集いし来訪者

 イワオは心地よい陽のあたる草原に立っていた。

 「ここは?」

 「異世界だよ。俺たちは異世界に来たんだ」

 空から声がして、イワオが見上げると、一人の男が降りてきた。

 「だ、誰?」

 イワオは初対面の人物に目を合わせることができず、下を向いたまま声を出した。

 「大丈夫だ、ちゃんと前を向け。俺はラクタ。君と同じく別世界から来た者だ」

 「同じくって、ということは、ここは本当に異世界なのか?」

 「そうだ。俺たち陰キャなら誰もが目指す、あの楽園だ」

 「異世界転生って本当にあったんだ」

 「いや異世界転移かもな。それは人によって異なる。君は向こうで死んだのか?」

 「そうだよ。俺はイワオ。パワハラで精神を病んで、引きこもりになったんだ。そのまま不摂生で孤独死さ。大体、なんで取引先の電話番号を控えなかっただけであんなに怒鳴るんだ。電話を取るなんて小学生にだってできるだと?畜生、思い出しただけでも腹が立つぜ」

 イワオは顔を真赤にして言った。

 「まあ落ち着け。もう前の世界の辛い思い出なんか忘れるんだ。それよりも、この世界を楽しもうじゃないか」

 「そうだな。あんたの言う通りだ。ところで、あんたは浮遊できる能力があるみたいだが、俺はどんな力を手に入れたんだろう?ステータスオープン!••••••何も起きない。ここはゲームみたいな世界じゃないのか。ちょっと残念だ。おや、ポケットに何か入ってる」

 イワオはズボンのポケットから小さな冊子を取り出した。

 「これは••••••攻略本じゃないか!すごい、強力な武器の在り処が書かれてる。それにこの世界の情報や王国軍の攻略法もあるぞ」

 ページをペラペラとめくる度にイワオは驚く。

 「おーい」

 遠くから一人の男が歩いてきた。

 「その容姿、あんたも転生者か?」

 イワオが聞く。

 「いや、多分転移だ。母親のメシを食いたくないからコンビニでチキンを買って出ようとしたらここにいた。名前はワトってんだ」

 「そうか、歓迎するぜ。俺はラクタだ。なあ、転生だの転移だのややこしいから言い方を変えないか」

 「どんな?」イワオとワトが揃って聞いた。

 「来訪者ってのはどうだ」

 その後、三人は各地で自分たちと同じ来訪者を見つけ出して集めることにした。

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