第38話:天才だろうと追いついて見せる

「うおおお!」


 ルキウスと激しく攻撃をぶつけ合う。

 先の連戦と、スキルアンロックを使ったせいで、かなりの魔力を消費してしまっている。

 さらに、さっき左手の大穴を乱暴に焼いて止血したせいで、感覚が薄い。

 魔力も、体力も、身体の耐久力も、いずれも満身創痍だ。

 それでも体が動き続ける限り、止まるわけにはいかない。


「甘い!」


「ぐわっ!」


 ルキウスに吹き飛ばされ、地面を転がる。

 さっきから、何度こうして転がされているか分からない。

 意識は、最大限に研ぎ澄まされている。

 しかし、体が思っているように動かない。

 黒剣ロンドを杖代わりにして、立ち上がる。


「スキルアンロックを使ってもこれか」


 舌打ち混じりに、鉄の味がするつばを吐き捨てる。


「体が追いついていないんだ、あいつの熟練の技に。だから次になんの攻撃がくるか分かってるのに、対応できない」


「それが分かってるのに、なぜ何度も立ち上がる?」


「だったら、追いつけばいいだけの話だろ! 物にしてみせるさ、何度だって立ち上がってな!」


 勢いよく地面を蹴って、ルキウスに最接近する。


「くっ、こいつ何度も!」


 ワンツの攻撃を、適当にいなすようにルキウスは槍を振るう。

 ルキウスは気づいているのだろう。

 もはやワンツに、ファイアダガーを展開しておくだけの魔力は残っていないことに。

 ならば、中距離を維持しながらアイギスで迎撃に徹していると、いずれワンツのスタミナは切れる。

 そこを、適当に処理すればいい。


「逃がすかぁ!」


 しかしワンツとて、そう素直にルキウスの作戦に乗ってやる気はなかった。

 致命傷さえ避けることができれば、切られようと、刺されようが関係はない。

 なんとかルキウスに食らいつき、接近戦を維持しなければならない。

 全方位から攻撃してくるアイギスをさばきながら、ルキウスの懐へと再び接近する。

 こんなことが、満身創痍のワンツにできる訳はないからだ。


「こいつッ……しつこい!」


 ある程度ならば、ルキウスの攻撃は読める。

 紙一重で攻撃を回避しながら、剣を振るう。

 なんとか距離を取り、アイギスで制圧したいルキウス。

 それを阻止し、接近戦を維持したいワンツ。

 それぞれの思惑がぶつかり合うように、何度も火花が散る。


「そこだ!」


 回避しづらい場所を正確に狙ってくる、ルキウスの槍さばき。

 命のやり取りを続けるほどに、ワンツが持つ択を見切られジリ貧になっていく。

 そんな詰将棋のような攻撃を受け続ける中、ついに戦況に変化が訪れた。


「くっ、こいつどうして」


 押されっぱなしの不利状況を覆し、ついにワンツの攻撃がルキウスの防御魔法にまで、たどり着いたのだ。 

 目元で散った火花を、ルキウスは不愉快そうに一瞥する。


「このまま追い抜く!」


「そう簡単にやらせるか!」


 ここから、明らかにワンツの動きが変わった。

 余裕の感じられたルキウスの表情に、焦りの色が濃く映っていく。

 何度もぶつかり合うそれぞれの剣撃は、素早さを増していき、残像が光って見える。

 それぞれの気持ちが、長年共に過ごしてきた相棒に乗せられ、光を発しているのだ。

 光と光がぶつかり合い、散った火花が顔を照らす。

 ワンツは楽しげな笑顔。

 ルキウスはそれを、忌々しげに睨みつける。


「余裕がなくなってきたんじゃないか? 天才!」


「減らず口を……チッ、ここにきて更に威力を上げてくるのか」


「このまま押し込む!」


 一瞬距離を取り、意識を剣に集中させる。

 イメージするのは、最強の切れ味を持つ蒼炎の剣。


「オーバーファイア・シャープエッジ!」


 青い炎が黒剣ロンドを覆い、抜身の刃を形作る。

 どんな強敵すらも斬り伏せる、ワンツが持つ最強の剣。


「この状態でまだ、それだけの魔力を残しているのか」


「燃費の悪い大技なんでね。一気に決着を付けさせてもらう」


「いいだろう。俺もいい加減、飽き飽きしてきたところだ」


