第5話『募る疑問』
雪菜と手を繋いだまま登校するとヤケに周りからの視線を感じるようになった。
実は登校途中もこちらを気にするような視線を感じていたのだが、学校に来てからは感じる視線が一気に増えた気がする。
ひそひそとこちらを見ながら話している奴も居て。
「あれ……高橋さんだよな?」
「うっそー。高橋さんが男と手を繋いで歩いてるなんて。意外」
「あいつ誰だよ。っていうかなんであんな
「どういう関係なんだろうね」
「いやいや。そんなの恋人関係に決まって――」
「認めない。俺は認めないぞ! アレだ。高橋さんは優しいからな。きっと学校の案内とかの為に。はぐれないように手を繋いでいるとか。そういうのに違いない!!」
「いや、そんなのあるわけないでしょ」
「ねー。どこからどう見てもデキてるでしょ、あれ」
聞こえてるんだよなぁ。
隣に居る雪菜にも聞こえてると思うんだが、気にしている様子はない。
元々注目を集めがちだった彼女にしてみればこの程度気にするほどの事じゃないのかもしれない。
そのまま俺と雪菜は自分の教室へと入り。
「それじゃあね拓哉君」
「ああ」
そのまま名残推しさとかも感じさせないまま俺達はずっと繋いでいた手を放す。
そうして俺は自分の席に座ろうとして。
「あ、そうだ。拓哉君、お昼は一緒に食べましょう。私、お弁当を作って来たから」
ざわっ――
教室内の空気が変わる。
こいつ……もしかしてわざとなのか?
いや、それは考え過ぎか。
単にそういう事に
「お弁当か……」
「ええ、そうよ。お弁当。あなたの分も作って来たの。ダメだったかしら?」
こてんと首をかしげる雪菜。
その仕草に周囲からなぜか「「「ぐっ!?」」」と苦し気な男子たちの
さて、俺はどう答えたものか。
お弁当を作ってきてくれたのは普通にありがたいが、これはただの弁当ではなく『彼女である雪菜が作ってきてくれたお弁当』だ。
普通に喜ぶだけっていうのは彼氏としてダメな気がする。
ここは……そうだな。
思いっきり喜んでみる事にするか。
「わー、すげえ嬉しいよ。まさか雪菜の手作り弁当が食べられるなんて。俺は幸せ者だなー」
「私はあなたの彼女だもの。それくらい当然でしょ?」
冷たくそれだけ言って「それじゃあまた後で」と自分の席へと戻っていく雪菜。
なんだか酷くそっけない気がしてしまう。
これが普通の恋人関係というものなのだろうか?
俺が想像していたものとは少し違うような……。
「まぁ、いいか」
関係ない。
少なくとも雪菜は俺の恋人として必要以上に色々とやってくれている。
わざわざ家の前まで来たり。
お弁当を作って来てくれたり。
そんな甲斐甲斐しい彼女に対して疑問を覚えてしまう俺の方が間違っているんだろう。
そうして席に着くと。
「よっすー、拓哉。朝からお熱いねぇ」
気安く声をかけてくる優男。
こいつが
このクラスで俺に声をかけてくれる数少ない友人であり、俺が雪菜に罰ゲーム告白をする羽目になった元凶の男だ。
整っている顔立ちに優し気な表情が売りの優斗。
しかしその実態は何度も付き合ったり別れたりを経験しているプレイボーイだ。
そんなクズ野郎だというのに、不思議とこいつが女性関係でトラブルを起こしたという話は一度も聞かない。
きっと相当うまくやっているのだろう。
「朝からお熱いって。それをお前が言うのか……」
俺は思わずジト目で優斗を見つめてしまう。
本当に全く。
よりにもよってお前がそれを言うのか。
一体誰のせいで俺が雪菜と付き合う事になったと思っているんだ?
そうして見つめていると優斗は「たははっ。悪い悪い」と軽く謝りながら。
「でも拓哉にとっても悪い話じゃなかっただろ? いい加減『次』に行かないとって。お前だってそう感じてたんじゃないか?」
「まぁ……そうかもだけどな」
次の恋に進まないと。
届く訳もない『瑠姫姉』への想いを捨て去って次へ行かないと。
一度でもそう考えなかったのかと問われれば嘘になる。
それを思えばこの俺に雪菜という恋人が出来たのはラッキーだった。
容姿端麗。
成績も優秀。
素行も問題なし。
付き合った後は俺と一緒に登校したがったり手を繋いだり、果てはお弁当まで作ってくれると言う甲斐甲斐しい面まで見せてくれている。
こうして一つ一つ挙げてみるだけで雪菜が彼女としても高スペックを誇っている事が嫌でも分かる。
どう考えても俺なんかには勿体ない彼女さんだ。
「本当に……雪菜は俺なんかには勿体ない彼女さんだよ……。どうして俺の告白をOKしてくれたのか。未だに分かんないくらいにな」
「いやいや。そんなの決まってるじゃないか。あんなクールな顔をしていてもきっと心の中じゃ『拓哉きゅん大好き大好ききゃー抱いてー!』と思ってるに違いないね」
「――あほらし。んなわけあるか」
「それくらいの夢は見てもいいと思うけど。まぁ、確かにそれはなさそうやね」
俺だって雪菜の事を詳しく知ってる訳じゃないが、彼女はそういうキャラじゃないだろう。
本当に……どうして俺の告白をOKしてくれたのやら。
その事を不思議に思いながら。
俺は午前の授業を受けるのだった。
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