第8話 生存への可能性

 日の出と共に目が覚める。夜は何もする事が無く就寝が早いためだ。


「あ~良く寝た。今日からどうしよう。」


 枝上の小屋から降りる。


「近々の救助は諦めた方がいいか…。とりあえずパパイヤ食べるか。」


 食事をしながら今後の行動方針を考えるが何も浮かばない。ここが異世界である事は受け入れたのは、少しでもリスクを軽減し最善と思える行動を行うためだ。


(レベルとか魔法とかあるのか?)

(スライムとか、ドラゴンとかもいるのか?)

(エルフは?獣人は?)

(ステータスウインドウとかはあるのか?)


「……」


「ス、ステータス…」


 やっぱり何も起きなかった。


「ファイヤ!」


 もちろん何も起きなかった。


「ウォーター!」

「サンダー!」

「みちょぱ!」

「ウインドウズ!」


 うん。何も起きなかったし、何も言ってない。

 魔法の有無やステータスが存在するかは不明であった。


(まさか呪文を唱える必要があるとか…って言っても呪文なんて知らないしな。)


 色々と気になる事が多かったが、とりあえずこの場所を知るために石斧を持ち、先日のゴブリンとの戦闘場所へ向かうことにした。


(ゴブリンって言ったら最弱モンスターのやったよな?)

(これに勝てなかったら確実に死ぬんじゃないか。)

(いっぱい倒したら俺のレベルとか上がるのか?)

(いや…たぶん上がるな。現時点の身体能力ですら以前と比較して異常だしな。)


 それから2時間ほど歩いて、先日の場所に到着した。


「うわ…グロ…。ゴブリンの死体、食い散らかされてるな。コイツに魔石とかあるのか?」


 ファンタジー要素の一つである魔石を思い出し、死体を確認をしようと近付いたのだが…


「無理無理!グロッ、キモッ、くっせぇぇぇぇぇ!」

「おぇぇぇぇぇぇぇ」


 異世界を受け入れても、感覚は地球の現実世界。不可思議な現象が発生しようとも結局は現代社会に生きる常識人である。


(なんか色々と無理。ここから離れるか。)


 探索往路は上限が3時間。当初に決めた予定時間。


(まだ1時間ぐらいは探索時間がありそうか)

(ここから奥に進めるが強そうなモンスター出たら危険だしな)

(少しだけこの周囲を調べるか。迷わないように枝を折って目印を付けて…)

(デカイ虫とか出たら嫌やなぁ)


 男性でも年を重ねると虫が苦手になる人が多い。子供の頃は虫が好きでも、いつの間にか苦手になっている。


 ガサ… ガサ…


(何かいる!! 早く隠れないと!!)


 ガサ  ガサ  ガサ


(ゆっくりだけど、こっちに来てるな…)

(べちゃっとした青いゼリー? す、スライムか!!)


 スライムらしき生物と遭遇したものの、生態が分からないため危険度の判定が困難だった。


(ヤツの移動速度は遅い。先回りして木の上からデカイ石を落としてみるか。)


 移動しようと静かに動いたその時、スライムが叫びだした。


『ピギーーー!』


「くそっ!見つかった!仕方がない!攻撃だ!」

「ふんがぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 石斧を振りかぶり突進する。スライムは体の一部から液体を噴出してきた。


「うぉっ! いでぇぇぇぇぇ」


 噴出された液体は「強酸」のような刺激を俺の左肩付近に与えてきた。しかし、突進している俺は止まる事が出来ず、そのまま振りかぶった石斧をスライム目掛けて振り下ろす。


「んがぁぁぁ!」


 無様な叫び声を上げながら、スライムを叩き潰す。


 べちゃ…


 当たり所が良かったのか、スライムが液状化して地面に浸み込んで消えた。


「ハァハァ… やったか?」

「うげぇ… ヒリヒリしてめっちゃ痛い。」

「あ゛~いでぇぇぇよぉ」


 洗うか、何かで冷やす処置をしようと考えていたところ、付近にパパイヤの木があった。


(とりあえずパパイヤの果肉部分で冷やすか。それから小川に行って洗うか…)


 パパイヤを一つ取り、黒曜石のナイフで割って炎症部分に当てたそのとき


「痛みが少し引いてく!? パパイヤに鎮痛効果なんてあったか?」


 しばらく炎症部分に当てていると


(おぉ、ほとんど痛みが消えたな。まだ赤くなってるがもう大丈夫っぽいな。)

(実はこのパパイヤってレア素材か?)


 現実ではあり得ない効果を目の当たりにして興奮する。

 そしてパパイヤの治癒効果が気になり検証をすることにした。


(痛いから嫌なんだが確証を得るため自傷の実験をもう一度してみるか…)


 黒曜石のナイフで左腕をほんの少し切る。チクリと刺し、少し血が出る。

 その傷口にパパイヤの果肉を当て、暫く待った。すると…


(マジか… 治った… このパパイヤは凄い素材だな。大発見じゃねーか!)


(これで、この先生きのこれるかもしれない。)


 などと小ネタを挟みながら、生存への可能性を感じるのであった。


(スライムの鳴き声ってどこから出てるんだろうな。)

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