第3話

 俺は放課後、いつも通り礼子と帰っていた。


 違うことと言えば、礼子が安藤の話題で一色になっていることくらいだ。


「それにしても安藤君すごかったねー、体育の時間女子が皆みてたよ。あんなにすごいなんて流石アンドロイドって感じ。私初めて見たかも」


「……ああ」


 そっけない返事しか返すことしか出来ない。

 いつもなら俺も負けてないぜ! なんて言えたものだが、あまりに楽しそうに話す礼子に俺はかなり落胆していた。


 安藤が来て初日でこれなのだ。

 あと何日もすれば、きっと俺のことなんて見向きもしなくなる。

 俺はその事実が怖くなり、ついシチュエーションも何もなく告白してしまう。


「それじゃあまた明日ね」


 隣同士の家の前でいつもの別れの挨拶を言う。

 その明日は本当にいつもの明日になるのか?

 いやだ! そんなのはいやだ。


「礼子、今までずっとお前が好きだった。付き合ってくれ」


 言ってしまった。


 散々貯めていた思いを、こんなところで吐露してしまった。

 もっと気の利いた場面で言わなければ、こんな日常のついでに言った言葉が一体どれだけ相手に響くのだろうか。


 礼子も驚いて止まっている。

 俺は顔が赤くなるのを感じているが、礼子はあまり表情を変えていない。


「え、急にそんなこと言われても、……ちょっと考えさせて」


 そう言って礼子は自分の家に帰っていった。

 俺はただそれを眺めていた。


 返事は、微妙なものだった。

 『考えさえて』、これは可もなく不可もなくの返答。

 普通に考えれば急に断るのが相手に悪いなあって時に使うものだが、俺と礼子の仲だ、そんなことを気にすることではない。


 それよりも即答で「うん」って来るのを期待していた俺は落ち込んだ。


 まだ好感度が足りてなかったのか?

 前世じゃろくに女の子と接していなかったから、もしかしたらまずい行動でもとったのか?

 礼子は優しいから、俺のそういった不躾な行動にも怒らず、嫌がらず対処していてくれただけだった……?


 嫌な想像ばかりが頭をよぎる。


 違う違う違う!


 そうだ、単に距離が近すぎて、そういう対象として見ていなかったとか、そういうパターンだろ?

 友達だったやつが急に告白してきたら困っちゃうっていう。

 多分それだ。

 それだと今回は断られる可能性高いかもなあ。


 まあ、これで楔は打ち付けた。

 今後の俺のアピール次第で礼子は確実に堕とせる。

 いや堕とさなければ俺の輝かしい未来は待っていないのだ。


 後は礼子が落ち着いて俺のことだけを見るのを待つだけだ。






 そう思っていた時期が俺にもありました。

 その後礼子との仲はギクシャクしたままで、登校こそ一緒にするものの、いつもの会話がうまくかみ合わない。


 俺が冗談を言っても、そうだね、ハハって感じで肩透かしを食らう感じだ。

 まずい、告白は時期尚早だったか?

 しかしあのまま手をこまねい待っていれば事態が好転したのか?


 違う、俺は最善手を打ったはずだ。

 そう思わねばやっていられない、もう一人は嫌だ。

 なんで無駄に前世の記憶なんて持ったままもう一度寂しい思いをしなくてはならないのだ。


 そんな日々が続くか、礼子から返事をする気配を一切感じない。

 こちらからもう一度言うと急かしているように思われるかも、とこちらも余計な事を言えずにいる。

 そんな礼子の行動も少し変わってきた。

 気まずいのか、授業間の休み時間や昼休みに姿を見なくなることが多くなった。

 

 不思議に思った俺は礼子の後を着けることにした。

 ここは、誰もいない教室だな。

 仲から楽しそうな声が聞こえる。


「え~安藤君、それはないって!」


「そうかなあ?ハハハ」


 そこには安藤といつも俺に向けていた笑顔でしゃべる礼子の姿があった。


 どうしてどうしてどうして!!!


 そこにいるのは俺のはずだ!

 どうしてお前がそこにいる!


 まずいまずいまずい


 俺は焦る。


 告白がやはり悪手だったか?

 もっと盛り上がるシチュエーションで行うべきだったか?

 俺のせいで安藤としゃべるようになってしまったのではないか?


 しかしもうすでに後の祭り、後悔先に立たず。


 俺はその場をそっと立ち去り、教室に戻って自分の席に着いた。


 戻ってくる安藤と、それに遅れて入ってくる礼子。


 安藤は人気者だ。気を使っているのだろう。


 そうか、二人はもうそういう仲にまで来ているのか。

 だが俺だって幼馴染の意地がある。


 そう簡単に渡してなるものか。

 礼子は俺のものだ!!



 そう息巻いた俺だったが、特に有効な手段を打てることなく、仲良くなっていく安藤と礼子をただ見守ることしか出来なかった。

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