第10話〰透明女、はじめてのおつかい〰

パッと見だけ普通のちょいチビ女になることができた俺は、すぐ近くのコンビニへと赴いた。


12月の寒さも、ほとんど気にならない。いつも外は全裸が基本だったから、温かい服を着て外に出られるってだけでもう感無量だ。靴を履いてるから足跡も気にしないで済む。


コンビニへ向かう際に1人だけ通行人とすれ違った。俺が歩幅を緩め、ぶつかりそうな寸前でちゃんと避けてくれた。泣きそう。


あ、泣くので思い出した。ドーランは油分が多く、汗や水にとても強いらしい。そのためメイクが崩れてしまう心配は殆どしなくて良いとのこと。ありがたい。




目的地に着いた。緊張で足がちょっぴり震えている。意を決して、いざ入店。


自動ドアが開き、かつて聞き飽きたほど聴いていた入店音が鳴る。

ああ……ヤバい高まる……。


…背が縮んでしまったことの影響か、何か1つ1つの棚が大きく見えて、ちょっと威圧感をおぼえる。あの頃から色々変わったなぁ……。もう3ヶ月かぁ…。



さて、お目当ての物を買おう。

まずはスイーツコーナーを目指す。


(……!!)

プレミアムロール何とかを発見!!しかも…

(チョコ味もある!?)

何ということだ。俺の知ってるプレミアムロール何とかに、派生種が存在する…だと…!?


脊髄反射で、買い物かごへ。もちろんどっちも1個確保した。


他にも見慣れないお菓子がたくさん。この棚に住みたい。それか置き配をぜひお願いしたい。その中に、ちょっと気になる物を見つけた。

(……カヌレ?)

酸素吸えそうな名前のスイーツも見つけたので、これもかごに放りこんだ。

スイートポテトは取り扱ってないみたいだった。残念。


流れるようにアイスコーナーへ。

…ハーゲン何とか、ありました。だが値段がものすごく高い!!

こんなちっちゃくて300円超えるのか…


…プラン変更。スーパー何とかのバニラ味と歯磨き粉味を1個ずつかごへ。これなら200円ちょっと。安い!



お弁当やおにぎりも物色。もうツナマヨおにぎりは100円ジャストじゃないんだね。

今回はスルー。



会計待ちの時間すらあっという間に感じた。

「お待ちの方どうぞー」

……あ、俺か。声をかけられるのすら嬉しい。ありがとうございます店員さん。


全く問題なく会計も終えて、俺は店を後にした。冒険は大成功で幕を閉じた。



…いや、そんなことは無かった。



それは帰宅して、デスタム状態でカヌレを食べ終えた後に起こった。

カヌレ自体はすごく美味しくて、全く問題は無かったんだ。むしろ久しぶりの洋菓子を食べることができて、実際涙を流したぐらいだ。



問題はその後のメイク落とし。

いつもの洗顔フォームを手のひらで泡立てて、それから洗顔。いつも通りのルーティンだ。


…前に目を閉じてても景色が見えちゃうのは教えてたっけ?

普段の洗顔だと泡の白い光景がお湯で洗い流されて、視界がクリアに戻るのだが、今日はベージュのまま。


…そう、ドーランが全く落ちてなかったのだ。

「ええぇぇ!!ヤッバ!!」

慌てて顔をもう一度ゴシゴシと洗う。この行為が悲劇を助長した。

多少ドーランは落ちたものの、数十ヶ所にポツポツとベージュの点が残り、一部は落としきれず溶けかけたゾンビみたいな見た目になった。

「ひゃ……!!!!!!!!」

怖い、ひたすら怖い……

どうやらドーランは汗水に強い反面、ほっぺの毛穴という毛穴にまでぎっしりと入りこんでしまうそうだ。

そのためオイルクレンジング?って化粧品を使って落とした方がいいんだってさ。


…………。


ごめんなさい、あくまでお願いなんですが……「透明人間に戻る時はメイク落とし大変なのー」「全くドーラン落ちないのー」とか……一文だけでも描写していただけませんか?


…お前ササッとハンカチとか水で綺麗さっぱり肌消えてたろう!!このフィクションめ!!

あ、フィクションだからか……。




「お風呂にしよう……。」


いつも通りに入浴の準備。今日はゆずの香りにしよう。

今日はお湯に浸かって、入念に身体を洗おうね。



リラックスしきったゾンビもどきは、眠るように床についた。今日もどっと疲れた……。


そして目覚めの朝、枕の一部分がベージュになっていた。これ落ちるの……?


……。


ほんと、透明女は生きづらい……。





つづく

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