リョウタに近づく者

 リョウタは自分を保護してくれたスノーホワイトに感謝していた。

 「彼は素晴らしい人間だ。元の世界であんな人間に出会ったことはない。彼が殺し屋なんて物騒な仕事をしているとはとても想像できない。彼は今の仕事に嫌気が差したりしないのかな」

 「リョウタさん、私は洗濯物を干すから、リョウタさんは森でキノコを採ってきてくれる?」

 エルシィがキノコ採りの籠をリョウタに渡した。

 「あまり奥へは行かないでね。それから、もし怪しい人がいたら、すぐに戻って来て知らせて。ホワイトがわかるように狼煙を上げるから」

 「わかりました。行ってきます」

 リョウタは村の近くの森へ向かった。

 「エルシィ、あの娘もとても優しい娘だな。お嫁さんにするなら、ああいう女の子がいいな」

 「リョウタくんだね?」

 リョウタが声のする方を向くと、一人の男が宙に浮いていた。

 「だ、誰だ」

 「大丈夫、安心しろ。俺はラクタ。俺も君と同じ来訪者だ。君を監視している兵にはちょっと眠ってもらっている。少し話をしないか?」

 「嫌だ。怪しいやつを見つけたら知らせるように言われてる」

 リョウタは走って逃げようとしたが、身体が動かなかった。

 「おーっと。逃げられないぜ。なんたって俺の拘束の魔法で身体の動きを止めてるんだからな」

 すぐそばの茂みから、ラクタの仲間のワトが現れた。

 「この魔法を解け」

 「もちろん解いてやるよ。俺たちの仲間になればな」

 ラクタは動くことができないリョウタの前に立った。

 「なあリョウタ。俺もお前も、向こうの世界ではえらい目に遭ったよな。でもここは違う。ここには、理不尽に怒鳴る上司もいなければ、人を弱者男性と指差して軽蔑する馬鹿もいない。俺たちは自由なんだ。しかもおまけに特別な力を授かっている。お前にだって力があるんだよ。その力を使って、この世界を俺たちの物にしようじゃないか」

 「やめろ。俺に近づくな。俺に特別な力なんて無い」

 「いいや、ある。イワオ」

 「あいよ」

 別の茂みからラクタのもう一人の仲間のイワオが出てきた。手には光沢のある黒い腕輪を持っている。

 イワオは持っていた腕輪をリョウタの右腕にはめた。

 「この腕輪には二つの能力がある。ひとつは身につけた者の潜在意識の願望を引き出す力だ。そしてもうひとつは、本人が気づいていない特殊能力を覚醒させる力だ」

 「ああ────」

 腕輪から黒い靄が発生し、リョウタの身体を包み込んだ。

 「さあ教えてくれ、お前の本当の望みと力を」

 「お、俺は──」

 「なんだ?言ってみろ」

 「俺はエルシィが好きだ。彼女を自分だけの物にしたい」

 

 気を失っていた監視役の兵が意識を取り戻した時には、リョウタは森から姿を消していた。

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