第12話『無計画デート、始めてみました』
とりあえず近くにあったファミレスで適当に昼飯を済ませて。
その後、俺と雪菜はスマホを片手に当てもなく歩いていた。
なぜこうして当てもなく歩いているのかと言うと。
「〇山駅周辺。この辺で降りた事なんてなかったのだけど、ビックリするくらい何もないわね……」
「だな。営業中のファミレスがあったのが奇跡に思えるくらいだ」
デートスポットとしてふさわしい場所。
俺達が降りる事になった〇山駅付近にそんなものは欠片も見当たらなかったからだ。
今もこうしてスマホで周辺情報を調べてはいるものの、何も出てこない。
景色だけは少し遠くの方に海が見えたり山が見えたりと悪くはないのだが、それだけを見てデートというのは絶対に違うだろう。
「どうする? 今からでも電車に乗ってどこか別の所に行くか?」
「うーん……いいわ。休日にこうして拓哉君と並んで歩いて。これだけでもデートと言えるでしょうし。それに――」
「それに?」
「結構歩く事になってしまうけれど、このまま何時間か歩けば海辺のショッピングモールが見えてくるわ。最悪、そこで楽しみましょう?」
「あぁ、そうか。あったなショッピングモール。確かにあそこならデートとして悪くない」
元々立てていた明日の予定では動物園デートの後に映画を見て、ディナーで締めるという感じだったけれど。
あそこのショッピングモールなら映画も見れたはずだし、ディナーとしゃれこむ事も出来るだろう。
別に映画やディナーにこだわるつもりはないけど。
とにかく、俺としては異論はない。
「あら、拓哉君もあのショッピングモール行ったことがあるの? 少し意外ね」
「そうか?」
「ええ。拓哉君だし、基本的に家で引きこもってるのだとばかり思っていたわ」
「それはさすがに彼氏の事を馬鹿にし過ぎだろう」
自分が学校でどう見られてるかくらい分かっている。
しかし、彼女さんにまで家に引きこもってばかりの陰キャと思われていたとは。
「こう見えてもあの辺りは一時期よく行ってたんだぞ? ショッピングにカフェに映画。なんなら夜景を見たいからって――」
あの周辺のホテルに泊まったこともあるし、船旅に付き合わされた事もある。
そう言いそうになったが、それが形になる前に俺は口を閉ざした。
「夜景を見たいからって……なに?」
「あ、いや……」
しまった。
何を調子に乗って口走っているんだ俺は。
「夜景を見たいから……そう。夜景を見たいからって理由で一人で船旅を楽しんだりしてたんだよ」
「く。ふふっ♪ なにそれ。意外とロマンチストなのかしら。拓哉君」
「そうなのかもな……」
俺はうまく笑えているだろうか?
船旅にショッピングにカフェに映画。
それは過去に俺が『瑠姫姉』に付き合わされた時の記憶だ。
今から向かおうとしているショッピングモール付近で。
俺は『瑠姫姉』に一時期、散々連れまわされた。
あの時の事を思い返すと懐かしくて楽しい気分になれる。
けれど、同時に苦しくて切ない気分になる。
本当に……我ながら難儀な事だ。
そうしてそのまま他愛のない雑談をしながら。
俺達は数時間かけて
「それじゃあ拓哉君。これからどうする?」
「雪菜は何か見たい物とかないのか?」
「別にないわね。けれど、強いて言うなら拓哉君がどんなエスコートをしてくれるのか見たいかしら?」
あくまで俺に任せるつもりという事か。
雪菜のその常に上からジャッジするというスタンス。
悪い気がしないどころか好感すら持ててしまうのが困ったところだ。
「了解しましたよ。彼女さん」
「期待してるわ。彼氏さん」
そうして俺が最初に向かったのはモール内にある映画館だった。
結構歩いたので雪菜も歩き疲れているだろうし、映画なら足も休めることが出来て楽しめるしでちょうどいいと思ったのだ。
「直近で上映されるのがハリウッド映画にミステリー物に……。お、恋愛映画もあるな」
「恋愛映画。デートの定番ね。いいんじゃない?」
「別に俺はどれが好きとかはないけど定番なのは間違いないよな。ちなみに雪菜はどれが観たいとかあるか?」
「当然、恋愛映画一択ね」
「……へ? お、おう」
正直、驚いた。
てっきりまた『拓哉君に任せるわ』とか言うと思ってたのに。
「雪菜は恋愛映画、好きなのか?」
「映画に限らず恋物語系は大体好きよ。他人の恋愛を盤外から見るのが楽しいのよね。ドキドキワクワクできて楽しいわ」
「マジですか……」
「意外?」
「そりゃもう」
正直、恋物語が好きっていうイメージは全然なかったからな。
てっきり雪菜は『恋なんてくだらないわ』とか言うタイプだと思ってたし。
いや、でももし雪菜がそんなタイプだったらこうして付き合う事もなかったか。
そう考えれば雪菜が恋物語系が好きなのも納得がいく?
「学校に置いてあるそれ系の本は半分以上読んでるはずだしね。教室でも読んでるし、そんなに意外でもないと思っていたけれど」
「いや教室で読んでる本ってそれ系だったのかよ」
確かに雪菜が教室の隅で本を読んでいる姿はよく見かけていた。
教室の隅で物憂げな表情でぱらりぱらりと静かに本を読む高橋雪菜。
その様は結構絵になっており、彼女のそんな姿を見る為に他クラスから男子生徒が覗きに来ることもある程だ。
てっきり、文学書か何か読んでいると思っていたのにまさか恋物語系ばかり読んでいたとは……。
本を読んでいる時の彼女はなんとなく誰も寄せ付けないような雰囲気を出しているというのもあって、こうして本人から言われるまで分からなかった。
「けど。それなら恋愛映画で良さそうだな。じゃぁ、観るか」
「そうね」
そうして俺達は恋愛映画を観る事になった。
予約なんてしていなかったので中央付近の席は埋まっていたが、前の方の席が二人分空いていたのでそれを購入。
そして映画が始まった――
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