 ルキウスは自分の周囲に、5枚のアイギスを展開する。

 自由に形を変えながら宙を浮遊する、最強の盾であり矛。


「釣れないなぁ。せっかく男同士の大喧嘩なんだ。聞かせろよ、お前の本音を。そんな顔してないでさ」


 蒼炎の刃となったロンドを構えながら、ワンツは言った。

 ルキウスは少し考えてから、顔をしかめながら言い放つ。


「なら言ってやるよ、お望み通り。俺はお前が大嫌いだ!」


 爆発した感情を、吐き出すようにルキウスは叫んだ。

 憎しみや嫌悪感が、伝わってくるような叫びだ。

 ワンツはそれを、優しく微笑みながら聞いている。


「へえ、それで?」


「たいした力もないくせに、夢だ理想だと世迷い言ばかり吐いて、人を惑わせる。沢山なんだよ! そんな戯言は! たかがしれてるんだ、人ができることなんてのは!」


 息を荒げながら、ルキウスは自分に言い聞かせるように叫んだ。

 ルキウスの叫びに対して、ワンツは優しい声色で応える。


「確かにな。お前の言う通りかもしれない。魔王とか、世界を滅ぼす力だとか、仰々しいことばかり言われてるけど、実際はこんなにもボロボロだ。こんな奴が、理想を語っても、無責任だというのも分かる」


「なら黙って死んでくれ。世界のためなんて言わない。俺たちのために」


「そうはいかない。だって、こんな無責任な俺が語った夢を信じて、付いてきてくれる仲間がいるんだ。俺は、そいつらを裏切るようなことはしたくない。それにな、ルキウス。願うことすら止めてしまったら、叶う夢すらも叶わなくなってしまうぞ?」


「お前はそうやって……なんでも分かったような顔をして、人を説教するのはやめろ! お前の言動は、一々俺を苛立たせる。やはりお前は、必ずここで倒す」


「それは悪かったよ。ただなルキウス、お前は自分が負ける可能性を少しも計算していないだろう」


「当然だ。魔王の力とやらもあるだろうが、それを加味してもお前の成長速度は予想外だった。だが、それでも予測の範囲を超えてはいない」


「聞いたよ、お前は未来予知ができるんだってな。だったら真正面からぶつかって、お前の未来予知を俺が否定してやるよ。そうしたら、少しくらいは明るい未来が見れるだろう?」


「そうやって、無責任な戯言ばかりを言いふらす。だからあいつは……」


「あいつ?」


「お前は、魔王という原罪を背負って、死ぬしかないんだ。お前の罪に、他人を巻き込むな。これ以上、魔王の虚言に踊らされる者が出ないように、お前はここで俺が殺す」


「いいねぇ、やっと本気の目になった」


「二度と、世迷い言を吐けないようにしてやる」


「お前の全部を受け止めてやるよ、ルキウス!」


「不愉快なんだよお前は。それ以上、喋るなぁ!」


 ふたりは同時に突進する。


「殺せ! アイギス!」


「はぁぁあ!」


 猛スピードで接近してくるアイギスを切り裂きながら、ルキウスへ突進する。

 最強の盾がいとも簡単に切り裂かれたが、そんなことは意にも介さずにルキウスも突進してくる。

 蒼炎の刃と、白銀の聖槍が激しくぶつかり合う。

 高速で攻守が入れ替わる、達人同士の戦い。

 攻撃のひとつでも当たれば、致命傷になる。

 しかし、ふたりとも少しも怯む様子はない。

 それどころか、命をかけたやり取りは、さらに熾烈さは増していく。

 高速の一振り、一振りが残像となって、光り輝く。

 

「うぉぉぉぉ!」


「こっ……のぉぉ!」


 ふたりの雄叫びと共に、蒼と白の軌跡がぶつかった。

 魔力とは、人間の想いを具現化させる力だ。

 絶対に勝つ。

 そんな強い気持ちがこめられた一撃が交差し、衝突点で高密度の魔力がぶつかり合った。

 相手を倒すという強烈な思いは莫大なエネルギーとして具現化し、大爆発という現象が引き起こされた。

 声を出す暇もなく、爆炎がふたりを覆い隠す。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

次回は2月5日、18時頃公開予定!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る