第29話

 「なにがだ?」

「その、ぼくを生き返らせて。ずっと以前にお聞きしたと思うんです。スノウクロア様たち神々は、ぼくたちの次空に手出しができないって。それを破られたということは、なにかお咎めが……」

 

 「あるわけが、なかろう」

「え?!」

「ポロアス様!」

 

 「ポロアス様って?!」

「あとから説明するわ。それって、どういうことなのですか?」

「次空についての取り決めをしたのは、余ぞ。この星域を守りくれた者を救わず、捨て置いたとすれば、それこそ咎に値する」

 

 「じゃあ、お咎めはないんだ……よかった」

ユウリ……神様の心配までするなんて。

 

 「ときに。ヤービンがあちらへ到着するころじゃ。裂け目を封印するゆえ、みな森の外へと退避するがよい」

「承知いたしました。そのあと、私がこの地を浄化いたしましょう」

「任せたぞ、スノウクロア」

 

 わたしたちが森を後にする前に、スノウクロア様とスーニア様は一旦神々の国へ戻っていった。

この地は神々にとってはけがれた地で、長時間とどまるには大量のエネルギーを使うとのことだった。

 

 「生き返らせるついでに、怪我も治しておいたからな」

最後にスーニア様がそう言った。

 

 戦いは……終わった。

ふと気づくと、腕のブレスレットは姿を消していた。

「あ、ブレスレットがないわ」

 

 「魔物たちがいなくなって、必要がなくなったからじゃないかな?でも、きっとぼくたちのこと見守っていてくれているよ」

「そうよね」

 

 もう、神様たちのパワーを借りて何かするという機会はないんだ。

少しだけさびしい気がした。

「あ、ユーリ?さびしいからって試すことは、しないほうがいいと思うよ」

 

 ちょっとだけ、試してみたいと思ってたの、読まれちゃったな。

「あ、そうだね。ごめん、ありがと」

「どういたしまして」

 

 森を抜けきっててしばらく歩いた時、ドドドドド……という地鳴りがした。

次いで森の奥から強い光がさした。

私たちは歩みを止め、みんなで森の奥をみつめた。

 

 「裂け目を封じられてるのかな?」

「そうみたい……ものすごいエネルギー波だわ。あのままあそこにいたら巻きぞえで消されちゃてたかも」

 

 しばらくすると強い光が消え、かわりにうす紫色の淡い光がもれ出てきた。

「浄化、されてるのかな?」

「うん……」

 

 光が消え、あたりが静寂に包まれる。

誰も言葉を発しないまま時が過ぎていく。

 

 ゴォーン ゴォーン ゴォーン……

遠くから鐘の音が聞こえてきた。

「夜明けを知らせる鐘だ。そろそろ、戻ろう」

お父様が言った。

 

 平和な日々が、戻ってきた……もう二度と魔物におびえることはない。

 

 「おはようございます。タオルをお持ちしました。旦那様が、朝食は食堂で一緒にとおっしゃいました」

「ありがとう」

 

 変わったことは……お父様が私を認めてくださったこと。

苦虫をかみつぶしたような顔は相変わらずだけど。

小さい頃のように、ふつうに会話ができるようになった。

 

 もちろん、魔法が使えるわけではないから魔法師としての仕事はできないけれど。

ユウリを生き返らせるためにスーニア様からいただいたパワーの残滓が体内に残っているようで……ちょっとした怪我とか病気だったら治せるから治癒に特化した仕事をさせてもらえるらしい。

 

 もしかしたら、テラネーア様にいただいたピンの力も関与しているかもしれない。

ブレスレットは消えたけれど、ピンは不思議と服に刺さったままだったから。

仕事をするのは基礎学校ジュニアスクールの次の応用学校シニアスクールを卒業したあと、だけど。

 

 学校のみんなは、あんまり変わらなかった。

それはそうよね。

魔物たちとの戦いを実際に見たわけではなく親や先生から『ユウリとユーリが魔物とその黒幕を淘汰してくれた』と聞いただけだもの。

 

 もともとだったユウリへの賛美は惜しみないけれど、さんざんデキソコナイって馬鹿にしていた私を褒めるなんてできないわよね。

ただ、あからさまな意地悪をされることは少なくなった。

 

 それは、ユウリが変わったから。

 

 「ユーリ!帰るならいっしょに帰ろう」

「うん」

「え~!なによ、ユウリ。ユーリとじゃなくて私と帰ってよ」

 

 「だめよ、ユウリと帰るのは、私なんだから」

「ええ!おれだってユウリと帰りたいんだぜ」

「……みんなとは帰らないよ。んだから。さ、帰ろう」

 

 自分の意見をちゃんと言うようになった。

(誰かと争うことができない、かな。競争とかじゃなく、ムカッとすることがあっても、文句を言うことができない)

そんな過去のユウリの言葉を思い出した。

 

 「ユウリも、なったわね」

「まあね。笑っているだけじゃだめなことがいっぱいあるって知ったしね」

「うん、かっこいいよ。ユウリ」

 

 「ありがと。あ、ねえ。今日ウチに来る?宿題、一緒にしようよ」

「うん。行く行く。今日の宿題、手を焼きそうだなって思ってたの。解き方がわからなくなったら、教えてよ?」

 

 「もちろん、ユーリを難問から守ってあげる。……勉強以外でもユーリのことを守り続けるよ。ずっとね」

「何か言った?そういえば、そろそろ応用学校入学試験もあるのよね」

「その対策も、していこうか」

「うん」

 

 

to be continued……




 

 


 

 

 

 


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