第9話 スライムの討伐

 回復の手段を得て生存の可能性が高くなったと感じた俺は、モンスターを倒したら強くなると思い討伐のために行動を開始する。


(ゴブリンは無理だがスライムなら倒せるな)

(当たり所が良ければ一撃だしな。この付近でスライムを倒して試すか…)

(アレはゼリーみたいやし、まだグロくないしな)


 血肉の飛び散る生物型モンスターは時期尚早と感じ、非動物型のスライムにターゲットを絞る。5分ほど密林の奥に入り木の上から投石で討伐することにした。


 大きめの木に上りスライムの接近を待つ。


(この石を投げて潰したいが遠かったら当たらない)

(真下まで来るのを待つか…)

(まずは観察からだな)


それから30分ほど経過して


 ガサガサ


(来たか!)


 ガサガサ


(うわー、キモイなぁ…潰れたゼリーが動いてる)

(アメーバみたいだな)

(ん?なんか内部に玉があるな)

(あれは核か?潰したら倒せそうだな)

(よし!真下に来たら攻撃だ)


 ガサガサ


(今だ!!)


 ビュン ズボッ!


 べちゃっ・・・


(弱っ!! 楽勝じゃねーかw)

(アイテムは落とさないのか? うーん、無さそうか…)

(もう少しスライムを倒してみるか)


それから2時間ほどでスライムを5匹狩った。途中で身体が熱を帯びる現象が発生したのだが、レベルアップ的な現象と思い、狩りを続行していた。


(ふぅ…強くなったか?)

(たぶんあの熱を帯びた現象はレベルアップだな)


木からヒョイと飛び降りて次の行動を開始する。


(すげぇ!体軽っ!オリンピック出たら優勝だな!ははは…)

(これならスライムを直接叩いて潰せそうだな)


 今ならゴブリンにも勝てそうな気がするが、血肉に対する耐性がないため無理と判断。だが中型犬ぐらいの生き物だと勝てるような感覚はあった。


(今はお昼ぐらいか?)


 もう少し周囲を探索してパパイヤ以外の食い物とか探すことにする。パパイヤ以外の物も食べたい。特に肉を食べたいが動物の解体などしたことがない。出来る気がしない。

 気合いを入れて小型ぐらいの動物を狩り、血肉に耐えれば可能かとは思うが…


(ゴブリンは匂いが凄かったから食べられるとは思えないけどな)


 人は食への欲求が強い。可能なら生物型モンスターを狩ろうと考える。そしてスライムの戦闘場所から移動し、拠点へ戻りがてら密林を探索する。しばらく歩いていると大きな木の根付近に倒れている「白いぬいぐるみ」の様な物体を発見した。


(なんだ?オオカミっぽいな。そんなに大きくないな。アレなら勝てそうだな。)

(犬型だけど犬じゃないはず!パパイヤだけの食事も限界だし覚悟を決めるか)

(今日は肉を食べる!!)


音を立てないようにそっと白い犬型動物に近づく。


(まだ気づいてないな。イケる。今だ!!)


石斧を振り上げ、犬型動物に叩きつけようとした時


(ん?怪我してるな。血が出てる。)

(あ~やっぱり可哀想だな…。よく見たら可愛い?っぽいし)

(仕方がないな。治療してあげるか…)


パパイヤの木が周囲に無いか見渡す。


(パパイヤの木は見当たらないか。さっきの所まで戻るしかないか)

(治療する前にアイツに触ったら噛まれそうだしな)

(よし、さっきの所まで戻ってパパイヤ取ってくるか)


