第4話

 トオルとは学生時代の中で、とても多くの話をした。結論だけ見れば彼は僕の助け舟であり、そして一番の親友だった。よく笑い、よく話し、よく泣き、よく怒る。そんな彼の周りにはいつもたくさんの人々がいて、でも彼は、誰よりも僕を気にかけてくれていたように思う。

「セックスを見られるってのはさ、心の内側を見られたのと同じだと思うんだよな、俺は」

 いつかの日。かれは僕にそう話した。彼らしくない哲学的な言い回しに僕は思わず吹き出してしまう。

「あ、おい今笑ったな。ちくしょうお前なら分かってくれると思ったのに」

「シズカさんにも笑われたの?」

「ああそうだよ、『トオルには向いてないよ、そういう堅苦しいの』って。別に堅苦しいつもりはこれっぽっちもないってのに」

「そこは僕も同意見だなー。もっとすっからかんなこと言ってた方がトオルらしい」

「別に中身なんかねえよ。ただそう思ったってだけ。ま、童貞様には分かりゃしませんかー」

「あっおい人が気にしてることをずけずけと」

「気にしてるんならさっさと卒業したらいいんだよ。いつも言ってるじゃん、『3Pしていみたいからやろうぜ』って」

「なんで君らはそう性に対して興味津々で明け透けなんだよ!」

「誰にでもなわけないだろ、ここまで明け透けなのはシズカとトオル相手くらいのもんさ」

「シズカさんはともかくどうして僕なんだよ……」

「そりゃまあ、勃起した息子を見られた仲なわけだし」

「……冗談だろ?」

「冗談じゃない。俺は本当に、心の内側を見られたと思ってるんだよ」

 いつもはおちゃらけて話す彼が真剣な顔をしてそう話すものだから、思わず僕も神妙な顔をしてしまったことを覚えている。そんな僕の顔を見て、彼はフラっと話題を変えた。

「つかさ、いつまでもシズカ“さん”はないだろシズカ“さん”は。そんなんだからお前はいつまで経ってもなあ…………」




 反対にシズカさんとは、あまり二人で話をしなかった気がする。話をするときはほとんどトオルと一緒で、数少ない二人で話した会話もほとんどはトオルに関してのことだった。

「『3Pしよう』って、あれ、本気なんですか?」

 いつか、彼女にそう聞いてみたことを思い出す。それまで僕は、それはトオルの冗談だと思っていたし、冗談で合ってほしいと思っていた。だから彼女の返答には、大層驚いたものだった。

「うん、本気だよ。なんで?」

「なんで……って。いやだって、普通言わないでしょうそんなこと」

「普通の人はクラスメイトのセックス覗き見たりしないでしょ」

「それ持ち出すのはズルでしょ……」

「ズルでもなんでも、そうなったものはそうなったんだからしょうがないでしょ。わたしのセックス見たのは今のところ三人しかいないんだし、その中で3Pしようと思ったら全員に声かけるしかないじゃない」

「いやだからって」

「別にしたくないならしなくていいの。私たちがしたいってだけだし」

「そもそもどうしてしたいんですか」

「やってみたいことをやるのがそんなにおかしい? 出来る機会があるからやる。青姦のときと同じ。ただそれだけのこと」

 普通のことのようにそう言われて、僕は言葉に詰まってしまった。彼女は続けざまに、僕を見つめこう言い放った。

「そういうこと、マサトにはないの?」

 藍色の瞳に見つめられ、僕は再び言葉に詰まる。今度は、いくら待っても、彼女は口を開かなかった。長く逡巡したのち、僕はゆっくりと口を開いた。

「あります、けど。そこまでしてやってみたい、とは思わない、です」

 やりたいことはあった。輝かしい人生の栄光。瑞々しい学生生活の彩り。熱くとろけるような、彼らのようなセックス。してみたいと思わなかったわけじゃない。けれど、それを自分からしようとは思わなかった。

「そう。じゃああいいけど。私たちも、無理にしようとは思わないから」

 彼女はその後ろに、「でも」、と続けた。


「好きなんじゃないの。私のこと」


 「遠慮なんてしなくてもいいのに」と、そう呟いた彼女の顔はどこかつまらなそうだったのを覚えている。

 そのときの答えを、僕は未だに出せずにいた。

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