第6話 新たな行動指針

 昨日は痛みのあまり意識を失いそのまま眠ったようだ。

 そして日の出と共に意識が覚醒する。


(痛くない。また回復してる?)


 再び体の痛みが消えていた。左腕の怪我も完治している。これは夢なのだろうか?

 この非現実な出来事に驚き、夢であると思い込んでしまう。

 今、この場所にいる事も、昨日の化け物のとの戦闘も。


 そして様々な可能性を馬鹿なりに考察した。

 そして、出た結論が「夢」である。


 現実的に体験した様々な状況を踏まえ、客観的に判断すると普通ではあり得ない。

 持病の腰痛が治り、10代のような体の軽さ、昨日の化け物、怪我の即日完治。

 非現実すぎる状況のため「夢」だと結論に至った。


(夢って痛みがあったか?)


 夢で死ぬぐらいの痛みを受けるとショック死すると記憶していたのだが…?

 しかし…夢だと決めつけるのには無理がある。それに昨日の化け物はどうみてもゲームに出て来る「ゴブリン」にしかみえない。そうなるとここはゲームの世界なのだろうか?夢でゲームの世界を体験しているのだろうか。


 思考を放棄しようと努力をしたが、この状況では無理と判断して結論を先送りにした。


 狼煙を焚いて、海岸にSOSを設置して、救助を待ち、可能な範囲で捜索して助けを求める。

 これが現実的な基本行動指針だった。


 未知の生物が生息する環境に人が生活をしているとは思えないし、救助船や航空機が飛来するとも考え難い。


(このままだとサバイバル生活になるのか?ゴブリンに怯えながら?)

(何なんだこの罰ゲーム、無理ゲーじゃねーか!)


 非現実な生物を目の当たりにし、武器が無いと自衛すら出来ないことを痛感する。

 夢か否か。今はそんな結論より現状を生き抜く事が大切だと考えて基本行動指針を変更する。


(よし。優先順位を付けて行動を考えるか)


 1.ゴブリンから身を守る

 2.食料の確保

 3.水の確保

 4.防御が可能な寝床の作成 or 確保

 5.怪我が治ったりする現象の検証

 6.簡単に火をつける方法 or 道具の作成

 7.パパイヤ以外の食料確保

 8.周囲の探索


(今、思いつくのはこんなものか)


 状況により行動の優先順位は変動する。今はこれ以上の内容が思いつかない。

 可能な限りの知恵を絞った結果、最優先は武器の作成から取り組むことにした。


(武器なんて作ったことが無い…)

(石ナイフ以外に何が作れるのか)


(弓? 紐が無い)

(槍? 穂先が無い)

(剣? 石じゃ無理)

(石…石斧……)


 石斧なら作れそうかもしれない。だが紐が無い。


 紐を作り出すため色々と思案した。木の皮か蔦の繊維ならいけるか?それらで紐作りを開始することにする。だが紐作りに必要な石ナイフが無いことに気付く。昨日のゴブリンの所で放棄したことを。


 昨日のゴブリンと遭遇した場所に取りに戻るのは危険と判断し、石ナイフをもう一度作成することにした。


(幸い小川沿いには石いっぱいあるな。良い石を探してみるか。)


 小川沿いを10分ほど歩いたところ


(お!? 加工に良さそうな石がある。真っ黒なガラスみたいだな。)


 黒い石を手に取り、他の大きな石にぶつけて加工をする。


 ガン! ガン!

 パキ パキ


(なんだコレ 加工し易いな。石器時代に使われた武器に似てるな。)


 少し形は悪いが、ナイフとして使えそうな形状に加工が出来た。


 偶然、発見したのは黒曜石。黒いガラスのような素材。しかし強度に不安があるため、武器とは考えずに道具として扱うことにする。その石ナイフを使って木の皮で紐作りに取り組み始めた。


(紐の材料になる木ってスルって皮が剥けるやっだったよな。)


 彼のサバイバル知識はようつべで見た動画程度しかない。動画で見た材料となる細い木を探す。するとそれっぽい木を見つけたので皮を剥いてみる。


 ガリガリ ベリベリ


 容易に皮が剥ける。紐の材料として使えそうな木だ。紐を沢山作れるように長く、そして多めに皮を剥ぐ。何本もの木から大量に皮を剥いだ。現時点で作れる武器は石斧ぐらいか。とりあえず紐は調達できた。あとはバットの様な強度が高い棒と斧刃みたいな石が欲しい。


(どこかに落ちてないか)


 棒と石を探して拠点近くの密林の浅いエリアを捜索する。すると使用に適した強度の高そうな木を発見した。幸運だった。使えそうな木材を入手することが出来た。


(あとは斧刃にする靴ベラみたいな形の石か。どこかに落ちてないか?)


 あとは斧刃部分があれば石斧は完成すると思う。引き続き周囲を捜索する。


(…落ちてた)

(……なんか怪しいほど都合がいいな)


 運が良いのか都合が良いのか、紐と靴ベラ石と強度が高そうな木を発見した。本人の強運なのか、人知を超えた要素なのかは不明だが、今は深く考えないことにした。材料が集まったのでとりあえず拠点に戻ることにする。道中、パパイヤを補充しながら拠点に戻り、紐づくりから始める。


 ネジ… ネジ… ネジネジ


 木の皮を割き、繊維にして編み込む。紐として使えそうな物に仕上がった。まだ材料が余っているので長い紐も作成することにする。


(ふぅ…もう紐はこれで十分だ。次は石斧本体だな。)


 バットのような棒に靴ベラ石を紐で縛る。そして紐でグリップ部分を作る


(よし。それっぽいのが完成したな)


 強度的に十分と思える石斧が完成した。次はその石斧を使い寝床の作成を行う。


(武器はこれでいい。食料はパパイヤがある。水は小川がある。)

(寝床だが木の上は安全なのか?地面で寝るよりマシだと思うが…)


 木の上に寝床を作るため密林浅部に入り、適した木を探す。


(…うん。なんだ、まぁ、凄くベストな木があったな。びっくりだな。)

(作為的なものを感じるが良しとするか)

(しかし大きな木だけど登れるか?)


 身体能力に不安があったのだが、ひょいと木に登る事ができた。身体が軽い。若き日のピークを越える身体能力だ。


(この太い枝の部分へ木材と紐を使って簡易的な小屋が設置できそうだな。)


 異常な身体能力の向上に違和感を覚えつつも寝床の作成を優先することにする。

 先ほど作った紐に木の棒を結び、簡易的な縄梯子を作る。あとは密林に落ちている木材をかき集め、石斧で縦に割り、板状加工をして床と囲いを木の上に設置することにした。


 そうして簡易的だが、木上の寝床を作り出すことができた。

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