惨状
ホワイトが村に辿り着いた時、村は破壊し尽くされ、そこら中に村人の死体が散乱していた。
「ひどい……。エルシィは?」
「その声は、ホワイト殿か?」
瓦礫の下から、村の警備にあたっていた兵士が自ら瓦礫をどけて這い上がってきた。
「しっかり!」
ホワイトは手を貸して兵士を立たせた。
「かたじけない」
「何が起きたんですか?エルシィや村のみんなは?」
「リョウタがエルシィの家に入った少しあと、エルシィの家がいきなり跡形もなく吹き飛んだのです。そこからリョウタが姿を現し、突如、村人を襲い始めたので我々が応戦しましたが、リョウタは手から何やら光を放ち、その光に我々兵たちは吹き飛ばされ、次々と倒されてしまいました」
「そんな、リョウタが特殊能力を!?それで、エルシィとその家族は?」
兵士は目を伏せて首を横に振った。
「あの時、エルシィの家の中には、彼女を含め家族全員がいました。家は土台も残さず吹き飛んだのでおそらく──。私以外、ほかに生き残っている者は誰もいません」
ホワイトは拳を地面に叩きつけた。
「なんてことだ!僕がリョウタを信用したばっかりに」
エルシィが、彼女の父と母が、村人たちが皆、自分の甘さのせいで命を落とした。
その思いがホワイトの胸を強く苦しめた。
「ホワイト殿、そのリョウタのことですが」
「リョウタが何です?」
ホワイトの顔は怒りに満ちていた。
「やつが村を襲っていた時、やつは泣いておりました」
「リョウタが泣いていた?」
「はい。なぜ泣いていたのかは、わかりませぬが」
「ホワイト殿!」
ダモス公爵が到着した。
「なんという有り様。来訪者には人の心は持ち合わせていないのでしょうか」
「そうでしょうね」
ホワイトの声は冷たく、静かだった。
「馬小屋でアーバンが殺されておりました。馬二頭と幌馬車が消えており、何者かがアーバンを殺して盗んだものかと。数人の男が馬小屋から出てきたという目撃情報もあります」
ホワイトは氷で武器を作り始めた。
「この辺りで馬車が通れる道はベシクス峠しかありませんね?」
ホワイトが公爵に訊ねる。
「そうですな。まさか追うおつもりか?」
「はい。アーバンを殺して馬車を奪ったのもリョウタと来訪者でしょう。馬で後を追います」
「お一人では危険です。私もお供します」
生き残った兵士が言った。
「大丈夫です。僕一人で行きます。あなたはご自身の手当をしたほうがいい」
「では私がご一緒しましょう。部下を率いておりますので数だけならこちらが有利です」
ダモス公爵も続けて言った。
「一人で行くと言ってるんだ!誰もついて来るな!!」
ホワイトの怒号が響いた。
ホワイトの剣幕に、兵士もダモスも驚く。
「僕が来訪者たちを全滅させます。そしてリョウタも」
ホワイトは馬に跨った。
「ホワイト殿」とダモス公爵。
「まだ何か?」
「一人残らず狩り尽くしてくだされ」
ダモス公爵は被っていた帽子を取り、胸の前にあてた。
「そのつもりです」
ホワイトは馬を走らせた。
馬に乗るホワイトの背中を、ダモス公爵と兵士が見送った 。
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