第35話『another 厄介な人に絡まれたわ』
――side高橋雪菜
恋って凄い。
世界が一変するとヒロインガ物語の中で言っていたけど、まさにその通り。
理性が効かない。効かせたくない。
ただこの熱情の
この私がそんな乙女のような事まで考えてしまうのだから、本当に凄い。
「とはいえ。さすがにはしゃぎすぎたわね」
授業中も拓哉君を誘惑しようと色々していたら、さすがに度が過ぎたらしく生徒指導室に呼ばれてしまった。
学生として節度あるなんとか云々をと長々と説教されたが。確かに少し羽目を外しすぎてしまっていたかもしれない。
その点は反省するべき点だと思う。
「一緒の帰り道を歩くだけで幸せだなんて……ふふっ。とんだ乙女脳ね。笑ってしまうわ」
授業が終わるなり拓哉君と足をそろえて帰って。
会話なんてしなくても、彼と一緒に居るだけで胸がドキドキしてしまって。
今日は少し攻めすぎたと感じていたというのもあって、帰りはなんだかそれだけで胸がいっぱいになってしまってあまり会話ができなかった。
なのに、彼と一緒の時間を過ごせたというだけで満足している自分がどこかに居て。
そんな自分の変わりように、つい笑ってしまいそうになる。
そうして。
私が拓哉君と別れて、自宅に帰ろうとしているときだった。
「――あなた。高橋雪菜ね」
「はい?」
どこか聞き覚えのある声。
その声のする方を見る。
視線の先。
その女性の赤の眼光が私を捉えていて。
銀色に輝く髪が電灯にさらされ、神々しく光っているように感じた。
特に派手でもない青のジーンズにラフなワンピースといった格好なのに、その女性のその姿はとても様になっていて。
端的に言えば一瞬、圧倒された。
「あぁ、いきなりごめんなさい。こちら自己紹介がまだだったわね。私は水野瑠姫音。あなたがお付き合いしてる水野拓哉のお姉ちゃん様よ。以後よろしくね」
「え、ええ。こちらこそ。拓哉君とお付き合いさせてもらっています。高橋雪菜です」
正直、私は面食らっていた。
拓哉君のお姉さん。
私は拓哉君と彼女が抱き合っている姿を一度、見ている。
その時はかなりパワフルな人ねと思ったけれど。
まさかこうして、弟の交際相手に接触してくるだなんて思ってもみなかった。
「さて高橋雪菜。単刀直入に聞くわ。あなた、拓哉の事が本当に好きなの?」
「……はい?」
直球だった。
いきなり現れて、一方的に尋ねてくる水野瑠姫音。
その様はまさに暴君とでもいうべきものであり。
「なによ。『はい?』って。疑問文には疑問文で答えるべきではないって。あなた、学校で教えてもらわなかったの?」
「あ、えと。そうですね。ごめんなさい」
「いいわよ。私は素直に謝ることができる人は大好きよ」
「ありがとうございます」
「まぁ今のところ私、あなたの事が大嫌いだけどね」
「………………」
本当にこの人はなんなんだろう?
パワフルなんて言葉じゃ表せないくらい自由で横暴。
拓哉君はこの人と私が結構似ていると言っていたけれど、まったくもって理解できないわね……。
それはさておき。
「もちろん、私は彼が大好きですよ」
「ふーん」
「でも、安心してください瑠姫音さん。私と拓哉君は清い交際を続けていて、決して瑠姫音さんが心配するようなことをするつもりは――」
「ふーん」
――パァンッ
「……へ?」
頬に熱い熱を感じて。
それでようやく、私は拓哉君のお姉さんがいきなり私の頬を平手打ちしてきたことを理解した。
私の頬を叩いた彼女は「はぁ……」と深いため息をつき。
「そういう誤魔化しとか嘘とか。時間の無駄だし無意味だからやめておきなさい? あなたの素の部分を私にさらけ出しなさいな」
全てを見透かしたようにそう促す彼女。
もちろん、そう言われて『それじゃあ素の部分をさらしますね』なんてなるわけがない。
「………………いきなり何をするのよ? いくら拓哉君のお姉さんだからって。もういいわ。失礼します」
もともと、私は瑠姫音さんに興味こそあったが用事はない。
ただ、拓哉君のお姉さんであり、拓哉君の想い人である彼女という存在に興味があっただけ。
だから、こんな理不尽な目にあってまで会話に付き合う必要なんてない。
そうして私は瑠姫音さんを無視して少し駆け出し。
「しかし回り込まれてしまった(ガシッ)」
「なっ」
私の行く先を阻んでくる瑠姫音さん。
その手はガッシリと私の両腕をつかんでいた。
「放してくださいっ! 本当に。なんなんですかあなたは!?」
「私? 私は水野瑠姫音。拓哉のお姉ちゃん様よ。敬いなさい?」
「そういう事を聞きたいんじゃなくてっ。ああもうっ」
もういい。
拓哉君のお姉さんだろうと知ったことか。
私は強引に瑠姫音さんの手を振り払おうと腕を動かし――
「無駄よ?(ギリギリ)」
そうはさせまいと私の腕をつかむ力を強める瑠姫音さん。
そんなの関係なく強引に私は瑠姫姉さんの手を振り払おうとするのだが。
「――っていたぁっ!? なによこの馬鹿力っ!?」
無理だった。
瑠姫音さんは見た目によらず鍛えているのか。すごい力で私の腕を掴んでいた。
とっさに突き飛ばそうとしたけど、それすらもできない。
「ふふんっ。当然でしょう? 私を生んだあのゴリラならいざしらず。あなたみたいな普通の女子高生にやられてしまうほどこの瑠姫音さんは甘くないのです。どやぁ」
――イラッ。
本当になんなのかしら、この人。
なんだか無性に腹が立つ。
というか、いきなり出てきてやりたい放題言いたい放題……。
「さて高橋雪菜。改めて聞かせてもらうわ。あなた、拓哉の事が本当に好きなの?」
「だから。さっきから好きだって言ってるでしょう!? いい加減にしなさいよっ!!」
いらだち交じりにそう答える私。
瑠姫音さんは私の目をジッと見て――
「嘘じゃないみたいね。それじゃ。そんなあなたに教えてあげる。今、拓哉の身に危険が迫っているわ」
「……え?」
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