2091_3_むかしむかしあるところに

2番はいつも優しくて、ニコニコしてる。本が好きでどんなときでも手放さない。

「その本、いつも持ってるね」

私がそう言うと2番は少しだけ悲しそうに微笑みながら言った。

「今は本があってももう焦げたものがほとんどですから貴重ですし……それにこれは僕のお気に入りなんです」

「その本はどんな話?聞かせて欲しいな」

私が興味津々で聞くと2番が本を優しく撫で、表紙を開き読み始めた。


昔々あるところに女の子がいました。

女の子は家族や友だち……みんながしあわせそうにしているのが好きでした。

困っている人がいれば助けに行き、おなかが空いている子どもがいれば自分のパンを分けてあげました。

ところがある日、いろんなものを上げ続けた女の子はあげられるものが何もなくなってしまいました。

パンもなく、着ている最後の服もぼろぼろなのです。

もう、自分以外は何もありません。

何もなくなってしまった女の子は、空を見上げて、お星様にお祈りしました。

私はまだ皆としあわせになりたいのです、と。

すると、お星さまがかたりました。

しゃらしゃら。さらさら。きらきら。

その声を聞いた女の子が一度瞬きをすると、体は軽くなりお祈りをしたお星様の隣にいました。

そして今でも輝いて皆を見守っているのです。


読み終わった2番は本を閉じて、再び表紙を手でなぞる。

「このお話、昔からよく読んでました」

「お星様は今も雲の向こうで光ってるのかな?」

硝子越しに見える外は相変わらずどんよりとした雲に一面覆われていて、星は見えない。

「ええ、きっと」

そう答える2番の声を聞きながら、私の中で雲の向こうの綺麗な星が瞬いた気がした。


2091_3_むかしむかしあるところに

-本当はどこにも存在していないことを示す、おとぎ話の決まり文句。

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