第11話 小川の拠点から移動する

 微妙な相棒と出会い午前中を無駄にした気分になったが、寂しさが紛れるので良かったと思っている。変な喋り方さえなければ。


「言語意識か。俺の喋り方を変えたら大丈夫か?」

「ニュースとか見てたし、基本的には標準語で喋れるはずだ!」


『主、どうしたんでしゅか?』


「俺の言語意識をちょっと変えてみる。いや変えてみせる。今から関西弁が全く混じらない事を宣言する!」


『誰に宣言するんでしゅか?』


「……」


『……』


「まぁイイんじゃない?」


『…そうでしゅか』


「今日は草むらに隠したキャリーバッグを取りに行きたかったのよ。」


『はぁ』


「でも、もうお昼過ぎてるからね。行くのは明日にして今日は塩の採取と密林で食材を探そうと思ってるのよ。」


『はぁ』


「なのでポチは密林に入り、食べられそうな食材を探してね。」


『はぁ…ちょっくら行ってきましゅ』


「日没までには帰るのよ~。」


『なんか男か女か分からない喋り方でしゅね…』


「意識して完全な標準語にするのは難しいな…少しずつ変えてくか」


 テレビなどで標準語を聞き慣れていても、喋るとなると難しいものである。


(生活環境をもっと良くしないとダメだな。小川に沿って上流を探索してみるか。)


 このままだと、ジリ貧になり手詰まりになりそうな気がした。明日、キャリーバッグを取りに向かい使える物を頂く。そして明後日には上流へと向かうことを決めた。

 塩の採取や黒曜石の穂先を作り、槍を作るっているとポチが戻ってきた。


『主、密林の浅部を探索したけど何もないでしゅ。もっと奥を探さなダメでしゅ』


「そうか、仕方無いな。今日はもう終わりにしよう。パパイヤ食べて休むか。」


 明日からの行動に備えて休息を多めに取ることにし、今日は早めに就寝した。


 そして翌日のこと


「ポチ、草むらに隠したバッグ探しに行くぞ」


『どれぐらいの距離でしゅか?』


「3時間ぐらいの距離だな」


『でしゅか』


「よし出発するぞ」


 往路3時間、休憩と荷物選別で1時間、復路3時間。

 7時間の行動予定である。


「夕方までには十分ここに戻れるだろ。途中で何か気付いたら教えてくれ」


『はいでしゅ』


「お前は鼻が利くのか?」


『まぁ、バッチリ利くでしゅ』


「犬ぐらいか?」


『イヌコロと一緒にされたないでしゅ。でも似たようなもんでしゅ』


「そうか。あの拠点に来たのも俺の臭いを追ってきたのか?」


『そうでしゅ。主は臭いが強かったんで簡単でしゅ』


「あ?臭かったって事か?」


『いや…臭いが強(まぁまぁくさかった)かったって事でしゅ』


 そんな会話をして歩いていると、ポチが反応した。


『主、向こうから妙な臭いがしましゅ』


「どこだ?」


『あそこの草むらでしゅ』


「おお!たぶんあの場所だ。バッグ隠したの」


 草むらに向かいキャリーバッグを発見した。鍵は掛かっておらず容易に開けることが出来た。中身は男性用の衣類、リュック、ウエストポーチが入っていた。


「使えそうなのは…リュックとウエストポーチ」


「あとは衣類も持てるだけリュックに入れるか。やっぱナイフとかライターとかは無いな…食べ物も無いか」


『主、どうでしゅか?』


「まぁ、悪くはない。やっぱり来て良かった」


『でしゅか』


「よし、戻るか」


『この箱は捨てるんでしゅか?』


「キャリーバッグか…邪魔だし捨てていく」


 中身の大半をリュックに詰めて、拠点へ戻った。


 そして翌日のこと。


「ポチ、今日はこの拠点を放棄して上流に向かうぞ。途中でパパイヤを見つけたら採っていく。」

「小川に魚も居るか見ててくれ」


『川魚を捕るんでしゅか?』


「いや、川魚が居れば、最悪はそこまで戻れば食べるものは確保できるしな」


『でしゅか』


「じゃあ出発するぞ」


 小川の拠点を出発して2時間ほど歩いた時のこと


「ここってゴブリン戦闘場所だな。もう死体も骨もない」


『主はゴブリンと戦ったんでしゅか?』


「そうだ。ギリギリで勝ったんだけどな」

「そう言えば…あのゴブリンが食べてた白いのって…お前の仲間か?」


『何がでしゅか?』


「いやな、ゴブリンを発見したとき、ヤツが白い動物を持って食べてたんだ。」


『いや、違うと思うでしゅ。ワイらはゴブリンに捕まるほど遅くはないでしゅ』


「そうか、お前らには巣とかあるのか?」


『ワイらは孤高のホワイトウルフでしゅ。群れで暮らさないでしゅ』


「じゃあ番いとかはどうするんだ?」


『それはアレでしゅ。アレする時だけ一緒に居て後はバイバイでしゅ』


「お前最悪だな…じゃあ、どうやってメスを見つけるんだ?」


『時期が来たらエエ臭いがするんでしゅ。ほんでフラフラ、チョイチョイっと』 


「あぁ、フェロモンの事か」


『屁のもん?なんでしゅかそれ?』


「いや、もういい…」


 ポチとグダグダの会話をしながら、進んで行く。

 ゴブリン戦闘場所からさらに2時間ほど進んだときの事である。


「ちょい休憩するか。そこにパパイヤも見つけたし」


『でしゅか』


「周囲に何か居そうか?」


『いや、大丈夫でしゅ』


「前方に山が見えるな。あまり高くないな。あの山の麓を目的地にするか」


 ガサガサ ガサガサ


「!」


『!』


(おい!ポチ!大丈夫なんとちゃうんか!)

(ワイでも風上の臭いは分からないでしゅ!)


 密林の草むらから緑のヤツが1匹現れた。


(ポチ、アイツを殺るぞ!)


『……』


(え!? アイツ逃げた!仕方がない。レベルも上がったし大丈夫なはずだ!)


『グギャ? ギャギャギャーー!!』


 ゴブリンが俺を見つけ叫びながら襲ってくる。俺は石斧を振り上げ威嚇しながら迎え撃つ。


「ふんがぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 バッターボックスに立っているような状況でゴブリンを迎え撃つ。


 ヒュンッ  バギョ!


 見事にゴブリンの頭部に石斧が命中し、ゴブリンが痙攣しながら倒れる。

 どこからか白い影が飛び出しゴブリンの喉に噛みつく。

 そしてゴブリンは絶命した。


「おい!! ポチ!! お前なんで逃げたんじゃ!!!」


『主、ちがうんでしゅ。隙をついて攻撃するのに潜んだんでしゅ』


「嘘つけ! ゴブリンが死にかけてから出てきたやんけ!」


『ワイは孤高のホワイ…』


「もうええ!番いの事やら、この戦闘のことやら、お前は最低やな。」


『主ィ…ひどいでしゅ』


 そんなこんなで、初めての共闘は無事に終えたのである。



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