目覚めた男

 スノーホワイトの家で眠っていた男は、翌日の早朝にようやく目を覚ました。

 彼はリョウタという名で、元の世界では中間管理職に就いていたが、上からも下からも叩かれる日々に嫌気がさして富士山の樹海を彷徨った挙げ句、衰弱死したのだという。

 「それじゃあ、あなたは元の世界で死んでから、今朝まで、ずっと意識が無かったんですね?」

 ホワイトはリョウタと朝食を摂りながら質問した。

 「はい。ですので、イワオという名前も存じ上げませんし、攻略本というのも全くわかりません」

 「そうですか。では、あなたは何か特別な力を持っていませんか?異世界に渡った者は全員、何かしらの特殊能力を持っています。勿論、僕にもあります。あなたは何か感じたりしませんか」

 リョウタは少しの間思案した。

 「駄目です。何も感じません」

 「わかりました。質問を変えます。あなたはこの世界での望みはありますか」

 「望み?望みはあります。静かに暮らしたい、それだけです。もう、元の世界の時のように神経を擦り減らして暮らすのは懲り懲りです。静かに暮らせれば、それで充分です」

 リョウタの表情と声はとても疲れ切った様子だった。

 ホワイトはリョウタに自身の能力と仕事を説明した。その後、リョウタを城に連れて行き、王と面会して彼の村の滞在許可を貰った。ただし、監視付きだが。

 リョウタはエルシィをはじめとした村人たちとすぐに仲良くなり、村の仕事を手伝うようになった。

 村人たちと打ち解けたリョウタの姿を見て、ホワイトは、来訪者すべてが悪しき心を持っている訳ではないという考えが一瞬過ったが、すぐにその考えを消し去った。

 自分は来訪者たちと戦い、この世界を守るのが使命なのだと改めて肝に銘じた。

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