1.【いとしい私のメフィストフェレス】 ヒニヨルさん
https://kakuyomu.jp/works/16817330663332753940
あらすじ(作品ページより引用)
私が出会ったイチという男は、言葉に出さなくても、何でも汲み取ってしまう人だった。知らないうちに、お酒では無くイチに酔っていく私。現在の私が語る、過去の私とイチの物語。
☆☆☆
はい、というわけで、第一弾でございます。
ご協力くださったヒニヨルさんに感謝です。
ありがとうございます。
がっつりネタバレ含みますのでご注意ください。
先ず読む前の印象から。
タイトルのメフィストフェレスとあらすじのイメージから、悪い男に絡めとられた苦い思い出の話かな?という印象でした。
書き出しはこの印象通りでしたが、読み終えると少し違いました。
もう少し前向きでした。
イチに会えたことも一緒にいたことも特に後悔はしておらず、感謝というと少しずれるけれども、自分を掴むきっかけとして役に立ったという感じでしょうか?
経験を好ましくは思っているようなので、苦い思い出ではないのだな、と。
主人公・モモもこの感情がどういうものなのかを把握できていなくて、それを表現するためにこの小説を書いているとすると、まさに私小説、文学的なアプローチと言えるのではないでしょうか。
そうなると、実はこの話においてイチはモモの感情を映す鏡の役割なので、イチの個性を深堀しても仕方なくなります。
だけれども、イチをメフィストフェレスと例えて、タイトルに持ってきているのはヒニヨルさんのセンスの良さだと思います。
これによって、後悔とか恐怖がありつつも、渇望とか多幸感も得ていたことが表現されているのではないでしょうか。
名前のないものに輪郭を与える作業のための大きなファクターになっています。
そんな今作のキーポイントだと思うのは2点。
一つは主人公モモの『能力』。
もう一つが、この話の『構成をどう読むか』かと思います。
一つ目が能力です。
『唯一の特技があるとすれば、出会ってみたい人を想像すると、遠くない未来に出会ってしまうこと』
ここが一つのポイントでしょうね。
叙述トリックというのかは分かりませんが、読み手は『主観的な評価』という印象を得るのかなと思います。
私は思いました。
『しまうこと』という締め方も上手いなと思います。
不可抗力的で、本人も意図せず、という印象を持ちます。
その上で『メフィストフェレス』と出会うという前情報と重なることで、運命のいたずらというか、願わぬ出会いだったような背徳感が増します。
しかし、実はこれが『会いたい人と会える能力』という客観的な事実であったことが、この話の根幹だと読み解けます。
現代ドラマですが、ファンタジー的な異能だったということです。
本編では『特技』なんですが、後書きでは『能力』になってます。
《短距離走が速い》が特技で、《100mを11秒で走れる》が能力ですね。
この例えはどうでもよくて、つまりモモは「イチのような人と会いたかった」ということです。
悪魔と出会ったことで、またその悪魔を振り切ったことで幸せの在り方に気付いたという話の展開にうまく添うようにできています。
そもそも前向きな話だったことがここで示唆されていたのだなと読み終わると分かる内容です。
二点目が話の構成です。
その構成というのがこの話が『二回捻られている』というところです。
一回目が、イチと話している最中に出てくる、「彼氏がいる」という話。
自己紹介では、倫理観のしっかりした人物。どちらかと言えば堅い印象を得ます。
少なくとも、浮気とか二股とかを良しとする人物には見えない。
それがこの1つ目の告白によってその人物像が覆る。
ただ、ここでの彼氏の説明は遠距離恋愛で割りとドライな付き合い方をしているというものです。
これによって、主人公が恋愛に疎いタイプではないことが分かると同時に、イチとの関係は現状に不満があってちょっとなびいてみたというものかなとなりました。
その後二回目が来るんですね。
それが「その彼氏と婚約状態にある」という話で、今、マリッジブルーなんだよねという告白です。
彼氏が婚約者となると、人物像は大きく変わる。明確に社会倫理に反する状態になりますので。
そのうえで、イチとの関係が後ろめたさを感じない表現で語られているので、ここでキャラクターが更に崩れる。
ここでの評価が別れるところかな、と思います。
モモが、この名状しがたい感情を表現することに躊躇いがあって、恐る恐る話し始めているので、倫理的に問題を含むであろう状況を語るのを後回しにした、と考えるとなるほど、繊細な表現だな、となります。
ただ個人的な好みで言うと、『現在の私が語る過去の私とイチの物語』ということなので、スタートで現在の私の立ち位置を明確にしておいた方が素直に入るな、と思います。
今現在結婚していて(かどうかははっきり書いていませんが)、婚約時代にあった話で、というような書き出しになっている方が読みやすいです。
ミステリーとかサスペンスとかではないので、ストーリー的なミスリードには異物味を覚えますね。
この感情になんと名前を付ければいいのだろう?というテーマであるならばストーリーとしての捻りはないほうが共感しやすいです。
捻るとこれまでの読み方を変える必要が出てくるので、読んでいて迷子になるというか。
本編と後書きでモモのイチに対する捉え方が変わっているという印象を受けます。
本編では振り切れなさが残っている感じですが、後書きではもう過去の話として片付いている。未練がない。
ここまでを一つと考えると、なおさら書き出しで明示して欲しいなと思うのですが。
ただし、後書きの『前向きさ』が本編を書いたことによって消化できた結果として捉えるならば、こういう構成の方がしっくり来るとも言えます。
何を表現したくてこういう構成になったのかという点と、後は好みの問題ではあろうかと思います。
さて、皆様はどう感じるでしょうか?
未読の方はぜひ御一読下さいませ。
https://kakuyomu.jp/works/16817330663332753940
後は余談ですがところどころ仮名に開いてるんですね。
タイトルの『いとしい』もそうですし、作中でも『はなし』とか『きらい』とか。
大人の話なので漢字の方がいいと思うんですが、大人だけど割り切れない子どものような至らなさを表現するために開いたのかなとも思ったり。
と色々書いてみましたが、
果たして、私はどれくらい読めてるんでしょうか?笑
改めまして、お付き合い下さいました、ヒニヨルさん、ありがとうございます。
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