27.【ひかりをこえて】宵待なつこさん

https://kakuyomu.jp/works/1177354054883898055


あらすじ(作品ページより引用)

中学二年生の藤咲燈子は、あるとき目が覚めると、自分が見知らぬ病室のベッドで寝かされていることに気付く。

 医者の話によると、自分は父親の運転する車で事故に遭い、三年間眠ったままだったという。

 両親はそのときの事故で亡くなり、親戚はいつの間にか蒸発していて、孤独と絶望に押し潰されそうになる燈子だったが、想いを寄せていた宗澤浩樹と奇跡的な再会を果たす。

 喜び合う二人。しかし燈子が意識を保っていられるのは、一日のうち三時間ほどしかなく、彼女は徐々に互いに流れる時間の密度の違いに気付いてゆく──。


 ──タイム・ディファレンス




 宗澤浩樹は燻っていた。夢を叶えるために進路を決めている友人や、両親との確執、何がしたいのか決めることさえ出来ない自身の優柔不断さに。

「こんなことをしている場合じゃない……」

 いつしか口癖になっていた言葉を繰り返しながら、浩樹は今日も藤咲燈子の病室へ赴く。彼女は浩樹が唯一心を許した人間だったが、事故に遭ったために三年間眠り続けていた。

 しかしあるとき浩樹が病室の扉を開くと、そこには起き上がっている燈子の姿があった。

 信じられない奇跡に喜ぶ浩樹。しかし彼女の時間は浩樹よりも圧倒的に短く、三年前から停滞したままだった。

 自分を取り巻く環境が有無を言わさず変化してゆく中で、動かない燈子との時間に、浩樹はいつしか安堵と同時に苛立ちを募らせてゆく──。


 ──タイム・ディスタンス



☆☆☆



第27弾です。

宵待なつこさん、ご参加ありがとうございます。

がっつりネタバレ含みますので、ご注意下さい。





初期の新海誠さんを意識した作品だそうです。

で、気付きたんですが、新海誠さんの作品、何一つ見たことないですね!

自分でもびっくりしました。

君の名は。とか、テレビでやった時に録画ぐらいしとくかぁって思って、それすら忘れてましたね。


後、【セカイ系】というらしいです。

定義ははっきりしてないけど、主人公の個人的な選択が世界の命運を決めるような世界観を指すとかなんとか。


色々新しい情報が多かったです。

今回は、31話まで読みました。

感想書くなら最後まで読んだ方がいいんだろうな、という展開でしたが。約半分です。


さて、新海誠さんの作品見たことないんですが、感想としては『なんか分かるわー』って思いました 笑

『あるある!こういう雰囲気!』とか、『こういう雰囲気好きな人いるよね』みたいな感想です。


バカにしてんのか!?みたいな馬鹿みたいな感想ですが、バカにはしてないです。

作りたい雰囲気が作れるって凄いことです。


それを支えてる一つが、比喩表現かな、と思います。


以下引用です。


"辺りが薄暗くなり、いくつもの細い棒で砂を引くような音がしてきたかと思うと、朝からしとしとと降っていた雨は急にその粒を多くして、錆びた駅の屋根をいっせいに叩き始めた。"


ここがとても心に残ったんですが、いくつもの細い棒で砂を引くような音、っていう何とも言えない物悲しさとか不吉さが、雰囲気に合うなと思いました。


こういう言葉の使い方、世界の表現の仕方が、雰囲気を作ってて、やり切れなさみたいな、届きそうで届かないもどかしさとかを、著すんでしょうね。


後は情景描写。

描写もそうなんですが、背景として書かれる対象の選別が上手いんでしょうね。


やるせなさと、独特の逼迫感が伝わってきます。


その一方で気になるのが、感情を表す言葉が多いです。

「悔しい」とか「悲しい」とか。


文学的な表現という話は過去にもしてるんですが、この悔しいとか悲しいとかって単語じゃ言い表せない部分を表現するっていうのが、文学というジャンルの命題としてあります。


後は文学的な話じゃなくても、例えば「悲しい」って使うと、問題が解決してしまうんですね。

「ああ、悲しいんだな」って。

ただし、この悲しいって感情は、読み手にとっての「悲しい」であって、その作中で登場人物が抱いた感覚とは少し違います。


その差異を埋める作業というのが、面白い所というか、楽しみなところというのはあろうかと思います。


なので、「いい映画」とか「名作アニメ」とかって呼ばれる作品って、必ず「解釈」、最近だと「考察」って言われますけど、色んな考察動画が上がります。


ここはこういう意味だ、とか、ここにはこういう暗喩がある、とかって、中にはこじつけみたいなのもありますけど、まあまあそういうのがあります。

そういうのが含まれてます。


この何かよく分からないけど、なんか言いたいことが伝わるっていう共感がつまり、作品の奥行、或いは立体感という部分に当て嵌まって来るんだろうと思います。


だからかな、と思うんですが、すごくきれいで、情緒があるんですけど、『紙芝居っぽい』と思いました。

説明が丁寧で具体的で、すごくわかりやすいんですけど、逆に分かりやす過ぎる。

そういう勿体なさという偉そうで、つまらなさというと言葉が過ぎるんですが、引っ掛かった部分があります。


難解が至高ではないんです。

簡潔でいて抽象的。

抽象的でありながら、概念的。

概念的ゆえに言語化できそう。

でも概念的だから、言語化すると本質から離れてしまう。

そういう方向性がこういう作品のテーマというか目指すところなんじゃないでしょうか。


しつこく書いても仕方ないんですが、強く言い換えると、数式っぽさが出ます。

【2×8=16】

極めて簡潔なんですけど、完結してます。


例えばですけど、

【雨が降って、遠足が中止になった。とても悲しかった。】

分かりやすいんですけど、完結してます。


【雨が降って、遠足が中止になった。ひろちゃんとの約束は、私はどうすればいいんだろう。】

こうすると想像力が働きます。

この想像力を奥行きとして、奥行きがあれば物語の深い所に分け入っていきます。


特にスタートの方で感情をダイレクトに書くっていう場面が多かったです。

物語が進んでいくにつれて、段々と、ダイレクトな表現が減って来るんですが、それでも、割とあっさり言語化できてしまう部分があって、そういう主人公達なんでしょうけど、作品の背景の部分がすごく繊細に描かれてるので、もう少し欲しいなと思ってしまいます。


それでもやはり、作品の始まりから、段々と糸が縒り合っていくような、話がまとまっていくような緊張感とか着地点への期待感がとても高まる作品です。

ぜひ一度、ご一読を。


https://kakuyomu.jp/works/1177354054883898055


改めまして、宵待なつこさん、ありがとうございました。


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