第15話『相談してみた』


「――ていう感じで雪菜の家の前で別れました。一応、返事はしてないので俺たちの交際はまだ続いてると思います」


「待って待って。カオス度が極まっててちょっと処理しきれない。少し整理させてくれ」


 雪菜を家の前まで送って。

 そうして俺は帰宅後、いつものように優斗に相談の為の電話をかけた。


 優斗には今日の出来事について既に話した後だ。


 デートの下見に行こうとしたら雪菜が尾行してきていた事。

 電車内でトラブルに巻き込まれた彼女を助けた事。

 突発的なデートだったが、それなりにうまくこなせた事。

 映画を見て一緒にディナーを食べて、夜も遅いからと家まで彼女を送った事。


 そうして彼女の家の前で告げられたあの言葉。


『安心して……私をその誰かさんの代替品として扱ってちょうだい。あなたのその表情を特等席で見られるのなら、私はなんだって受け入れてあげるわ』


 そう雪菜に言われた事も優斗には話した。


 それで俺は誰かに相談したくて奴を頼ってみたのだが、優斗は電話口の向こうで「うーん……。いや、うん、うん?」としきりに唸っていて。



「なぁ拓哉。一つ頼みがあるんだけど、いいか?」



 いつになく真面目な様子の優斗。

 なんだろう?

 そう思いながら俺は「なんだ?」と言葉を返して。



「俺、お前の相談相手やめてもいいか?」


「ダメ」


 優斗の頼み。

 俺はそれを即座に蹴っ飛ばした。



「そもそものきっかけはお前だろ? お前が罰ゲーム告白とか企画するから悪い。最期まで責任取れよ」



「そうなんだけどね!? いや、そうなんだけどね!? でもこれ以上は俺の正気度がもたないんよ!!」



 電話の向こうでそんな泣き言を言う優斗。

 言ってる事は分からないでもない。

 俺自身、俺と雪菜の恋愛事情が少し特殊だっていうのは理解出来てるつもりだからな。

 

 とはいえ、こうなったきっかけを考えれば可哀想だなんて思わないし、勘弁してやろうとも思わない。

 そもそも、この段階で相談相手を失うのは俺としても痛手だしな。


 優斗には是が非でも俺の相談相手としての役目を果たしてもらわなければ。



「正気度がもたないって。それは言い過ぎじゃないか? 確かに俺と雪菜は少し変わった恋愛してると思うけどさ」


「少し!? どこが!? 俺はそんな恋愛がこの世にあって欲しくなかったよっ。というかお前らが演じてるソレは恋愛話じゃなくて別のおどろおどろしいナニカだよっ」


「いやいや。そんな怪談話みたいに言わなくてもいいだろ」


「俺からすればお前らの話は怪談話そのものだけどな」



 ひどい。



「とりあえず……一応確認するぞ? 拓哉。お前はデートの下見の最中に尾行している高橋さんに気づいて、それでなんやかんやあってピンチの高橋さんを助けてぶっつけ本番の健全デートをしたんだよな?」


「そうだな」


「それでデートを終えて、夜遅いからと高橋さんを家まで送ったんだよな?」


「ああ」


「それで家まで高橋さんを送った後、お前は高橋さんにキスされたけど突き飛ばして拒んだんだよな?」


「ああ」


「それで高橋さんは怒るどころか笑い出して、それにお前は違和感を感じて問い詰めて」


「うんうん」


「そうすると高橋さんはお前が既に好きな人が居ると見抜いてて。自分はその代わりにされているだけって気づいてて」


「そうそう」


「でもその事でお前が罪悪感を感じてる表情がたまらなく魅力的だからとか。そんな訳の分からない理由で高橋さんは自分を誰かの代替品として愛していいと言ってて。つまりはそういう感じでいい……のか?」


「そういう感じでいいよ」



 プツッ

 ツー……ツー……ツー……。



 おや?

 突然電話が切れてしまった。

 電波が悪いのだろうか?


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