせるとこれで三回目。

 いや、さっき二回以上したからもっとか?

 まぁ、いいや。


 とにかく一回目と二回目のキスは雪菜からだったけど、そのどちらも彼女は俺の許可なく無理やり唇を奪ってきた。


 だから、今回俺が無理やりやった件についてはそれと相殺って感じで許してくれるとありがたい。



「拓哉君。私は――」


「雪菜」



 何かを言おうとする雪菜。

 だけど俺はそれを遮り。



「あの日のやり直しをさせてくれないか?」


 あの日のやり直しがしたいと。

 そう告げた。


「あの日の……やり直し?」


「そう。俺と雪菜が最初に話したあの日、あの瞬間のやり直し。場所も時間も違うけど、やり直したいんだ」


「それって……」



 あの日から全てが狂った。

 恋愛感情とか。愛情とか。

 それと打算的な計算とかが滅茶苦茶に絡まりあってしまっていたんだ。


 もちろん、ああして狂ってしまったからこそ今日という日があるんだけど。

 それでも、俺はあの日の出来事をここでやり直したい。


 だから俺は。

 雪菜から少しだけ離れて――




「好きです。俺と付き合ってください」



 あの日の告白を、俺はやり直す。


 あの日、あの瞬間にした俺の告白は相手の事を何も知らず、ドキドキも何もない最低な告白だった。


 雪菜への告白。

 その一大イベントがあんな形で終わるなんて嫌だから。

 だからこそ、俺はここでやり直す。



「雪菜にならずっと虐められてもいい。俺は……雪菜と一緒にこの先を生きていきたい」


 字面だけ見れば最低のマゾ変態野郎なのかもしれない。

 もちろん俺はマゾとか。そういうのじゃない。


 けど、俺は雪菜の事を知ったから。

 彼女が俺を虐める事に喜びを感じている。

 それを知っているからこそ。


 雪菜という女の子の事をたくさん知って惹かれたからこそ、俺はこう言えるんだ。



「ふふっ……何よそれ……ふふっ。あははははっ」



 そんな俺の告白のやり直しを受けて。

 雪菜は明るく笑う。


 そうして。

 彼女は「確か……こんな感じだったかしら」と呟き。




「いいわよ。付き合いましょう、私たち」




 デジャヴ。


 ああ、そうだ。

 これはあの日の告白の返事と同じ。


 俺が罰ゲーム告白をすると、雪菜はそう言って俺の告白を受け入れたんだ。



 でも、あの日とは違う。

 あの日の雪菜は淡々と告白を受け入れたって感じだったけど。


 目の前の雪菜はその目じりに涙を溜め、胸をぎゅっと押さえていて緊張しているのが見ていてわかる。

 そのまま雪菜はゆっくりと俺に向かってきて。



「私も……拓哉君とこれから色んなことを経験していきたいから」




 そうしてこの日。

 俺と雪菜は偽りのカップルから、本物のカップルになったのだった。



 fin


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罰ゲームで学園一のクール美少女に告白したら、なぜかOK貰えました。 @smallwolf

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