第10話 微妙な相棒
夜が明けた。日が昇る。
『ワン!ワン!』
日の出と共に目が覚める。木上の小屋で眠るのも少し慣れてきた。
どこからか犬の鳴き声が聞こえてきた。
『ワン!ワン!』
「ん?ワンコの鳴き声聞こえるな。どこだ?」
小屋の入り口から周囲を見渡すが、見当たらない。縄梯子を使いヒョイっと飛び降りる。
『ワン!ワン!ワン!ワン!』
20mほど先だろうか、その付近から鳴き声が聞こえる。
「うっさいな!なんじゃコラァ! 」
鳴き声のする方向に向かい、大声で相手を威嚇する。
『ワン… クゥ……』
(昨日のワンコだな。生きてたのか。)
「なんか用か?」
少し大きめの声で犬型生物に話しかける。近づこうと歩き出したところ、犬型動物は逃げて行った。
「人騒がせなワンコだな…。」
お礼の挨拶かなと、一瞬、思ったのだが、動物が挨拶をするとは思えなかった。ワンコの訪問で完全に目が覚めたので何かしらの行動をすることにした。
「とりあえず水浴びをするか。あぁ頭が痒い…。」
服を脱ぎ全裸になる。小川に入って体と頭を洗う。石鹸が無いので汚れは落ちにくいが少し綺麗になった気がした。
(このボロボロの服もついでに洗うか。)
上着は緑の長袖シャツと白いTシャツ、下はジーンズ。しかも左腕部はゴブリンに噛まれたために破れている。他に衣類が無いので全裸で洗濯をする。
(よし。これぐらいでいいか。今日は天気が良いから半日と待たず乾くと思う。)
(その間に海で魚でも捕るか。)
魚を捕る道具が何も無いことに気付き、黒曜石ナイフを使った簡易的な銛を作る。これで何とかなるだろう。と考えてとりあえず潜ってみる。
(お!大きな魚だ!)
40cmぐらいの魚が数匹泳いでいる。
(ブサイクなデコ魚だな。まあ、逃げないので有難いけど。この銛で突いて確保するか。)
ザシュッ!
(よし!)
魚を確保して砂浜まで戻る。
(ふぅ…上手いこと魚が捕れたな。やっとパパイヤ以外を食べられる。)
(塩は…今日は無理か。)
まいぎり式火起こしで焚き火を用意して青ブダイに似た魚を焼く。焼けるまでの間、密林から大きめの葉っぱを10枚ほど採取して海水をかける。これは水分を蒸発させて塩を採取するためである。
今日は天気が良い。夕方には塩が採れるかな。服は乾いてないけど着れそうだ。と思いながら服を着て、焚き火の側に座り魚が焼けるのを待つ。
ふと、この島に着いたときに浮き輪代わりにしていたキャリーバッグの事を思い出す。
(今日はあのバッグを取りに行くか。中に何か使える物が入ってるかもな。)
(そろそろ魚が焼けたか。)
密林の方向から何かが聞こえた。
ガサ…ガサ…
(ん!? なんだ…)
さっきの犬型生物がこちらを見ている。特に危険は無いと判断して無視することにした。しかし。この魚は旨い。塩があればもっと最高だけど。しかし簡単に捕れるので助かる。
じぃ~
ビタミンなどの栄養素はパパイヤから摂取可能だと思う。なので魚は焼いて食べてる事にするか。明日もこの魚を捕まえて塩焼きで食べるか。しかし、水以外も飲みたい。何かしらの葉っぱでお茶は作ってみるか。
じぃ~~
お茶が飲みたくなってきた。そう言えば、タンポポでコーヒーが作れたと聞いたことがある。タンポポは見かけてないが後で探してみるか。たしか…根っこを焙煎して作るんだったと思う。 後でフライパン代わりになる薄い石でも探すか。
じぃ~~
「……」
「おい…なんか用か。」
魚を食べている間に犬型動物が側まで近寄っていた。ずっと無視をしていたのだが視線に耐えられなくなり話しかけた。
「餌が欲しいのか?仕方が無いな、ほれっ。」
ほとんど食べ終えた魚とパパイヤを犬型生物に与える。
ガブガブ ムシャムシャ
「お前、腹が減ってたのか?野生動物だろ? 今まで餌はどうしてたんだ?」
「まさか楽をするために俺の所に来たんじゃねーだろうな?」
………チラッ ムシャムシャ
(ん!? あれ…? もしかして言葉を理解してないか?)
