第27話『恋愛エイリアン認定されてしまった』


 昨日、雪菜の家に泊まった。


 俺が起きた時、雪菜はまだ眠っていた。

 起こそうか少し迷ったけど、なんか幸せそう寝てたのでそのままにしておいた。

 書き置きだけ残して俺は家に戻る。


 なんせ今日は平日で学校があるからな。

 準備をするためにも一度家に戻らないといけなかったのだ。


 そうして色々と準備を終え、朝のホームルーム直前に学校に到着。

 しかしその時、雪菜はまだ登校してきていなかった。


 やがて朝のホームルームが始まり、それが終わってもまだ来ない。


 珍しいな。

 もしかしてまだ寝てたりするのだろうか?



 気になってメールを送ってみるが……返信は来ない。

 雪菜の事が気になりつつも、俺は一時間目が始まるまでの間、優斗と話すことにした。



「なぁ、優斗。最近、俺に雪菜と今はどうなってるとか。そういうの聞いたりすることなくなったよな。なんで?」



 雪菜の事を考えていたからだろう。

 そういえば優斗のやつ、この数週間くらい雪菜の話題を避けるようになったよなと。

 そんなことに気づいた。

 

 なので、俺はその事を優斗本人に聞いてみた。

 すると優斗は。


「………………え゛」


 思いっきり言葉を詰まらせていた。

 おや?


「どうした、優斗?」


「い、いや。なんでもないでござるよ?」


「いや、ごまかすのヘタクソか?」



 そんな汗をだらだら流しながら『なんでもないでござる』と言われてもなぁ。

 確実に何かあるだろとしか思えない訳で。



「ここ、こほん。いや、本当になんでもないよ。それよりも拓哉。お前にいい話があるんだ。だからちょっと素数を数えて落ち着こう」


「そうか。とりあえずお前が落ち着け?」


「何を言ってるんだ拓哉。俺は超冷静だぞ?」


「超冷静じゃないから落ち着けと言ってるんだが……。さっきからなんなんだ?」


「なんでもないって言ってるじゃないか(キリッ)」



 表面上は無理やり落ち着いて見せた優斗。

 ふむ。

 試してみるか。



「ところで聞いてくれよ優斗。実は昨日、雪菜の――」


「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!!」



 雪菜の話題を出そうとした瞬間。

 優斗は奇声を上げた。


 うーん。なんか面白いな。

 よし。

 構わず続けてみよう。


「昨日、雪菜の家に泊ったんだけどさ。いやー驚いたよ。雪菜、俺の事が別に好きじゃないのに抱くようにって迫ってきてさ。なんでもヤッちゃった後の俺の後悔した表情が見たいとかでさ。それで俺は――」


「異次元の物語を今すぐやめろぉぉぉぉっ! 脳が汚染されるぁぁぁぁぁっ!!」



 その場でのたうちまわる優斗。

 うん、面白い。

 瑠姫姉や雪菜の気持ちが少しだけ理解できてしまったかもしれない。


 ともかくそれは置いておいて。

 どうやら優斗のやつ、雪菜関連の話に関わりたくないらしい。


 まったく。

 そもそものきっかけは罰ゲーム告白を俺に強要してきた優斗だっていうのに。

 勝手な奴だ。


 ――――――いやまぁ気持ちはわからないでもないんですけどね?


「お前なぁ。元凶さんなんだし。話を聞くくらいは良くないか? 何もそんなに拒絶反応示さなくても……」


 そう俺が言うと優斗は『くっ……』と苦し気に顔をゆがめ。


「いや、分かってるよ? ホントその通り。俺に責任あるんだもんな。話に乗ったり相談に乗ったり。そういう義務が俺にはあるって。それは理解してるんだよ。でも――」


「でも?」


「お前の恋愛物語……もはや狂気的ホラー臭しかしなくて話を聞くだけで精神がみそうになるから聞きたくないんだよ……」


「誰の恋愛が狂気的ホラーだ。それはさすがに言いすぎだろ」



 あまりにも酷いことを言ってくる優斗。

 優斗がこんな酷い事を言う奴だったとは。


 でも、なんでだろうな。

 思い当たることがないわけでもないからムカつかないというか。

 むしろアレだ。


 ほんの少しだけ優斗の事を『哀れな……』とか思っちゃったぞ?

 もちろん、だからと言って貴重な俺の相談相手を手放すなんて事しないけど。



「まー安心しろよ優斗。最近は雪菜と変にこじれたりとか。そういう事にはなってないから。むしろ、どんどん健全な関係になってると言っていい」


「嘘を吐くな。さっき、序盤からおっそろしい話をしてたじゃないか」


「おそろしい話?」


「高橋さんがお前の後悔した表情とか見たいがために迫ってきたとか。そういうのだよっ! さっきそう言ってただろ!?」


「あぁ……その話か。でもさ、優斗。親しい相手の泣き顔とかが見たいと思うのって。女の人ならそんなにおかしい事でもないんじゃないか?」


 雪菜だけじゃなくて瑠姫姉もそうだったし。

 昔、俺の泣き顔を見てると興奮するからって理由で散々虐められたからなぁ。

 もっとも、瑠姫姉は虐めじゃなくて教育だって言ってたけど。


 雪菜が本性を現した後によく言ってくる『俺がつらそうにしてる顔が見たい』もそれと似たようなもんだし。

 そこまで騒ぎ立てる事じゃないような気がしてきたのだ。


 なんて考えていると。


「どうやらこの一か月くらいの交際でお前の頭もイカれたようだな。おめでとう優斗。お前は今、俺の中で恋愛エイリアン認定されたわ」


「恋愛エイリアン?」


「俺には理解不能な異次元の恋愛してるやつの事。ちなみに今、俺の中で恋愛エイリアン認定されてるのはお前と高橋さんの二人だけだ。よかったな、お似合いじゃないか」


「殴っていいか?」


「ははは。いいぞ。それでお前と高橋さんのドロドロを超えてカオスな恋愛話を聞かなくてよくなるなら安いもんだ」



 どうやら優斗にとって、俺と雪菜の恋愛物語は殴られる以上に聞きたくないものらしい。

 ならやるべきことは一つ。



 その後。

 一時限目の授業が始まるまでの間。

 俺は優斗に雪菜との間であったあれこれを詳細に語り、奴を苦しめるのだった。

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