第3話 水とか食べ物とか火とか

 砂浜を海に沿って歩き出す。右手は海で他に何も見えない。左手の数百メートル先は樹木が生い茂る密林と思われる。今日は曇りで良かった。晴天なら直射日光で体力の消耗が激しく、体力的に移動も困難となっていただろう。雨なら視界も悪く風邪をひくかもしれないし。


 密林は何の生物がいるか分からない。野生動物に襲われたりすると危険だから入れない。ならば海岸沿いを歩く方が人に会える可能性も高いし安全だと考えた。


 無理をしてでも歩く。身体が痛くても歩く。パニックにならないように現状を冷静に理解し、救助まで何か目的を持つようにする。


(悲観的に考えるな。パニックになる。)


「人に会い」 「助けを呼ぶ」 それを目的に歩く。


漂着地点から2時間程歩いた時のこと。


(もう無理だ…。体力が持たない。足も腰も痛みが激しい。)


 体が悲鳴をあげているので少し休憩することにした。

 砂浜の乾いた部分に座り休憩をする。

 2時間歩いても海と密林で何も分からない状況だった。


 この状況だと生命を維持するのも危険だ。水もない。食べ物もない。仮に食べ物は密林で入手したとしても水の入手が困難だ。


 この島は暖かく凍える心配は無いが、人が住んでいる気配がない。

 別の絶望感が生まれてきた。


(さっきのキャリーバッグに水とか無いか?中を見ておけばよかった。戻るのも遠いな…)


 この陸地を島だと考えているが未開の土地なら絶望的だ。無人島でもあまり状況は変わらないが。とにかく水の確保を優先に動くことにした。


 立ち上がり再び歩き出す。


 真っ白な砂浜に透明度の高い海は綺麗で、ゴミの一つも落ちてない。

 まるで高級リゾート地のようだ。

 旅行で訪れたなら最高の場所なのだろう。


 そんな場所だからこそ一抹の不安がよぎる。

 人の生活形跡が見当たらない。

 この場所は無人の可能性が高くなってきた。


 不安に押しつぶされそうな心を抑えながら1時間ほど歩いた時、海に流れ込む小川を見つけた。


「うぉぉぉ!! 水だぁぁあ!!」


 喉の渇きが限界だった。この瞬間は救助の事より生命維持の本能が上回った。


(たしか川の水はそのまま飲むと腹を下すって聞いたことがある)

(でも煮沸する方法がない…。)

(少量を飲んで小一時間ほど経過しても身体に異常が無ければ大丈夫か?)

(どうせ身体もボロボロだ。色々と考えても無駄だな。)


 海に近いと塩分を含んでいる気がしたので上流側へと歩き、小川の水を見てみる。


(水は澄んでるな。汚れとかは大丈夫だろ。)


 少し口に含む。


 ゴク 

 ゴクゴク 

 ゴクゴクゴク


 飲みすぎた…。腹下したらヤバイな…。

 喉の渇きに耐えられず『少し飲んで様子を見る』事を忘れていた。

 飲んだものは仕方が無い。しばらくお腹の様子を見ることする。

 次は密林に入り食べ物を探すことにした。


 太陽の位置からあと2時間ほどで暗くなると予想した。暗くなると密林での活動は困難だな。だが少量でも食べ物の確保は必要だ。日没ギリギリまで密林の浅いエリアを探索することにした。


(寝るのは海岸沿いの木の下でいいが、空腹はキツイな…)


 空腹を我慢しながら食料を探す。密林の浅いエリアでパパイヤに酷似した黄色い果実を見つけた。その果実をもぎ取る。可食果実に見える。食べられるはず。


 食用可否の判断は少し口に入れ、口内に異常が出ないかを待つ。だったか。

 可否判断を行うため黄色果実を石に叩きつけて割る。


(見た感じ美味しそうだ。毒はないと思いたい…)


 そして素手で果肉をもぎ取り、口に含む。


 パクッ 

 パクパクッ 

 パクパクパク 


「うまっ!」

「ハッ! さっきの水と一緒のパターンじゃないか。」


 念のため5個ほどの黄色果実を採り海岸へ戻る。

 全身が痛い。足が特に痛い。死を覚悟をするほどの状態だった。


 そして日が暮れた。


 夜間は焚き火で安全を確保する必要があるな。

 「動物は火に映る人を怖がってる。」と聞いた事がある。知らんけど。

 だがイノシシなど、火に突進する動物も存在する。と何となく思い出した。


(ダメだな。中途半端でまともに覚えてない。)


 考えがまとまらなかった。そして火を起こす方が安全だと決めた。


(まぁいいか。とりあえず焚き火だ。)


 乾燥した草と木を探して焚き火の材料にする。タバコ用のライターを探すがポケットには入って無かった。


(原始的な方法で着火できるのか? それしか方法が無いか。)


 出来るだけ真っすぐな棒と台座の木を選び、乾燥した草を砕き"おが屑もどき"を作って火起こしに挑戦する。


 ゴリゴリ ゴリゴリ ゴリゴリ


「手が痛い……」


 ゴリゴリゴリゴリゴリ


(これは…無理か…映画じゃ簡単に火が付いてたのだが…)


 気合を入れ全身全力で棒を摩擦する。

 煙が出てきた。早く息を吹いて火を強くしないと種火が消えてしまう。


 火起こしに2時間ほどかかって焚火が完成した。

 気付くとお腹などに体調の異常は無い。

 水と黄色果実は摂取しても大丈夫らしいな。

 黄色果実はパパイヤと呼ぶことにするか。


 焚火に多めの木を投入した後、いつの間にか寝ていた。

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