『………クゥーン?』
(少し試すか…)
「正直に答えたら餌をやる。嘘ついたらもう餌は無しだ。」
「はい」 は 「ワン」
「いいえ」 は 「ワンワン」
「これで質問に答えろ。」
『……ワン(…はい)』
「やっぱり。お前は言葉を理解しているな?」
『ワンワン!(いいえ!)』
「嘘つけ! 会話成立してるじゃねーか!」
『ワンワン!(いいえ!)』
「次、嘘ついたら絶対に餌はやらん!言葉を理解してるだろ!」
『………』
『ワン……(はい…)』
「ほらみろ!なんか変だと思った。ここには何しに来た?」
『ワンワンワンワオン!(#$%%&#$)』
「うん!? なに言ってるかサッパリわからん」
「俺が聞くから返答しろ。ペットになりに来たんか?」
『ワォン??(なにそれ??)』
「あぁ、意味分からんか…。生活に困って従属を望んでるのか?」
『……ワワン(はいいえ)』
「どっちなんだ!その泣き方は!」
『…ワァ……ン?(…は…い?)』
「だからどっちなんだ!!!」
『…ワ…ン(…は…い)』
「そっか、昨日助けた事に恩義は感じてるのか?」
『ワンワン!(いいえ!)』
「この恩知らずの駄犬!餌目当てだけか?」
『ワン!(はい!)』
「…チッ まぁいい。微妙だが会話が成立するから一人よりマシか。」
「しゃーない。お前が従属(ペット)するのを認めてやる。」
「そうだな、お前の名前は……〝ポチ〟だな。」
その瞬間、犬型動物から目映い光が発生した。そして俺の右手の甲に黒色の紋章が現れた。
「なんだコレ…契約の紋章か…?。タトゥーみたいだな。」
『主ぃ、ポチって名前はひどいでしゅ』
「なんだ?ポチが喋ってるのか?」
『そうでしゅ。従属契約をしたから念話が出来るようになったんでしゅ』
「従属契約って…魔法か? 俺にそんな能力あるのか…?」
『この世界は従属可能な生物の双方合意があれば誰でも契約可能なんでしゅ』
「マジか!!まるで異世界ファンタジーだな。契約の破棄って出来るのか?」
『双方が契約破棄に合意したら契約解除できましゅ』
「ん~、そういえば従属契約した瞬間、何となく契約の内容を理解した気がする。」
『でしゅでしゅ。ただ命令の強制とかはできないでしゅ。互いに傷つけるような事もできないでしゅ。互いが遠くに離れると契約は強制解除になりましゅ。双方の居場所なんかも感じることができなくなりましゅ』
「そっか、しかしお前…、なんで語尾が "しゅっしゅ" な喋り方なんや?」
『知らないでしゅ!主が理解できる言語に変換されてると思うんでしゅ』
今日から微妙な従魔(ペット)が増えたのであった。
------余談------
「お前ちょっと触らせてや。」
『やめるでしゅ。ワシ気高きホワイトウルフでしゅ。イヌと一緒にしちゃダメでしゅ!』
「お前、狼やったんか。」
『でしゅ。ワイは強いんでしゅ。』
「じゃあ何で死にかけてたんや?」
『あ~、それはアレやコレやがあったんでしゅ。つまり不可抗力でしゅ』
「意味がわからんな…。しかし、その喋り方なんとかならんのか?」
『主の言語意識を変えたら大丈夫と思いましゅよ?』
「まあいいか、言語意識を変えるってなんか面倒だし。」
『そうでしゅか』
「なあ、お前オスか?」
『でしゅ』
「うーん…、やっぱりその喋り方はイラつくな。俺も言語意識を変える努力するわ…」
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