折枝の目印を頼りにスライム討伐場所付近まで戻った。


 「お!あった。一個でいいか」


パパイヤを一つ取り、先程の犬型動物の場所まで戻る。黒曜石のナイフでパパイヤの果肉をスライスし、倒れている犬型動物の傷口へ当てようとしたそのとき


 『グルルルゥゥゥ!!』


 「うわ!怒っってる。なんか面倒になってきたな…」

 「うーん… このまま放置しとくか」


柴犬ぐらいの大きさで、白い毛、赤い目、そして大きな犬歯

 「うん。よく見たらあんまり可愛くないし。愛嬌もないし。」

 「それに赤い目怖っ! 牙も怖っ! うん。犬じゃないな。」

 「お肉になってもらうか…」


 グルゥゥ……

 ……ゥゥ


 「お、死んだ? いや、まだ生きてるな。気を失ったのか?」

 『………』

 「ん~、せっかくパパイヤ持ってから治療しとくか」


スライスしたパパイヤを犬型動物の傷口に当てる。


(さて、コイツどうするかな…)

(触ったら目を覚まして噛まれそうだしな… このまま放置するか)

(生きるも死ぬも己次第だしな)


さらにパパイヤを数枚スライスし、傷口に重ね貼りをして、残ったパパイヤをブロック状にカットして犬型動物の前に置く。そして、ふと軽く頭部を撫でてみる。


(フサフサだけど…ちょっと獣臭いな)

(まぁ頑張れよ。さてと拠点に戻るか)


 折枝の目印を頼りに犬型動物との遭遇地点から離れ、拠点へ戻る。

 途中、自身の体臭が気になる。


(クンクン ちょっと俺も臭いな)

(そういえば風呂入ってないな)

(誰もいないからいいけど。頭もちょっと痒いな…)

(戻ったら小川で水浴びでもするか)


途中でパパイヤを数個採取して小川添いの拠点に戻った。


 水浴びより先に火起こしの道具を作ろうかと考える。あの紐でグルグル回す道具を。いい感じの円盤に使える材料が無いか周囲を探索すると。


 「…あった」

 「うん。都合のいい円盤状の木材ですな…」

 「どなたか私の独り言を聞いているのではないでしょうか?」

 「…サバイバルナイフとか探しているんですが?」

 「充電されているスマホでもいいのですが?」


 《……ムリ…》


 「え?」

 「なんか聞こえた!!!!」

 「おい!! この状況を何とかしてくれ!!」

 「日本に帰してくれ!!」


 《………》


 「気のせいか…やっぱり。すこし頭が変になっているかもしれん。」


 声が聞こえた気がしたが、気のせいだと割り切り、火起こしの道具を作ることにする。余っていた紐と火起こし棒、円盤状の木材を使い、うろ覚えのまいぎり式火起こしセットを作成する。


(もう夕方じゃねーか)

(この道具を作るのにかなり時間掛かったな)


「さてちょっと試すか」


 グルン グルン


「ダメか。すごい難しいな」


 グルン グルン グルン グルン


「お、イケるか!」


………

……


まいぎり式の道具で火起こしは成功したが、肉も無く、寝床は木の上のため、明かり以外に用途が無く少し無意味だった。


 水浴びをしないと衛生的にも問題があるが、やっぱり面倒なので今日は止めることにした。明日の朝に浴びよう。


 焚き火の側に座り、ぼーっと火を見つめる。考えてはならないのだが、佐藤や鈴木の安否、今後の事を色々と考えてしまう。現時点では身体に問題は見当たらない。むしろ快調とも言える。


 この数日間、人との会話が無く、全て独り言。寂しい。不安が押し寄せる。


 「ダメだ。弱気になったら死ぬ。」

 「健全なる精神は健全なる身体に宿る」

 「どっかの誰かが言ってた」

 「身体は快調だ。精神も強くなってるはず!」


実際、この数日間の出来事で身体は地球では考えられないほど強くなっている。本人は自覚していないのだが、精神も地球時代と比較して強化されていた。


 「とりあえず寝るか。他にすること無いしな。」

 「明日は海水から塩でも作るか。そして魚か肉が入手できたらいいなぁ。」


枝の上の小屋に移動して横になる。

不安にならないように目先の行動予定で思考を埋める。

いつの間にかウトウトして意識が途切れていた。

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