第26話『another 熟睡したわ』
――side高橋雪菜
「――――――っは!?」
とても心地いい眠り。
ずっと眠っていたくなるような心地よさから私は脱し、私は起きるなり周りを見渡した。
けれど。
「居ない……」
拓哉君。
彼と一緒にこの家まで帰ってきて。
軽口を交わしながら一緒に夕食を食べて。
すると私がこの家で一人暮らししていると感づかれて。
仕方ないから私は自分の身の上を彼に話して。
私の話を聞いた彼は過去に私の身の上を知った人たちのように可哀そうなものを見るような目で私を見てきて。
けれど過去に私の身の上を知った人たちのような、私を腫れ物のように扱うことはなかった。
私の身の上を知った人たちは優しい言葉だけ投げかけるだけで、そこから先はとても他人行儀になり、壊れ物でも扱うかのような態度で私に対して距離を取る。
私の話を聞いた拓哉君もそうなってしまうかもしれない。
そんな想像をして、拓哉君との恋人関係もこれで終了かと思っていた。
けれど、そうはならなかった。
拓哉君は私を壊れ物のように扱ったりしなかったし、距離も取らなかった。
彼が取った行動はむしろその逆。
彼は私を抱きしめ、どれだけ私が『もう満足したんじゃない?』と聞いても『まだまだこんなもんじゃない』と言って頭を撫でてきたのだ。
そんな彼に呆れ果てて。
でもどこか心地よくて。
そうして――いつの間にか眠ってしまっていたらしい。
「ん………………んん………………」
まだ少し眠い。
でも、なんだか胸がドキドキと高鳴っていて眠れない。
とても不思議な気分だ。
閉まっていたカーテンを開ける。
すると朝日が私を照らして。
「――――――朝!?」
慌てて私は現時刻を確かめる。
午前九時。
学校には午前八時には登校してなきゃいけない。
つまり――
「これは………………どうあがいても遅刻ね」
今日が休みだったらよかったのだけれど、残念ながら今日は登校日。
きちんと準備をして学校に行かなければならない。
「しまったわ。無断欠席なんてするつもりなかったのに。とにかく急いで連絡しないと」
言いながら私はリビングに置きっぱなしだったスマートフォンを手に取ろうとする。
その途中、食卓の上に置いてあるメモが目に入り。
『先に帰る。また学校で』
『追伸:何かあったら頼ってくれよ? 彼女さん』
「ふ、ふふっ♪」
拓哉君も急いでいたのだろう。
メモにはそんな短い文言が汚らしい字で書かれてあった。
「誰がいつあなたに頼ったって言うのよ。ねぇ、彼氏さん?」
私はそのメモを見つめながら悪態をついて。
なぜだか少しスッキリした気分になっていた。
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