第38話『背中を押されました』
「そう……」
好きな子が出来たから。
そんな俺の言葉を聞いて瑠姫姉は静かにそう呟いた。
そして。
「拓哉」
瑠姫姉が俺の名を呼び。
「なに?」
「自分の想い、もうその子には伝えたの?」
そう尋ねてきた。
「いや、まだだよ。先に瑠姫姉にこの事、伝えときたくてさ」
雪菜にはまた後日、この想いを伝えるつもり。
ただ、それよりも先に瑠姫姉に『好きだった』と告白するべきだと思ったんだ。
そうしてきっぱり、自分の中で決着をつけたかった。
「ふぅん、そう」
そこで瑠姫姉は少しだけ考えるそぶりを見せて。
「拓哉。ちょっと後ろ向いてかがみなさい」
そんな命令を俺に下してきた。
「え?」
「え? じゃないわよ。さっさとしなさい」
「いや。あの、なんで? 後ろ向いてかがめって……。おんぶでもしろって事」
「そうそうその通り。繊細なお姉ちゃんは歩いていてとても疲れたわ。だからおんぶして」
なんてわがままな。
そう思いつつも俺は言われた通り後ろを向いてしゃがむ。
すると
ぎゅっ――
「……え」
後ろからぎゅっと抱き着いてくる瑠姫姉。
おんぶとは少し違う感じで抱き着いてきているので、俺は少し動揺してしまう。
「瑠姫姉?」
俺は少し不思議に思って。
瑠姫姉の方を振り返ろうとして。
けれど。
「振り向かないで」
瑠姫姉が少し鋭い声で言う。
俺は何も言えないまま、言われた通り振り向かず、黙って瑠姫姉に抱きしめられる。
「拓哉。強くなったわね」
「……つよく?」
「ええ。なんとなく。今の拓哉は頼もしく見えた。なんだか覚悟を決めた男って感じがして。格好良かったわよ?」
「それは……えっと。ありがとう?」
自分じゃよく分からない。
というか、格好いいなんて。
そんな言葉、瑠姫姉の口から出るとは思わなかった。
「ほんとに。今までずーっと頼りなく見えてたのにね。やっぱりあれかしら? 男子三日会わざればっていうやつ?」
「俺は何かが変わったなんて。そんな実感はないんだけど……」
「変わったわ。超変わったわ。たとえるならヤム〇ャがフ〇ーザ様第三形態に大変身した感じね」
「ごめん瑠姫姉。余計に分からなくなったんだけど」
「それでいいのよ男の子は。男の子っていうのはね。自分の格好良さに鈍感な方が魅力的なのよ。実際、自分の格好良さをぜーんぶ理解してる『俺カッコイー』とか胸を張りながら迫ってくる男ってとてつもなくうざいし」
「そりゃまた
「でしょう? 拓哉のお姉ちゃん様である瑠姫姉はいつまでも理想のお姉ちゃんであり続けるのよ」
そのままどれくらいの時間がたっただろう。
数分だったような気もするし、何十分もたったような気もする。
「――さてと」
俺を背後から抱きしめていた瑠姫姉。
瑠姫姉はおもむろに立ち上がって。
ゲシッ――
「え゛っ!?」
そのまま俺の背中を蹴飛ばしてきた。
「るき――」
いったい何のつもりなのか。
今度こそ俺は瑠姫姉の方を振り返ろうとして。
「こーら。振り返らない(ゲシッ)」
「んのぉ!?」
けれど、また振り返らないように言われて。
実力行使とでも言わんばかりにまた瑠姫姉は俺の事をまた蹴ってくる。
そして。
「そのままレッツゴー。振り返らずに直進よ拓哉。そしてそのまま。拓哉の想いをその子に伝えてきなさい」
瑠姫姉は一方的に。
そんな事を告げてきた。
「いや、でも瑠姫姉。もう夜も遅いし向こうの迷惑になるんじゃ……」
「そんなの関係ないわ。さっさと行きなさい。あと、振り返ったらマジ殺すわよ?」
「えぇ……」
なんという横暴。
そもそも、こんな時間に訪ねられても雪菜も迷惑するだろうに……。
「誰よりも先に。お姉ちゃんである私に拓哉の心情を語りに来てくれたのは嬉しいわ」
「瑠姫姉?」
――なんか、変だ。
どこがとはハッキリわからないけど、なんとなく今の瑠姫姉はいつもの違う雰囲気を出してる気がして。
「でもね、拓哉。これからは拓哉が想うその子の事を何よりも優先しなさい」
「優……先?」
「ええ。だってほら、一途な男の子って需要あるじゃない? だから夜ももう遅いからとか。そんなつまらない事を考えるのはやめて突っ走りなさい。鉄は熱いうちに叩けって言うし。こういう時はテンションの
また無茶苦茶な事を言い出す瑠姫姉。
でも、どことなく真剣な様子が伝わってきた。
やっぱりいつもと何か違うような……。
俺の気のせいだろうか?
「テンションの赴くがままって。そんな無茶苦茶な……」
そんな事を考えつつも。
俺は振り返らないままため息交じりに瑠姫姉の無茶苦茶っぷりに呆れてみせる。
そうすると。
「ふふっ」
と。
瑠姫姉は小さく笑い。
「馬鹿ね、拓哉。こういう時こそ無茶苦茶な方がいいのよ。やりたいようにやった方がいいの」
無茶苦茶な方がいいと。
そんな訳がないのに。
絶対にもっと考えてから動いた方がいいのに。
瑠姫姉はそう前置きして。
「だって、そっちの方が本気っぽいじゃない? 事実、私はあなたの前でそうしてきたわ」
そんな事を俺に告げてきたのだった。
「―――――――はは」
あぁ、確かに。
そうだった。
いや、本当にその通り。
俺の好きな瑠姫姉は。
いつも本当に無茶苦茶だったけど、
だからこそというべきか。肝心な時はいつも本気でぶつかってきてくれた。
それが嫌というほど伝わってきてさ。
それが俺の惹かれた瑠姫姉の、今まで見せてくれていた姿だった。
「だから……拓哉も全力でぶつかりなさいっ! 拓哉は――お姉ちゃんの自慢の弟なんだからっ!!」
瑠姫姉が大声で俺に喝を入れてくれる。
珍しい。
瑠姫姉って、そういう事をするタイプじゃないのに、
でも、だからこそ。
なんだか心が沸き立ってくる。
「分かったっ!! 行ってきます!!」
俺はそのまま振り返らず。
瑠姫姉の言う通り。そして瑠姫姉らしく。
まっすぐ。テンションの赴くがままに走り出した――
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